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山口教授からの提言



</p> <h1><b>山口教授からの緊急提言<b></h1> <p>[2020.04.08]

“永久劣後ローン”で「返さなくてもいいお金」を中小企業に

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って瀕死状態に陥っている中小企業をどう救うかが喫緊の課題になっている。以下では、そうした中小企業への支援策を提案したい。皆さんの声の大きさ次第では、こうした施策が実行に移される可能性もある。日本経済は今やそれほどの「緊急事態」だからである。
その施策とは、“永久劣後ローン”というやり方を使って、「返さなくてもいいお金」(すなわち「資本」)を中小企業に注入するという施策である。

「融資」では支援にならない!
~中小企業に必要なのは「返さなくていいお金」~

 たとえば新型コロナでお客をほとんど失った観光バス会社が、今瀕死の状態にあるとしよう。そんな企業に「200万円の現金給付」を実施しても「焼け石に水」にちがいない。会社が生き残るためには千万円単位の資金が必要だからである。かといって、さらなる借金をするのも腰が引ける。「返せる見込み」がないからである。政府は「民間金融機関に最長5年返済据え置きの無利子融資を実行させる」としているが、「5年後に返済が始まるんじゃ、無利子でも借りる勇気が出ない」という企業は多い。多くの企業がすでに多額の借金を背負っているし、ウイルス禍による景気低迷がいつまで続くかもわからないからである。そんな企業への支援策は一つしかない。「返さなくてもいいお金」すなわち「資本」を中小企業に注入することである。

民間金融機関が「永久劣後ローン」を実行し、
その債権を政府の「買取機構」が買い上げるという仕組み

「永久劣後ローン」――そんなもの聞いたことがないという経営者も少なくないだろう。「永久劣後ローン」の「劣後」というのは、返済の優先順位が低いという意味。会社が解散になった場合、「他の借金を先に支払って、それでもお金が残っていたら返して下さいね」というローンである。「永久」というのは「返済期の定めがない」ということ、言い換えれば「永久に借りたままでいい」、つまりは「返さなくていい借金」である。
金融機関がある企業に「永久劣後ローン」を実行するというのは、その企業からいわば優先株を購入して出資するようなもの。「配当」にあたる「金利は受け取る」けど、出資同様「元金を返せとはいわない」。今回は緊急支援策なので「永久劣後ローン」の金利は当面はゼロ。経済が正常に戻ったら少しずつ金利を引き上げていくというやり方にすべきである。企業の体力が復活し、「金利を払うよりも返済してしまいたい」という状況になったら、企業は返済することもできる。
 金融機関からすれば、「永久劣後ローン」はひとたび実行すれば「永久」に金利が入ってくるローンである。したがって、金融機関にとっても、そのローン債権をじっと保有し続けるのはけっして悪いことではない。しかし、今回はこのローンをできるだけ多くの中小企業に対して実行してもらうために、政府が「買取機構」を作って希望する金融機関からローン債権を買い上げることもできるようにすべきである。「買取機構」が債権を買い上げた後は、企業の支払う利子が「買取機構」に入ることになる。「買取機構」は政府と日銀の出資によって設立し、その資金をもって債権の買い上げ資金とすればいい。

金融機関の取引先を対象にすることでモラルハザードを防ぐ

「『返さなくていいお金』が貰えるならば」と怪しい輩が金融機関に殺到し、ローンを得た後「雲隠れ」するという、そんな「モラルハザード」が起きるのではないかと心配する向きもあるだろう。しかし、「永久劣後ローン」の対象者は金融機関が日頃から付き合いのある中小企業である。経済が正常に戻ったら、金利を支払ってくれる信頼のおける企業のみを対象にしてローンを実行するはずである。そういう企業がコロナ禍によって倒産することのないように救いの手を差し伸べたいという「思い」は、金融機関にこそ強いはずである。
「買取機構が買い上げてくれるのなら、ローンをどんどん実行しちゃおう」とばかり、永久劣後ローンを乱発する金融機関が現れるのではないか。そんな心配をする人もいるかもしれない。しかし、そもそもそんなことをしても金融機関には1円の得にもならないし、以後金融庁からにらまれるのがオチである。おのずから「自制が働く」と考えていいだろう。

提唱者は三井住友信託銀行の名誉顧問(住友信託銀行の元社長)
           ~金融実務家が提唱する現実的な支援策~

 誤解のないように申し添えておくが、「永久劣後ローンによって中小企業に資本注入する」という施策の最初の提唱者は私ではない。住友信託銀行の元社長で、三井住友信託銀行の名誉顧問である高橋温氏である。高橋氏は本年4月3日の日本経済新聞で、「政府系金融機関が地域金融機関の紹介・推薦に基づいて永久劣後ローンを実行する」方式と、「地域金融機関が実行した永久劣後ローン債権を国の特別勘定が買い取る方式」の二通りを提唱されている。

    「永久劣後ローンの活用を提言したい。返済の優先順位が一般債権に劣後する借入金であり、議決権も返済期限もない。余裕ができた段階で返済でき、財務的には実質エクイティ(自己資本)として機能する。
    支援機関は既存の政府系金融機関を活用する。対象企業を決める際は、その企業と取引のある地域金融機関の紹介・推薦を条件とし、不適切な企業に資金が流れるのを防ぐ。金利は当初は無利息とし、支援先企業の経営安定化に伴って順次金利を引き上げる。
    利用者の利便性と円滑な事務処理を考えると、地域金融機関が実行した永久劣後ローン債権を国の特別勘定が買い取る方式もいいかもしれない。
    全国186万社の資本金1千万円未満の中小企業では、売上高が3分の2に落ち込むと23兆円強もの損失が発生する。この状況で中小企業が最低限の経営体力を維持するためには、5兆円規模の永久劣後ローンを用意する必要がある」。
    ――(日本経済新聞2020.4.3)。

 私は「買取機構を政府と日銀の共同出資で設立したらどうか」と書いたが、この点を別にすれば、私が上に記した提案と高橋氏のそれとは完全に一致している。高橋氏は実務家らしく「5兆円規模」という数値まで提示されている。
 優秀な金融実務家が提唱しているという点からしても、上記は十分に実現可能な施策である。あとは、中小企業経営者や中小企業で働く人たちがどれほど大きな声を上げるかにかかっている。


――2020年4月9日筆

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