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第41回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

「元気企業の法則」を探れ①
~「価格の多様性」に着目したTKP貸会議室ビジネス~

「あの会社、不況の中でもすごく“元気”だよ!」――スモールサン会員の方から、そんな「元気企業」を紹介していただき、その会社を取材して「なぜ、どう元気なのか」を分析する。この作業を積み重ねていけば、やがては“元気企業の法則”が見つかるのではないか。そう考えて、この間、会員諸氏に「元気企業」の紹介をお願いしてきた。

 今回は、千葉県のスモールサン会員である猪瀬忠彦氏にご紹介いただいた(株)TKPの貸会議室ビジネスを取り上げることにしたい。

たった1人で始めた貸会議室ビジネスが、5年で従業員250名の会社に!

 インターネットなどで貸会議室を探した経験のある人なら、おそらく一度や二度は「TKP」の三文字に出会った経験があるにちがいない。(株)TKPは、全国主要都市に500室を超える貸会議室・研修施設・貸オフィスなどを直営している。創業してまだ5年しかたっていない。まさに業界ナンバー1の急成長企業である。

 同社の施設が、民主党政権の「事業仕分け」の会場として使われたことから、最近はメディアで取り上げられることも増えた。会員諸氏の中には、「TKPをテレビで知った」という方も少なくないだろう。

 猪瀬氏のご紹介で、私が同社の河野(かわの)高輝社長を訪問したのは、去る7月26日。たんなる好奇心からあれこれ質問する私に、河野社長はもったいぶることもなく、多弁に自社のビジネスの特徴を語ってくれた。「やる気」あふれる37歳の若き社長である。

 貸会議室ビジネスをはじめたきっかけは?――これが私の最初の質問。

「伊藤忠商事を辞めて何をやろうかと考えていた5年前、ある人の紹介で、今の六本木ミッドタウンの近くにあった3階建てビルの2階と3階の2フロアを、通常の3分の1の家賃で借りられることになったんです。会社を辞めたばかりで『失業中』でしたが、『この値段なら何とかなる』と思って借りることにしました。

 なぜそんなに安かったのかというと、このビルは取り壊しが決まっていたんですね。ところが、1階のレストランが出ていかない。まだ交渉中だったんです。かといって、空き室のまま放っておくのももったいないので、立ち退きが決着するまでの間、安くていいから誰か借りてくれないかということになったわけです。

 そこで、私は『3ヶ月前に通告されたら、無条件ですぐ出ていきます』という念書を入れ、そのかわり格安で借りることにしました」。

「そうしたら、たまたま近くで工事をしていた建設会社が、現場事務所として1フロアを借りてくれたんです。もう1つのフロアも、近くのいろんな企業が時間制で借りてくれて…。

 もともと通常の3分の1の値段で借りていましたから、いわば仕入価格が非常に安い。結果として、予想以上の利益が出ました。そこで、『よし、このビジネスモデルで行こう!』と思ったんです。」

 同社はいまや従業員250名を抱える企業であるが、それを支えるビジネスの基礎は、あくまでも河野社長のこの時の体験にある。

「正当な価格」は多様でありうる~この事実に着目したビジネスモデル

「正当な価格は、1つではない」。この、「価格の多様性」というものに着目したのが、御社のビジネスモデルだといってよさそうですね。――河野社長の説明を聞いて、私はこう念を押した。社長は「その通りです」とうなずいてくれた。

「一物一価(いちぶついっか)」という言葉がある。1つのモノには、1つの価格がつくという意味。私たち経済学者は、これを前提に議論を立てる。しかし、現実はそれほど単純ではない。

 河野社長が享受した「通常の3分の1の家賃」はまさにこれにあたる。それは、決して不当な低価格ではない。「立ち退き交渉が決着するまで」。「3ヶ月前に通告されたら、無条件で出ていく」。この2つの条件が付与されれば、それは「正当な価格」であるだけでなく、「空き家で放置しておくしかない事情」を抱えたビルのオーナーからすれば、むしろ「ありがたい価格」だったはずである。

 河野社長はこう説明する――

「例えば2年以上貸すのであれば、『月4万円もらわなければ貸せませんよ』という物件であっても、1年で出ていってほしいとか、半年だけ貸したいという事情がある場合には、貸し手は『3万円で貸してもいい』ということになります。

 他方、借り手の側はこれと反対です。2年以上借りるのであれば、『月4万円以上は払えませんよ』という物件であっても、半年だけ借りたいとか、研修に使うから3ヶ月だけ貸してほしいといった場合なら、『月5万円払ってもいい』ということになります。そこで、TKPが3万円で借りて5万円で貸せば、月2万円の利益を得ることになるわけです」。

 同じ物件がニーズによって高くも安くもなる。TKPがやろうとしているのは“「安くても提供したい」という供給”と“「高くても手に入れたい」という需要”をつないで高利益を得る“賢いビジネス”なのである。

「情報の収集」で社会の“ムダ”を減らす~時代の要請に応えることが“元気の源”

「価格の多様性」はいろいろな所に見いだせる。例えば、平日にはほとんど稼働していない結婚式場。仮に土日に結婚式場としてそのスペースを借りれば賃料は高くなるが、これをほとんど活用されていない平日に貸会議室として使用するのであれば、もともとほとんど利益を生まない物件なのだから、相当安く借りられるはずである。

 実際、TKPの2号店は、赤坂の結婚式場を平日に会議室として時間貸しするというものであった。

“「安くても提供したい」という供給”は、そうでなければ「空きスペースとしてムダになってしまう」という事情を背景にもっている。他方、“「高くても手に入れたい」という需要”には、そうでなければ「もっとムダにコストをかけることになる」という不便が隠されている。

 そんな「ワケあり」情報を収集し、たくみにこの両者をつないでいくTKPのビジネス。それは、環境面からも経済面からも、“ムダの排除”が重要な課題となっている現代社会の要請に応えるものだといってよい。こうした「時代との整合性」――そこにこそ、同社の“元気の源”があるのかもしれない。

(2010.8.2執筆)

(2010年/スモールサンニュース8月号より)

第40回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

唐突な「消費税増税論議」の奇妙
~選挙で一体何を「問うた」のか?~

 菅首相が「消費税10%」を口にしてから、消費税増税が突如、参議院選挙の争点として、浮上することとなった。「税を問うことは国の形を問う」ことでもある。したがって、増税論議が堂々と選挙の争点になること自体は、民主主義の証しとして歓迎されてしかるべきことである。

 しかし、そうであればなおさら、選挙に突入する相当以前から、このテーマに関する各党の考え方が鮮明に国民に提示され、国会の場などを通して、国民の目の前で活発な論議が交わされていなければならなかったはずである。

 そうであって初めて、国民はその投票行動で、自身の考えを示すことが可能になる。ところが、今回は選挙公示の数週間前に、突然消費税増税が争点として浮上した。これでは、有権者は戸惑うばかりである。

菅首相の「勘違い」がきっかけ?

 唐突な消費税増税論議の背後には、いわゆる「ギリシャ危機」があると言われている。菅首相が財務相の時にギリシャ危機を目の当たりにしたことが、消費税増税論議につながったのだと言う。岡部直明氏は、日経新聞のコラムで次のように書いている。

 ユーロからの警鐘が菅首相を動かしたのは事実だろう。財務相として参加した、G7やG20会議でのギリシャ危機をめぐる論議を、「対岸の火事」とは思えなかったはずだ。「財政再建に取り組まなければ、国際通貨基金(IMF)が箸(はし)の上げ下ろしまでコントロールすることになりかねない」と語る。[日経新聞6月21日]

 もし、これが事実だとしたら、今回の消費税論議は、菅首相の「勘違い」から始まったことになる。「勘違い」は菅首相だけではない。コラム執筆者の岡部氏自身が、次のように続けている。

 IMFは、すでに消費税増税など警告を発しており、ここで財政再建に踏み出さなければ、IMFの監視下におかれかねない。

 日本が「IMFの監視下」におかれるとすれば、当然のことながら、それは日本がIMFから融資を受けた時である。IMFは融資と引き換えに相手国に対し、財政再建策や経常収支黒字化策などについて、さまざまな条件を付してその実行を迫る。これを、コンディショナリティー(貸し出し条件)と言う。IMFに「箸の上げ下ろしまでコントロール」されるとは、こういう事態に陥った時のことである。

自国通貨建て債務が原因で、「IMFの監視下におかれる」ことなどありえない!

 たしかに、日本の政府債務はGDP(国内総生産)の180%程度に達しており、120%程度のギリシャよりも、重い債務を数字上は抱えている。しかし、スモールサンニュース前月号の「インタビュー:景気を読む」を読まれた方はすでにご承知だと思うが、日本国債はすべて円建てである。外貨建ての国債は、1980年代をもって、すでに残高ゼロになっている。

 したがって、仮に政府の国債償還が困難になっても、その際不足するのは「円資金」であって外貨ではない。とすれば、IMFに融資を請う理由もないはずである。日本銀行が国債を買い支えれば、済むことだからである。

 仮にIMFに融資を依頼しても、断られること必至である。IMF側は、おそらくこう言うに違いない。「なぜ、自国通貨の融資をウチに依頼するんですか? 日銀に行ってくださいよ!」と。

 IMFから融資を受ける必要がない以上、当然のことながら「IMFの監視下」におかれることもない。つまり、日本がIMFから「箸の上げ下ろしまでコントロール」されることなど、心配する必要はまったくないのである。

 アジア通貨危機の時も、リーマンショック時の混乱期も、IMFが融資するのは、その国にとっての「外貨」である。自国通貨を自国の中央銀行が発行できない、ユーロ圏のギリシャのような場合を別にすれば、自国通貨建て債務が原因で「IMFの監視下におかれる」ことなどありえないのである。

 こんな当たり前のことを一国の首相、しかも前財務大臣が理解できていないとしたら、それこそ国民にとって悲劇である。仮に知った上で言っているとしたら、ずいぶん国民を愚弄(ぐろう)していることになる。

 ちなみに、これに同調している岡部氏は、日本経済新聞の経済部記者を経て、現職は同社の専務執行役員主幹である。一体、日本の経済ジャーナリズムはどうなっているのかと、がく然とせざるをえない。

必要なのは“冷静な議論”

 もちろん私は、「日本は何もしなくていい、安心だ」と言っているわけではない。ただ、「冷静な議論」が必要だと主張しているにすぎない。

 本気で「IMFの監視下」におかれることを心配するのであれば、懸念しなければならないのは財政赤字ではなく、経常収支赤字である。経常収支が赤字化すれば、いずれ外貨不足が起きる。その際にはIMFからの融資を仰ぐことになり、結果として「IMFの監視下」におかれるという事態も起きかねない。とすれば、それを防ぐための課題は、日本産業の国際競争力強化であって、いわゆる政府の「借金減らし」ではない。

 また、菅首相が言うように、消費税増税による税収増を医療・福祉・環境など、国民のニーズに沿った産業の育成や雇用の増加に役立てるというのであれば、そのための効率的な財政支出の在り方や、必要な制度改革こそが論議されなければならない。その上で、どの程度の増税が不可避なのかが、国民に示されるべきである。

 その「絵」が明示されないままで、「消費税率10%程度」という数字だけが示されても、それが正当なものかどうか、国民は判断のしようがない。

 また、増税をもって財政再建・借金減らしを断行するのだというのであれば、消費税率を提起する前に、国民からもっとも見えにくく、政府不信の原因にもなっている「特別会計」の抜本的な改革が、実行されるべきであろう。

 その見通しも示されないうちに、消費税率だけが提示され、その諾否を選挙で「問う」のだと言われても、多くの国民は納得しないに違いない。

 いずれにしても、選挙の争点と持てはやされた唐突な消費税論議には、あまりにも奇妙な点が多すぎる。これでは、今回の参議院選挙が、一体国民に何を「問うた」ものだったのかさえ、釈然としない。選挙結果をあれこれ論評する前に、このこと自体が問題視されるべきである。

(2010年/スモールサンニュース7月号より)

第39回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

菅直人新政権への期待と不安
~中小企業支援は3点セットで~

 鳩山前総理の辞任を受けて、6月4日、菅直人総理大臣が誕生した。菅新総理がいわゆる「脱小沢路線」を鮮明にした人事を打ち出したことで、国民の民主党支持率も急回復を示している。その菅政権に私たちは何を期待すべきなのか。中小企業政策を切り口に、以下に若干記しておきたい。

鳩山政権はなぜ行き詰まったのか

 現在日本を取り仕切っている権力は3つある。1つは国会という権力。2つ目は官僚という権力。3つ目はマスコミという権力である。

 昨年の衆議院選挙で、国民は国会という権力の場で“主役交代”を実現させた。その国会での権力把握に基づいて鳩山政権が誕生したが、これに連動して残りの2つの権力に基本的変化が生じたかと言えば、決してそうではない。

 官僚もマスコミも、戦後初の「選挙による政権交代」という歴史的事実を簡単には受け入れようとしなかった。新政権が残りの2つの権力を掌握するには相当な時間が必要だったのである。

 ところが、鳩山首相は官僚もマスコミも掌握できないままで、沖縄の普天間基地移転という重い課題に挑んだ。それは、超大国アメリカを相手にハードな交渉を要する課題であり、その達成には、政権が国内に盤石な支持基盤を有していることが不可欠である。それは決して国会という1つの権力を得ただけで果たせる課題ではない。結果は、火を見るより明らかであった。

「国外、少なくとも県外」という首相の「思い」を体現して動く官僚は、外務省にも防衛省にもほとんどいなかった。その冷ややかなムードを反映して、岡田外務大臣は就任早々嘉手納基地への統合という「県内移設」案を打ち出し、北沢防衛大臣も「グアムは無理」と国外移設案を否定した。

 また、マスコミも鳩山首相の「思い」を「アメリカとの関係を悪くしかねない危険な政策」と位置づけて批判的論調を繰り返した。鳩山首相の敗北宣言はまさに「時間の問題」だったのである。

中小企業支援は3点セットで

 さて、リーマンショック後、世界の市場も産業も「100年に一度」という言葉に値する劇的な構造変化を遂げようとしている。そうした時代にあって、日本の「財産」とも言える中小企業群の活力を維持し、それをより強靭なものへと発展させていくことは、今日の政治に課せられた最重要課題の1つである。

 そのためには、以下の3つの施策が3点セットで実施されなければならない。

 1つには、「中小企業憲章」の制定である。

 EUには「小企業憲章」があり、EU各国はこの憲章に基づいて政策を実行していくことを約束している。その基本姿勢は「Think small first」(小企業を第1に考えよ)である。その基本理念に基づいて行動計画を策定したり、欧州委員会によるフォローアップが行われている。

 民主党は前回の衆院選でマニフェストの中に「中小企業憲章の制定」を明記した。実際、鳩山政権下で憲章文の作成作業も行われてきた。私は同省の「憲章」研究会のメンバーとしてその作業に関わってきた。

 重要なのは、これを単なる作文に終わらせないことである。まずは国会決議を通して、その基本理念を「中小企業立国宣言」として国の内外に高らかに宣言することからはじめなければならない。残念ながら、中小企業庁はこれを「閣議決定」にとどめる方針である。

 2つには、「中小企業担当大臣」の設置である。

 ちなみに、09年8月号ニュースに記したように、「中小企業担当大臣」の必要性を民主党の『政策集』にはじめて明記したのは菅氏である。

 2002年12月頃だっただろうか。民主党代表に就任したばかりの菅直人氏に呼ばれ、中小企業の現状や中小企業政策について1時間ほどレクチャーしたことがある。…… その際……菅氏に重要な施策を提案したことを覚えている。それは、「中小企業担当大臣を設置したらどうか」というものである。菅氏は私の提案に強い興味を示し、以後民主党の『政策インデックス』の中に――残念ながらマニフェストには記載されなかったが――「中小企業担当大臣の任命を検討する」という一文が明記されるようになった。 (スモールサンニュース8月号より)

 3つには、総理を議長とする「中小企業支援会議」の設置である。

  すでにニュースや一斉メールで繰り返し述べているように、日本の中小企業の発展のためには、経済産業省の一部局である中小企業庁が中小企業政策を取り仕切るという現在の体制から、関係省庁が連携しながら国を挙げて中小企業支援に取り組む体制へと発展させることが不可欠である。

  そのためには、総理を議長とし、関係閣僚が参加する「中小企業支援会議」の設置が必要になる。その実現に向けて、私も精いっぱいの努力を重ねてきた。その成果として、鳩山総理が国会で「中小企業支援会議を内閣府の中につくる」と約束するところまでこぎつけたが、鳩山総理の退陣とともにこの構想も振り出しに戻っている。

菅新総理は「国会以外の権力」とどう対峙していくのか

 次期参議院選挙に向けたマニフェストの中に「中小企業担当大臣の任命」を明記しようとする民主党議員に対して、経済産業省の官僚が「それは困ります」と阻止のための説得工作を行っていた。

  中小企業支援会議の設置についても中小企業庁はまったく非協力的であった。その意向を受けてのことかどうかはわからないが、経済産業副大臣が中小企業支援会議設置に反対を公言するという状況が鳩山政権下で続いてきた。

 普天間基地移転問題に比べたら上記の3点セットの実現は、はるかに容易である。しかし、それでも、この3点セットの実現のためには国会以外の権力、とりわけ官僚という権力を総理がしっかりと掌握していることが不可欠である。果たして、それが可能かどうか。菅新総理のやる気と力量が問われている。

(2010年6月7日筆)

(2010年/スモールサンニュース6月号より)

第38回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

中小企業の国際化”を考える!!
~求められる中小企業ネットワークの「国際化」~

「言葉」というものは不思議な力を持っているように思う。気に入った言葉、重要だと感じたキーワードを繰り返し口にしていると、だんだんとその意味することの具体的な姿形が見えてくる。「中小企業の国際化」という言葉は、私にそんな体験を与えてくれた。

 最初のきっかけは「中小企業支援会議」。縦割り行政に横ぐしを入れて、政府が一体となって中小企業支援に取り組むためには、首相を議長とする「中小企業支援会議」の設置が必要である。すでに一斉メールやスモールサンニュースでお知らせしたように、私はそのことを官邸で中山首相補佐官に提言した。その際、「では、どんな支援が必要だと考えるか」と問われ、今求められているものは「金融支援」「国際化支援」「新分野開拓支援」の3つだと答えた(スモールサンニュース09年12月号参照)。その時以来、「中小企業の国際化」は、私にとって最も重要なキーワードの1つとなった。

バイドゥー(Baidu、百度)の提案

「中小企業の国際化」をどのように支援するか。その具体策を練るべく、ジェトロ(日本貿易振興機構)の関係者からヒアリングを行うなど情報収集に努めてきた。その情報収集の過程で、実にいろいろな人たちとのつながりができた。その一人に、バイドゥー(Baidu、百度)の駐日首席代表である陳海騰氏がいる。

 ご存じの方も多いと思うが、バイドゥーというのは中国の代表的な「検索エンジン」である。インターネットで何か調べたいという場合、日本人の多くはヤフーやグーグルの検索サイトから入っていくが、中国の人たちはほとんどの場合バイドゥーを使う。「百度」というのは、その漢字表記である。

 バイドゥーの検索エンジンシェアはグーグル、ヤフーに続いて世界3位。中国ではもちろんトップである。

 中国のインターネット利用人口は3億人と言われている。その中国でのバイドゥーのシェアは70%以上に達し、利用状況は一日平均10億ページビュー、月間平均300億ページビューにも上る。そのバイドゥーの駐日首席代表である陳氏は、私にこう語った。

「中国のマーケットが急速に伸びているからといって、今まで中国と関わりがなかった中小企業経営者に突然中国市場に出ていくべきだと言ってもやはり腰が引けてしまいます。実際、リスクも高いでしょう」

「でも、中国人の多く、特に若い人たちはインターネットで買い物をしていますし、日本に関する情報もインターネットから得ています。したがって、日本の中小企業もまずはインターネット上にアンテナショップを出店して、どんな技術や商品が中国人にウケるかなどを調査・確認することから始め、『行けそうだ』となったら本格進出を考えればいいのではないでしょうか。わが社では、中国語への翻訳やどういうキーワードが検索過程で中国人の目を引きやすいかなど、いろいろアドバイスしています」

 ちなみに、陳氏が最近著した本の題名は『50万円でインターネットから中国3億人富裕層と商売する方法』(講談社)である。

 たしかに、例えば商店街の衰退が言われて久しいが、商店主は地元住民だけでなく、インターネットを通して中国の人たちに商品を売ることを考えてもいいはずである。そういうことが不可能でなくなった時代を、今私たちは生きているのである。陳氏の言葉を聞いて、「中小企業の国際化」のイメージがさらに広がった思いがした。

 そこで、私は陳氏の話をスモールサン会員諸氏に聞いてもらいたいと思い、早速同氏に会員向け講演をお願いした。陳氏は快く引き受けてくれた。本年6月23日18時30分から都内で開催する予定である。同氏の講演と私とのセッション、参加者とのディスカッションを通して、「中小企業の国際化」について考える集いにしたいと思う。興味のある方はぜひ参加してもらいたい。

    講演会 『中小企業の国際化~バイドゥ—(Baidu、百度)の提案~』

    ●日時:2010年6月23日(水) 18:30~21:00

    ●会費:スモールサン会員3,000円、非会員5,000円(ただし、スモールサン会員の代理出席は一人に限り3,000円)

    ●会場:東洋経済新報社 本社ビル 9階ホール
     〒103-0021  東京都中央区日本橋本石町1-2-1

    ※なお、会場の都合により、お申込者数が定員100名に達しました段階で、募集を締め切らせていただきます。ご了承くださいませ。

    <お申し込み方法>

    kondan@smallsun.jpまで必要事項(会員氏名・会社名)を明記の上、メール件名「6月23日講演会参加希望」にてお申込みください。

    ※非会員の参加希望者をご紹介頂ける場合は、上記アドレスまでメールにてお知らせください。

「ロシアの支柱」との出会い

 これも、すでに一斉メールでお知らせしたが、本年4月30日、ロシアの中小企業団体「ロシアの支柱」(OPORA‐DRUZHBAオポラ・デゥルーズバ)がスモールサンを訪問してくれた。

「ロシアの支柱」はロシア全土に81カ所の支部を持ち、35万社を有するロシア最大の中小企業団体。総雇用数は500万人にも達する。9年前にプーチン大統領の肝いりで設立され、現在は中小企業に関わる政策や法整備を政府に直接提言できる立場にある。国境を越えたビジネス交流を積極的に進めたいとの考えから、代表団が来日した。

 一斉メールには会談の概要を示し、「ご意見やご感想を私あてにメールして下さい。皆さんからの反応が多くあるようでしたら、スモールサンとしても今後『ロシアの支柱』との交流を深め、ロシアビジネスに関するセミナーなどを開催していきたい」と記した。

 結果的に10通を超えるメールをいただき、同団体とスモールサンとの交流を今後積極的に進めていく決意を固めた。「ロシアの支柱」の日本支部は本年8月後半に立ち上がる予定である。それ以降、スモールサン会員向けに交流会やセミナーをたびたび実施していく予定でいる。

 会員からいただいたメールには、ロシア企業とビジネスを進める上の難しさなどが列記されていた。たしかに、商習慣の違い、進まない法的整備、突然の政策変更など、国境を越えたビジネスを展開するにあたっての障害は少なくない。

 しかし、多くのメールは、「だからこそ、『ロシアの支柱』との交流を進めてほしい」というものであった。私は、こうしたメールを読んで、「中小企業の国際化」には中小企業ネットワーク間の国境を越えた交流が不可欠だと実感した。

中小企業ネットワークの「国際化」

 振り返ってみれば、バイドゥーの陳氏が快く講演を引き受けてくれたのも、「ロシアの支柱」が私のもとを訪ねてきてくれたのも、私が1400名もの中小企業経営者が参加するネットワークを主宰しているからである。

 とすれば、スモールサンという中小企業ネットワークの「国際化」が、個々の中小企業の「国際化」を支援することになるはずである。

 スモールサンはたんなるメルマガ配信組織ではないし、またそうであってはならない。そんな思いを会員諸氏と共有しつつ、今後も「中小企業の国際化」という課題を追求していきたい。

(2010年5月9日筆)

(2010年/スモールサンニュース5月号より)

第37回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

“支援競争”が始まった!!
~日本が「官民挙げて」の国際競争に後れを取る危険~

「官民挙げて」――この言葉が新聞の国際経済面に躍り始めた。リーマンショック後の未曾有の不況を契機に、各国で「官と民との関係」に変化が生じつつあることを示している。ところが日本では、「官から民へ」「民でやれることは民で」といった小泉政権時代のキャッチフレーズがいまだ頭から抜けない政治家やメディア関係者が多い。このままでは、日本が「官民挙げて」の国際競争時代に後れを取ることは必至である。

「官民で輸出促進」~「5年で2倍の輸出」を目指すアメリカ

「米 官民で輸出促進」――3月12日付日経新聞はこう見出しをつけて、オバマ大統領が打ち出した「輸出倍増」計画の推進案について報じている。その具体的内容は――
1.国務、財務、商務などの長官で構成される「関係閣僚会議」を新設する。
2.「大統領輸出評議会」を再開し、会長にはボーイングのマクナーニー、ゼロックスのバーンズ両CEOが就任する。
3.企業の商談支援を狙い、各国に派遣している大使に「通商外交」に取り組むよう指示。
4.官民一体の貿易使節団を年内に40以上構成し、海外に派遣する――というもの。

「民間主導色が強かった輸出振興で官民一体の態勢を整えて売り込みを展開」(同上日経新聞)しようというのである。アメリカと言えば、「経済は市場に任せるのがもっとも合理的だと信じる」市場原理主義者たちが政策を牛耳ってきた国である。小泉政権が「構造改革」と称して、そうした米国型市場原理主義を忠実に日本に持ち込もうとしたことは記憶に新しい。

 ところが、その米国が豹変しようとしている。今や「官民挙げて」「官民一体で」が経済政策の推進では合言葉になっている。こうした傾向はアメリカだけではない。

「官民挙げて」が功を奏した韓国

 昨年12月、UAEアブダビ首長国の国営原子力エネルギー会社が、アラブ諸国初となる原子力発電所の建設を韓国企業連合に発注することを決め、合意文書に調印した。

 韓国は、GE/日立を中心とする日米企業連合やフランス電力公社などのフランス連合を抑えて巨額プロジェクトを勝ち取ったことになる。李明博(イ・ミョンバク)大統領自らトップセールスを展開するなど、「官民挙げて」の対応が功を奏したのだと伝えられている。

 大統領府の尹政策室長が外交通商部、国防部、知識経済部、教育科学技術部、韓国電力などからなるプロジェクトチームを指揮し、経済、安全保障、教育などを網羅するパッケージプログラムを作ってUAEに提案した。それはまさに、国家の政策資源を総動員し、総合的パッケージを提起して勝ち取った受注なのである。

 ちなみに、李明博大統領はムハマド王子と6回電話で話し、外交経路を通じて親書も送った。そして、UAEで李大統領がハリーファ大統領と首脳会談を開いたその日、韓国の受注が決まったのである。

 受注には失敗したが、フランスもサルコジ大統領が中心になって、「UAEに駐在するフランス軍の増強」や「ルーブル美術館のUAEでの建設」など総合的な提案工作を展開した。

 このように、各国が受注に向けて「官民挙げて」の積極的な活動を展開していたことを知れば知るほど、日本の敗北が至極当然のことであったと思えてくる。

後れを取る日本~いまだ総合的支援策の必要が共通認識になっていない

 一言でいえば、国際市場では「支援競争」ともいえる状況が始まっているのである。日本も国家的レベルでの総合的支援策の策定とその実施が急がれる。現状を放置すれば、国際競争で後れを取ることは必至である。

 上記のように、アメリカ大統領は各国に派遣している大使に対して、企業の商談支援のために「通商外交」に取り組むよう指示したが、鳩山総理が外務省に対して、これに類似した指示を出したという報道はまったくない。

 日本では企業の海外ビジネス展開に対してはJETROが支援活動を行っているが、そのJETROがこのたび「仕分け」の対象となり、予算も縮小されかねない状況にある。ちなみに、韓国の同様の機関であるKOTRAは近年活発な活動を展開し、海外拠点も72カ国、99カ所に上っている。

 日本のJETROは現在71カ所、しかも予算上拠点増加は認められておらず、1拠点増やしたら1拠点減らすことを義務付けられている。――こんなことで大丈夫なのか。先行きに懸念を感じるのは私だけではないだろう。

 最大の問題は、支援政策がいまだ縦割り型行政の枠を越えられないことである。先日のスモールサン会員向け一斉メールで、鳩山首相が行政に横やりを入れるという意味で「内閣府に中小企業支援会議のようなものをつくりたい」と国会答弁したことをお知らせした。これを受けて、内閣府では現在「関連閣僚会議」設置の方向で準備が進められているが、そのペースはあまりに遅い。

 それもこれも、企業活動への総合的支援策の必要性が、いまだ国民の間で「共通認識」になっていないことに原因がある。私も、スモールサンを拠点にその「世論化」に、できる限り貢献したいと考えている。会員諸氏のご共感、ご協力を仰ぎたい。

(2010年4月9日筆)

(2010年/スモールサンニュース4月号より)

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