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第14回 「残業なし」は不可能じゃない!

3月 17th, 2007

元記事

残業代ゼロ法案だと騒がれた「ホワイトカラー・エグゼンプション」。安倍内閣は今国会での提出を見送ったが、いずれは提出する可能性を含んでいる。日本は企業も働き手も残業を当たり前として受け入れているが、果たして本当に残業は不可避なのか。

残業代ゼロ法案「ホワイトカラー・エグゼンプション」

2007年1月5日、安倍総理は「日本人は少し働きすぎではないかと感じている方も多いのではないか。家で過ごす時間は、少子化(対策)にとっても必要ですし・・・」と発言した。そして、一定の条件を満たすホワイトカラーの会社員を労働時間の規制から除外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」を提言した。これが導入されれば、本人の裁量で働く時間を決めることができるようになり、労働時間の短縮につながるという。

しかし、労働者側はサービス残業を合法化し、残業の増加を招くと猛反発している。結局、政府は、国民の理解が得られていないとして、国会への法案提出は難しいと判断した。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の正否を問う前にそもそも企業にとって残業は必要なのかを問うてみたい。「残業のない企業なんて、競争に負けてたちどころに消えていく」――なんとなくそう思っている日本人は多い。だが、本当にそうなのであろうか。「コレガ言いたい」の第14回は、この点に立ち入ってみよう。

「労働時間が長くて生産性が低い」という日本の実状

世界でも、長時間労働の国として知られる日本。厚生労働省の調査によると、日本の「年間総労働時間」は、アメリカ、イギリスなど他の先進国に比べてかなり長い(図表1)。また社会経済生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較」によれば、日本の労働生産性はOECDに加盟している30カ国中19位と、主要先進7カ国中では最下位の位置にある(図表2)。

図表1図1 年間総実労働時間の国際比較(製造業生産労働者 2003年) 厚生労働省「日本及び諸外国の労働時間等に関するデータ」より作成

図表2図1 食品の安全性に対する意識調査 財団法人社会経済生産性本部「2006年 労働生産性の国際比較」より作成

このような労働実態を招いた原因の一つとして、日本企業と働き手の”残業依存体質”が挙げられる。日本企業はすべての働き手を”企業戦士”として夜遅くまで会社に縛り付け、それを働き手の側も暗黙のうちに受け入れてきた。そうした非合理的な体質を変えなければ、労働時間も短縮できず生産性も上がらない。そこへ、中国のような安い労働力を武器にした途上国が台頭してくれば日本は敵わない。今、日本は残業依存から抜け出し次の段階へ進むべき時に来ている。

「残業ゼロ」でも会社は伸びている

年末年始19連休、ゴールデンウィークも夏期休暇も10日間。年間の休日は140日。火曜が祝日なら月曜は休み、木曜が祝日なら金曜を休みにする。残業は一切なく、16時45分を過ぎると社員は一斉に会社から居なくなる。

こんな会社がこの厳しい競争社会で生き残っていけるはずがない。多くの人がそう思うに違いない。ところが、この会社、700人超の従業員を抱えながら、近年の厳しい不況下でも200億円を上回る売り上げと15%以上の経常利益をちゃんと確保してきた。第二次オイルショック時に利益率が7%にまで低下したが、その後労働時間の短縮を徹底的に推し進めながら、利益率を倍以上に増やしてきた。

会社の名前は㈱未来工業。1965年現相談役の山田昭男氏が仲間4人で創業して以来赤字を知らない。電設資材メーカーのカリスマと呼ばれる会社であるが、だからといって、際立って「特殊な技術」をもち、それをよりどころに社員が「楽をしている」というわけではない。

「未来工業」に見る”残業なし”の効果

この会社が伸び続けるには理由がある。「残業なし」を目指したことが会社を強くしているからである。

  1. 第1は、徹底した低コスト経営の実現である。あらゆる市場が成熟化したといわれる今日、もはや長時間労働で売り上げを増やそうと試みても、その労働コストを賄えるほどの成果はなかなか得られない。高い残業代を支払って従業員に長時間労働を強いるよりも、残業を減らしてコストを下げることに力を注いだ方が、会社の利益にははるかに貢献する。さらに、その推進に全従業員を巻き込むことによって、従業員みずから経費と時間のムダを取り除くことに真剣に取り組むようになる。まさに、「時短」という課題が時代に見合った低コスト経営を導いている。
  2. 第2は、高精度の顧客管理・需要予測体制の構築である。社員個人にせよ会社全体にせよ、長期の休みを実現しようとする時、最大のネックになるのは顧客への対応である。注文を出したいのに会社が休みで応じてくれない。クレームを言おうにも担当者がいない。これではお客はどんどん逃げていく。そうした事態を避けるためには、注文予測をはじめ、顧客情報をよほど高精度に把握していなければならない。実際、同社ではそのためのソフト開発や顧客とのコュニケーションの徹底などに全社あげて取り組んできた。顧客管理・需要予想の高度化は現代経営のキーワードである。その意味でも、「時短」という課題設定が同社の強靭さを作り出している。
  3. そして第3は、不断の商品開発を伴う高付加価値経営の実践である。同社は毎年500以上の新商品を発表するなど、きわめて旺盛な開発力を有している。「使ってみると具合がいいというプラスアルファを付け加えよう」と、従業員たちは建設現場へと足しげく通う。スイッチボックスのねじ穴を斜めにすれば作業しやすい。電線管に1メートルごとに印をつければ使用量がわかる。そんなヒントを現場から得る。今や日本企業の競争相手は低賃金を誇るアジア諸国である。どんなにサービス残業を強いて労働の「量」を増やしても、労働コストの低さでは日本企業は太刀打ちできない。従業員一人ひとりが知恵を絞り、様々な工夫で商品に「付加価値」をつけることで労働時間の少なさをカバーする。こういう同社の経営戦略は、その意味でも時代に適合したものだといえる。

大企業でも”残業なし”の取り組み可能!?

残業なしの取り組みは大企業でも試みられている。去年から全社をあげて”残業なし”を徹底している会社「良品計画」。無印良品を展開する良品計画では、今年から大胆な策を打ち出した。

「毎日ノー残業」。残業時間が月に100時間を越えていた部署でも例外なく適用される。06年下期、無印良品は全社を挙げて”残業なし”を実践し、店舗では、すでに9月から閉店30分以内に業務を終わらすことが義務づけられた。勤務管理データによって作業実態を「見える化」したうえで、残業の発生要因を、店で解決できるもの、本部のバックアップが必要なもの、関連部署との連携が必要なものに分類し、1店ごとにワークスケジュールを組み直している。

本年1月以降、社員の夜7時以降の残業を原則禁止する。ベースとなるのが、本社の業務を各部ごとに標準化し、マニュアル化する業務標準化プロジェクトである。

どんな会社でも、やり方によっては”残業なし”は可能なのである。

コレが言いたい!――”残業なし”で強い会社になろう!――

労働規制というハードルは会社や経済を強くする。日本も途上国であった時代は労働規制がほとんどない長時間労働の国であった。戦後、8時間労働規制が敷かれ、週休2日制も近年徹底されてきた。

こうしたハードルによって日本経済が弱くなったのかといえばそんなことはない。労働規制の強化がむしろ日本経済や日本の企業を強くしてきた。安易な「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入はむしろ日本企業を弱体化させる危険性さえある。タダで残業させられるとなれば、上記の「未来工業」にみられたような会社を強くするための努力はどうしてもトーンダウンしてしまう。

今やむしろ”残業なし”という課題を、個々の会社が前向きに受け止め、それを企業体質強化のための契機とすることこそ「時代の要請」である。ただし、そのためには経営者と従業員がテーマを共有することが大前提である。

(2007/3/12 執筆)

第13回 2006年ニュースに見る 危うい国ニッポン!

12月 31st, 2006

元記事

今、日本はいろんな意味で「危うい国」になりつつある――2006年のニュースの多くが、あたかも私たちに警鐘を鳴らすかのようにそのことを物語っている。そこで、今年最後の「コレが言いたい」では、あらためてこの1年間のニュースを振り返ることにしよう。

危うい国・ニッポン(1)”医食住”が危ない!

かつて日本は、世界でも有数の安全な国と言われてきた。しかし、今、その安全神話が崩壊の危機に瀕している。

★耐震偽装問題 姉歯容疑者ら逮捕。
耐震強度偽装事件で姉歯秀次元一級建築士ら8人逮捕。偽造された構造計算書に基づき強度不足のマンションなどが建設されていたことは、住まいの安全を根底から覆した。
★米国産牛肉輸入再開の拭えない疑念。
米国産牛肉輸入再停止後わずか半年で輸入再開。安全性確保に疑念高まる。
★強行採決で 医療制度改革法成立。
「医療制度改革」という名の医療費窓口負担引き上げ。高齢者に厳しい負担増。

崩壊する「安全神話」

衣食住ならぬ”医食住”が危ない。2006年ニュースは、国民生活の根幹に忍び寄るさまざまな不安を露呈させた。

耐震偽装マンションの発覚は、国民の”住”への不安を衝撃的に拡大させた。「自分の住むマンションは大丈夫なのか?」と、多くの国民が不安に陥った。また、問題マンションの建て替えは、遅々として進まない。建て替えがなされればなされたで、二重ローンが住民たちの生活を圧迫している。なぜ、こうした事態が発生したのか。二度とこんな事件が起きないようにするには、安全確保のためのどのような仕組みづくりが必要なのか。8人の逮捕で事件は終息に向かったものの、原因究明も今後の対策も不十分なままである。

米国産牛肉問題では、”食”への安全が根底から覆されたといってよい。食品安全委員会プリオン専門調査会メンバー12人のうち6人ものメンバーが辞任するといった異常事態を引き起こしながらも、強引に米国産牛肉の輸入が強行された。同調査会のリスク評価は、輸入されるのは完全に20ヶ月齢以下の牛であることを前提としている。しかし、米国はトレーサビリティ(牛の生年月日個体識別)がなされていない。それは「安全」評価の根底が保証されないままの輸入再開である。また、厚生労働省と農林水産省の調査団視察が輸入再開の条件となっていたが、アメリカの牛肉処理施設への視察はマスコミ取材を全面的にシャットアウトしてのものであった。まさに日本国民の目を閉ざしての輸入再開である。ブッシュ政権は食肉生産者協会に弱いといわれている。結局のところ、輸入再開は、議会選挙を控えていたブッシュ政権に、小泉政権から送られた「プレゼント」ではなかったか。とすれば、それは日本国民の食の安全を犠牲にするという、あまりにも「高価なプレゼント」だったといえる。

長寿大国・日本の高齢者たちに降りかかる医療費負担増は、国民の将来への不安を増幅している。医療制度改革法成立後、窓口負担が増え、病院へ行く回数を減らさざるをえなくなったという高齢者は多い。「小さな政府」を標榜する安倍内閣の下にあっては、政府の医療関連支出をいかに小さくするかは今後とも追及される課題である。日本国民が誇りとしてきた医療に関するセーフティーネットがいよいよ縮小され、安全・安心は個々人が「お金で買うもの」ということになりかねない。

コレが言いたい!
――「自助努力」には限界がある―――

2006年は、まさに日本の「安全神話」が崩壊した年となった。農林水産省が行った「食品の安全性に対する意識調査」では、”どちらかといえばより安全ではなくなっている”と答えた人は45%にまで達している(図表1)。

図表1図1 食品の安全性に対する意識調査 農林水産省「安全・安心モニター第一回調査」より作成

その主な理由は、「輸入品や高度に加工された食品など、生産現場の見えない食品が増えたから」というもの。つまり、自分の目で安全を確認できないことへの不安なのである。

小泉総理は、米国産牛肉の輸入再開について「米国産が良いのか、日本産が良いのか、それぞれの好みもある。…個人の選択の問題だ」と語り、政府の責任を完全に棚上げし、個人の「自己責任」の問題に矮小化した。しかし、十分な情報が得られない環境のもとで「自己責任」を問うことはできない。だからこそ、国民は「不安」なのである。実際、混合肉の場合、米国産牛が50%に満たない場合には表示義務がないため、国民は米国産牛肉が混入されていることを認識すること自体できない。

重要なのは、国民の「自助努力」や「自己責任」には限界があるということである。医療や年金・福祉に関しても同じで、それが国民一人一人の「自助努力」では解決できない問題だからこそ、公的なセーフティーネットの充実が求められる。テレビ東京調査でも「年金や福祉に使うために消費税を引き上げることについて」、回答者の59.8%が「上げてもよい」と答えている。そこには、公的保障を求めている国民の声が明確に示されている。政治は何のためにあるのか。いまその根本が問われていることを強く指摘したい。

危うい国ニッポン(2) 企業のモラルが危ない!

うんざりするほど企業不祥事が連続し、国民の目をひいたのも2006年の特徴であった。

★堀江貴文氏らライブドア粉飾決算で逮捕。
★村上世彰氏インサイダー取引で逮捕。
★保険会社の保険金不払いで行政指導。
★消費者金融会社が融資や取立てで違法行為。
★三井住友銀行が融資先企業に金融商品購入を強制。
★パロマ工業製の湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故で21人死亡。
★シンドラー社製エレベーターで事故多発。1人死亡。

市場原理主義は企業モラルを低下させた!

図表2は、企業不祥事の急増ぶりを新聞報道件数で見たものである。

図表2 「不祥事の報道の件数」図2 不祥事の報道の件数 東京経済大学・駒橋恵子助教授の調査、日本経団連タイムス掲載

これを見るかぎり、小泉政権誕生以降の急増ぶりが顕著である。もちろん、これは直接には不祥事が発覚する件数が増加しているということであって、たんにこれまで潜在的にあったものが表面化してきたことを示すに過ぎないのかもしれない。しかし、小泉政権が推し進めた市場原理主義的改革が企業モラルの低下を招いている側面も無視できない。

1つには「事前的規制から事後的規制へ」という流れが鮮明化したこと。企業活動をできるかぎり自由にして、問題行為については事後的にチェックするという行政面での制度的変更である。このことが、企業の「やり得」的行動を助長した。いま1つは競争激化の中、あきらかに企業が「ゆとり」を失ったこと。そして3つ目は、「勝ち組・負け組」といった単純な「二分法」的思考が蔓延し、極端な拝金主義が横行したことである。

コレが言いたい!
――企業も「市民」であれ!―――

近年の企業不祥事の増加は、一方で内部告発の推進とそれによる発覚の多発化といった側面もあり、最近ではモラルの向上に積極的に取り組もうという企業も増えてきている。昨今、企業の「社会的責任」が声高に叫ばれるようになってきた。それは、 企業行動が市民社会に及ぼす影響がかつてなく大きくなっているからにほかならない。とすれば、経営者は「企業も市民である」ことを自覚し、利益追求を自己抑制してでも市民的モラルから大きく逸脱しない経営を実践することが、長い目で見て企業の持続的発展を可能にするのだという意識をもつ必要がある。また、行政もそうした企業行動を励まし、推進する仕組みづくりを真剣に考える時がきている。経済活力を失わせることなく、市場競争万能主義からいかに脱却していくかが求められているのである。

危うい国ニッポン(3) 民主主義が危ない!

民主主義の根底が揺らいできている。

★拉致問題でNHKに放送命令
報道の自由を侵害する行為か?報道の自由への介入ともとれる事態が起きた。政府がNHKに対し、北朝鮮による拉致問題をラジオの国際放送で重点的に取り上げるよう命令。世論誘導にもつながりかねない個別で具体的な放送命令は異例のことである。
★タウンミーティングでやらせ質問発覚
小泉内閣の下「国民との対話の場」として始まったタウンミーティング。今年9月に青森県で開かれたタウンミーティングで、参加者に発言の内容を事前に依頼していたことが発覚し、その後「ヤラセ」ぶりが次々に発覚することになった。情報操作によって政府に都合のいい世論を形成しようというものにほかならない。

民主主義が危機に瀕している!

今年は政権交代という大きな節目があったが、安倍内閣になって自由な議論の機会や思想・信条の自由がないがしろにされているのではと疑念を抱かざるをえない出来事が多数起きている。

政府の内閣府タウンミーティング調査委員会の最終報告書では、全174回のうち質問内容を指定した「やらせ」は15回で、そのうちの5回は安倍内閣のもとで今月法案が成立した教育改革に関するタウンミーティングで行われていた。また、政府による質問者の指名は全体の6割にあたる105回、他にも不透明な会計処理や都合の悪い者は排除するなどが明らかになった。

民主主義は国民の政治参加なしにありえない。そのためには国民への正しい情報提供が不可欠な前提である。最近では、「内閣支持率」という「国民による政治参加」が重要になってきているが、それを意識して「やらせ」タウンミーティングを実施して、政府は世論を誘導しようとしてきたのではないか。とすれば、これは小泉政権の「品格」のなさを示すだけでなく、民主主義を根底から崩壊させかねない事態である。

情報といえば、もっとも重要な役割を果たすものはメディアである。安倍政権はそのメディアに「禁じ手」を使った。NHKに対する放送命令である。

NHKに命令して放送させるというのは、戦前の「大本営発表」と同じである。軍隊を統帥する「大本営」の発表をそのまま国営放送が国民に流すという「情報操作」によって、日本国民は戦争の泥沼に突き進み、何百万という人々の命が失われた。その反省から、戦後はNHKを政府から自立させるため、国民の受信料で経営を賄うことにした。政府の「命令」でNHKが放送を流すことになれば、戦前の「大本営発表」への道を再び歩み始めることになりかねない。

安倍政権下で民主主義が危機に陥れられかねない事態は以上のことだけではない。中川昭一自民党政調会長が毎日新聞とのインタビューで「デモで騒音をまき散らす教員に児童・生徒の尊敬を受ける資格はない。免許はく奪だろう」と語った。教育基本法を「改正」して教員免許を「更新制」にすることに関連しての発言である。三年前、米軍のイラク進出や自衛隊のイラク派兵に反対して、日本では若者たちが、SMAPの「世界に一つだけの花」を歌いながらデモ行進した。「そんなデモに参加した教員は免許はく奪」などということになったら、政府の方針に反対できる教育者はいなくなる。教員たちが政府の方針に従って、生徒たちに「お国のために命を捨てなさい」と教え込んだ戦前への逆戻りが始まることになる。「デモ」を「騒音」としか認識できない政治家を与党のリーダー的地位につけたのは言うまでもなく安倍首相である。

「言論の自由」「表現の自由」は民主主義の基本である。これが侵されれば、民主主義は立ちどころに崩れ去る。いま民主主義が危ない。

コレが言いたい!――選挙の年―――

民主主義はなんといっても「選挙」である。来年春には全国で地方選挙があり、7月には参議院議員選挙がある。健全な民主主義をまもり、有効に機能させる絶好の機会がやってくるのである。いよいよ国民のレベルが問われるのだということを重く受け止めつつ、2007年を迎えたい。

(2006/12/31 執筆)

第12回 企業内ベンチャーに挑もう!

12月 26th, 2006

元記事

自分のアイデアを生かして、事業を興したいと思っている人は少なくない。しかし、安定したサラリーマンの職を投げ打ってまで起業するにはリスクが大きすぎる。そんなジレンマを解消する画期的な仕組みが企業内ベンチャー制度である。

目立ち始めた企業内ベンチャーの成功例

スープストックトーキョー近年、大企業サラリーマンが起業した「企業内ベンチャー」の成功事例が目立っている。たとえば〝スープストックトーキョー〟。

「無添加・食べるスープの店」をコンセプトにしたスープの専門店である。同社は三菱商事㈱で情報系の部署にいた遠山正道氏が、親会社の支援を得ながら起業し、育て上げた会社である。若い女性を中心に人気を集め、今や駅ナカやオフィスビルを中心に全国約30店舗を展開している。

スポーツクラブ ルネサンスまた、全国に90店舗展開する業界大手のスポーツクラブ〝ルネサンス〟も、大日本インキ化学工業㈱に勤める一サラリーマンが起業したものである。

同社の斎藤敏一氏がスポーツ事業部をスタートさせ、これをベンチャー企業として立ち上げた。1979年創業した後、03年にJASDAQに上場。2004年に東証2部に上場し、06年3月には東証一部上場を果たした。現在、売上高288億円、従業員441名を有する大企業となっている。

「コレが言いたい」の第12回は、成功事例が散見されはじめた企業内ベンチャーについてみてみることにしよう。

企業内ベンチャー〟とは…

そもそも「企業内ベンチャー」とは、おもに大手企業の社員が社内の経営資源を活用しつつ、自らの創造性を発揮して起業するもの。それは、いわゆるサラリーマンがサラリーマンでありながら「一国一城の主」となることのできる仕組みだといってよい。

最近では、多くの大手企業がこれを制度化し、社員から新規の事業計画を募集し、将来性があるものを支援して積極的に企業内ベンチャーを促進しようとしている。リコー・松下電器産業・東京ガス・JTB・三菱商事・富士通・花王・シチズン・東京電力・NEC・NTT・3M・ソニー・東急不動産などがそうした制度を設けている。

(株)帝国データバンクから企業内ベンチャー「(株)帝国データバンクフュージョン」を起こした萩原直哉同社代表取締役社長は自身の経験を次のように語っている。

「帝国データバンクで調査員を5年間やっていて、相手先である中小企業の社長や財務担当者から信用調査以外の話、企業を買いたい・売りたい、事業提携したいといった話をよく耳にした。こうしたニーズを何とか事業化できないかと考えました」――萩原氏は、中小企業のM&A仲介を行なう会社を起業することを思い立ち、上司に提案した。帝国データバンクはこの提案を積極的に受けとめ、出資をはじめとして積極的に支援した。

帝国データバンクフュージョンが業務としている中小企業を対象とするM&Aの仲介は案件のロットが小さいにもかかわらず、情報収集などにコストと手間暇がかかるため、これを事業として採算に乗せるのは難しいと言われている。しかし、帝国データバンクフュージョンは、親会社である帝国データバンクの調査員から得られる情報を活用するなどによって低コスト化を実現し、立ち上げてわずか半年足らずで黒字を達成した。

企業内ベンチャーのメリット

「企業内ベンチャーのメリットは、親会社のバックボーン、看板を使えること。私たちのような小さな会社が突然会社訪問しても、通常なら受付で断られてしまいます。でも、帝国データバンクの名前を出せば、担当者は会ってくれます。もう一つのメリットはやはり資金。私たちの会社の資本金は5000万円ですが、サラリーマンである私たちがこんな金額をファイナンスもせずに使えるのは企業内ベンチャーならではと言えます」。

萩原氏がこう語るように、立ち上げに必要な資本金の調達や人材等経営資源の入手が比較的容易であること、また借り入れや営業において親企業の信用力やネームバリューが活用できることなど、「何もない」ところから始まる「独立型ベンチャー」に比して「企業内ベンチャー」の優位性は否定しがたい。

企業内ベンチャーのメリット

親会社にとっての企業内ベンチャーのメリット

一方、親会社にとっても、企業内ベンチャーを推進することにはメリットがある。松下電器産業㈱パナソニック・スピンアップ・ファンド推進室の水間隆室長は次のように語っている。

「松下電器はもともと創業者を含めて、ベンチャー精神にあふれた会社。社員一人ひとりに事業意識・企業家意識・経営意識を持ってほしい。しかし、大きな会社の中で大きな事業を営んでいると、自分が相対的に小さく見えてしまうものです。そこで、自分の手で 何か新しい事業を起こしたいと社員が思うとき、それを実現できる機会を会社が提供する必要があります。どうぞチャレンジしてくださいと。そういうことを通じて社員に自分の役割の大きさを実感してもらう。企業内ベンチャーで設立された会社を見ると、福祉をはじめ、社会貢献を立派に果たしている会社が多い。これは、松下本社のブランドイメージの向上にもつながります」。

親会社のメリット

パナソニック・スピンアップ・ファンドは、100億円を積み立てて作った第一次ファンド(01年4月~04年3月)で、一件あたり上限5億円まで出資が可能。年2回企業内ベンチャーの希望を募ってきたが、これに350名の社員が応募し、すでに19社が発足した。現在、二次ファンド(50億円)で企業内ベンチャーを募集しており、15社の設立を目標としている。

〝企業内ベンチャー〟を起こすことの難しさ

ところか、実際には我が国の起業内ベンチャーは、必ずしも十分な展開が見られなかった。その理由も数多く指摘されている。

企業内ベンチャーを輩出する企業が社員間の処遇のバランスを考慮するあまり、創業者へのインセンティブを低く設定するため、起業へのモチベーションが制限される。

起業経験のない既存企業の役員らによる事前チェックでは「起業の芽」がつぶされてしまう可能性が高い。

安定志向の強い大企業サラリーマンの中からは起業志向の人材を得ることがそもそもむずかしい。

起業後の親企業の過度の干渉がベンチャー企業の成長の妨げになっている・・・などである。

企業内ベンチャーの難しさ

コレが言いたい!
――サラリーマンよ 挑戦しよう!――

こうした諸々の困難や制度的問題が克服され、数多くの企業内ベンチャーが出現し、その活発な活動が継続されるようになるためには、企業内ベンチャー創業者やそれを企図する「潜在的起業家」たち、また企業内ベンチャーの輩出に努力する既存企業の関係者、あるいは企業内ベンチャーに関心を寄せる研究者など、多くの人々が体験交流、情報交換あるいは調査・研究活動を行い、その成果を社会に積極的に情報発信していく「場」が不可欠である。こうした問題意識に基づき、有志たちによって「企業内ベンチャー推進協議会」が設立され、隔月で交流会を実施している(実は、現在私は同協議会の会長を務めている)。

自分のアイデアを生かして、事業を興したいと思っているサラリーマンは少なくない。日本の大企業は優秀な人材を抱え込みながら、その能力を十分に活かしきっていないとする指摘もある。上記の「企業内ベンチャー推進協議会」なども活用しながら、ぜひ多くのサラリーマンたちに起業への挑戦を試みてもらいたいものである。それが、既存企業の活性化を含め、より力強い日本経済を実現することになると思われるからである。

(2006/12/26 執筆)

番組出演「2006」

11月 13th, 2006
  • 2006年11月29日
  • 朝日ニュースター
  • 毎週土曜日 午前11時から午後01時まで
  • 番組名:愛川欣也 パック・イン・ジャーナル


  • 2006年11月29日
  • テレビ朝日
  • 毎週月曜日から金曜日
  • 朝07時30分から09時55分まで
  • 番組名:スーパーモーニング
  • テーマ:夕張の悲劇


  • 2006年10月26日
  • NHK総合
  • 毎週月曜日から木曜日の夜07時30分から07時56分
  • 番組名:クローズアップ現代
  • テーマ:町工場を廃業から救え~深刻化する後継者不足~


  • 2006年9月20日
  • テレビ朝日
  • から金曜日 朝07時30分から09時55分まで
  • 番組名:スーパーモーニング
  • テーマ:貸金業法案


  • 2006年8月5日
  • 朝日ニュースター
  • 毎週土曜日 午前11時から午後01時まで
  • 番組名:愛川欣也 パック・イン・ジャーナル


  • 2006年7月15日
  • 朝日ニュースター
  • 毎週土曜日 午前11時から午後01時まで
  • 番組名:愛川欣也 パック・イン・ジャーナル


  • 2006年5月29日
  • NHK総合
  • 毎週月曜日から木曜日の夜07時30分から07時56分
  • 番組名:クローズアップ現代
  • テーマ:シリーズ・デフレは終わったのか(1)変わり始めた消費


  • 2006年4月25日
  • NHK総合
  • 毎週火曜日の夜10時30分から10時59分
  • 番組名:プライスの謎
  • テーマ:オトナがハマる食玩の秘密


  • 2006年4月2日
  • BSジャパン
  • 日曜昼12時から12時54分
  • 番組名:こちら経済編集長
  • 注目ニュース:「来年度予算成立、ポスト小泉候補4人発言」「財政制度審議会で消費税22%試算」「鉄鋼3社、敵対的買収防衛策で合意」
  • コーナー:「編集長のコレが言いたい」
  • テーマ:中小企業への大増税がやってくる
  • * 以後、隔週でキャスターを担当


  • 2006年2月24日
  • NHK教育
  • 金曜夜10時25分から10時50分
  • 番組名:ビジネス未来人
  • テーマ:時代のキーワード“しなやかな連携”

第11回 まだ異議あり!貸金業法案

11月 7th, 2006

元記事

臨時国会に提出される貸金業規制法の改正法案(貸金業法案)については、すでにさまざまなメディアが繰り返し取り上げてきた。しかし、同法案にはいまだほとんど報じられていない重要な問題が含まれている。

NPOバンクの危機

今年発表されたノーベル平和賞。経済学者として貧困撲滅の運動を行ってきたバングラディシュのムハマド・ユヌス氏が選ばれた。ムハマド氏は、貧しい人たちのために非営利のグラミン銀行を設立。農村の女性たちに、無担保で小口融資を行うという画期的な取り組みを始めた。融資を受けた人々は、それを元手に経済的な自立をめざし、貧困撲滅に大きな貢献を果たしたといわれている。こうした試みは世界各地で行われている。日本でも各地で「NPOバンク」が設立された。環境や地域のための事業に低利で融資する活動を行っている。

ところが、今国会に提出される貸金業法案が成立すると、これらNPOバンクは崩壊の危機に瀕してしまう。救済の手立てはないのか?「コレが言いたい」の第11回は、NPOバンクの目線から貸金業法案を取り上げてみたいと思う。

貸金業法案のもう一つの問題点

出資法の上限金利(29.2%)と利息制限法の上限金利(20%)との間に存在していた「グレーゾーン金利」、これを撤廃する与党の貸金業法案が固まった(図表1)。少額・短期融資には最大25.5%の上限金利を認める「特例金利」を創設するなど、「業者寄り」として批判を受けていた従来案が国民の批判に押されるかたちで大幅に修正された。「特例金利」の見送りのほか、「実質的に貸出金利が上がるケースが生じる」との批判が多かった利息制限法の金利区分見直しなども先送りとなった。

図表1 改正案(自民党)図1 貸金業法案改正案(自民党)

これらによって法案の問題点は大きく改善されたといえるが、同法案にはいまひとつ看過できない重大な問題が含まれている。それは、今回の法案の中にNPOバンクを危機的状況に陥れる条項が見られることである。とりわけ重要なのは、以下の2点――

  1. 貸金業の財産的要件を純資産1000万円(個人)~5000万円(法人)へ引き上げ
  2. 貸金業協会、個人信用情報機関への実質的強制加入    ――である。

これらの条項がなぜNPOバンクを危機に陥れることになるのか。その理由に立ち入る前に、簡単にNPOバンクそのものについて記しておこう。

NPOバンクとは

NPOバンクとは、市民活動からスタートした非営利の金融団体。市民の出資をもとに設立され、環境問題・地域活性化・女性の地位向上など社会的意義のある事業に低金利で融資を行っている。すでに全国で9つのNPOバンクが設立されている。(図表2)

図表2 NPOバンク全国MAP図表2 NPOバンク全国MAP

その中でもよく知られているのが、環境プロジェクトを支援するために設立された「apバンク」。これは、坂本龍一氏や「ミスチル」の櫻井和寿氏などアーティストらが出資して設立されたもので、たとえば豚の放牧で緑を復活させる試みや放置自転車のリサイクルなど、前例がないために金融機関からの融資が得られない事業に対して融資活動を行っている。

図表3 apバンクの仕組み図表3 apバンクの仕組み

「apバンク」の場合には、図表3にあるように一部篤志家の資金が「バンク」を通してNPOなどに融資される形をとるが、すべてのNPOバンクがこのような仕組みになっているわけではない。たとえば、9つのNPOバンクのなかでも最も早く設立され、太陽光パネルなどの購入資金を融資するなど、環境面での事業を支援している「未来バンク」の場合には、図表4にあるように一般市民やNPOが組合員となって事業組合を設立し、そこに出資された資金を組合員たちに融資するという仕組みになっている。

図表4 未来バンクの仕組み図表4 未来バンクの仕組み

いずれにしても、「預金」という形で広く大衆から資金を集め、営利を目的で融資活動を行っている「銀行」とは、仕組みもまたその目的もまったく異なっているのがNPOバンクである。それは、「こういう分野に資金を投じてほしい」という出資者たちの「思い」を実現するために活動している金融組織なのである。

貸金業法で存立の危機

さて、今回の貸金業法案がこのまま成立すると、NPOバンクはどのような影響を受けることになるのか。「未来バンク」の田中優理事長は、「新しいNPOバンクを設立する際のハードルが高くなってしまい、多額の出資金を集めてからでなければ設立できなくなってしまう。また、仮に設立されたとしても、経費倒れしてしまう可能性が高い」とその影響を懸念している。

少し、具体的に見てみよう。愛知県のNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」はようやく出資金が700万円集まり、この秋から融資活動を始めたばかりである。貸金業を営むのに必要な「財産的要件」を純資産5000万円以上に引き上げる今回の法案が成立すれば、こうした小規模のNPOバンクはもはや設立できないことになる。また、「momo」の場合、貸出金利は2.5%を想定しているため、全資金を融資に回しても年間の収入は17万5000円にしかならない。今回の法改正で貸金業協会、個人信用情報機関への加入が義務付けられると、貸金業協会への加入費10万円、その年会費6万円、さらに個人信用情報機関への入会金50万円、年会費3万円が必要になる。さらに貸金業登録手数料15万円が3年ごとに必要になる。明らかに「経費割れ」となって、活動存続は難しくなる。

当然のことながら、NPOバンクが活動停止になれば、そのバンクから融資を受けている事業も存続が危なくなる。「未来バンク」から融資を受けて活動している「フェアトレードカンパニー」の胤村なお子常務は、「もっとNPOバンクが広がって借入先のバラエティーが広がることを期待していたのに、借入先が一般の銀行しかないとなると事業にも影響する・・・」と今後の不安を隠さない(注)。

(注)フェアトレードは、経済的、社会的に立場の弱い生産者と通常の国際市場価格よりも高めに設定した価格で継続的に農産物や手工芸品などを取引し、発展途上国の自立を促そうという活動。1960年代にヨーロッパから始まったが、現在では世界的ネットワークが形成され、何千もの小規模生産者グループや貿易会社、何千万もの消費者に直結する貿易システムを組織するまでになっている。

コレが言いたい――「少数派」切捨てを許すな!

社会がますます複雑化している現代、従来以上に十分な目配りのもとで法律制定や政策運営にあたる必要がある。そうでないと、現場には様々な混乱や被害が発生する。政治家や行政マンにはこの点に関する十分な配慮を強く求めたい。

今回のNPOバンクの問題はその典型的な事例であるといえる。NPOバンク側は「十分な配慮」を強く求めているが、今のところ与党側からはこの要請に積極的に応えようとする姿勢は示されていない。ちなみに、「全国NPOバンク連絡会」は、NPOバンクを貸金業法の適用除外とするために以下のような法案改正を提案している。

貸金業規制法の適用除外の対象として、同法第二条の四号の次に、以下を追加する。

四の二 構成員が出資をして結成する団体が、環境や福祉、社会的弱者の救済など、特定非営利活動推進法別表、または、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律別表に掲げられた公益目的の事業を行うものに対して行う融資であって、以下の要件を満たすことによって、金銭的利益(pecuniary profit)を目的とせず、かつ、その収益のいかなる部分もいかなる個人などの利益とならないような組織となっているもの

イ 構成員の出資に対して出資額を超える配当又は残余財産の分配を行わない団体が行うもの

ロ 貸付金利が年7.3%以下であり、かつ、利息計算が単利であるもの

ハ 団体の役員及び従業員の給与の額が、不相当に高額でないもの

ニ 以上の要件を満たす団体が自主規制団体を結成し、その自主規制団体を金融庁に届出することにより、個別団体の代表、所在地、活動状況を金融庁が把握しうるもの

四の三 構成員が出資をして結成する団体が、相互扶助を目的にして構成員向けに行う融資であって、以下の要件を満たすもの

イ 構成員の出資に対する利益配当が年3%を超えないもの

ロ 構成員に対する貸付金利が年7.3%以下であり、かつ、利息計算が単利であるもの

ハ 団体の役員及び従業員の給与の額が、不相当に高額でないもの

ニ 以上の要件を満たす団体が自主規制団体を結成し、その自主規制団体を金融庁に届出することにより、個別団体の代表、所在地、活動状況を金融庁が把握しうるもの

全国NPOバンク連絡会「貸金業規正法の適用除外を求める要請書」より

(2006/11/07 執筆)

山口義行・公式WEB

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