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第4回 「会社法」を知ろう

6月 16th, 2006

元記事

会社法が本年5月1日をもって施行(M&Aに関わる一部の条項は1年遅れ)となった。会社法施行に関連して、巷ではすでにさまざまな動きがみられる。

会社法施行をめぐる動き

会社法施行を機に、税理士事務所などに会社設立の相談にやってくる人が増えたという。また、会社法で可能になったことから、取締役会の決議を持ち回りの書面や電子メールでも行えるように定款を変更する方針をすでに明らかにした企業もある。同様に、四半期配当をはじめ株主への利益配分を柔軟に行えるようになったことから、定款変更を計画する会社も多い。さらに、資生堂のように、会社法で定められる新株予約権の無償割り当てを活用した事前警告型の買収防衛策を導入する方針を発表した企業もある。すでに会社法施行はさまざまな影響を与えつつあるといえる。そこで、「コレが言いたい」の第4回では、この会社法について述べてみたい。

4つの意図

「会社法」は2005年6月29日に成立し、本年5月1日をもって施行となった。これは「商法・第二編会社」「有限会社法」「商法特例法」などに分散し、また一連の改正で継ぎはぎになってしまっていた会社に関する法律を一本化したものだが、同時にさまざまな変更点をともなってもいる。

では、この新法の成立でいったい何が変わるのか。変更点は実に多岐にわたるが、少なくともそこには以下の4つの「意図」を読み取ることできる、と私は考えている。

会社法の4つの意図

  1. 株式会社を実体に合わせる
  2. 起業を促進する
  3. 経営判断の自由度を増し、迅速化を図る
  4. 企業間の整理再編を容易にする

その第1は、「株式会社」という会社形態を実体にあわせようというものである。本来、株式会社は「公開企業」を想定したものであり、非上場・非公開の中小企業にはそぐわないものである。ところが、日本の場合、有限会社では信用力が劣るなどの理由で、実体は有限会社なのに形だけは株式会社にしておくという中小企業が多く、そのため「公開」を想定したさまざまなルールが形骸化してしまっていた。そこで、「公開」を前提としない株式会社の場合には取締役会を置かなくてもいいとか、監査役もなくていいなど、ルールを大幅に緩和し、株式会社という形態を実体に適合させることが図られた。その結果として、有限会社は廃止されることになった(ただし、既存の有限会社は特例有限会社としてそのまま存続可能)。

第2は、起業を促進しようというものである。最低資本金の撤廃や設立手続きの簡素化など、会社を設立する際に存在するハードルを極力下げる努力がなされた。また、「合同会社」というものを新たに認め、ベンチャーの起業や産学連携をやりやすくした。

第3は、経営判断の自由度を拡大して、経営を迅速化しようというもの。「定款」で定められる事項の範囲を拡大し、そこで定めておけば取締役(会)がかなり自由に重要事項を決定できるようにした。

第4は、企業間の整理・再編を容易にしようというものである。バブル期に膨れ上がった子会社を整理して「選択と集中」を進めたいとか、M&Aを積極的に行って新たな経営展開をしたいといった要望に応えて、規制緩和が実施された。

5つのキーワード

内容をより具体的にみていくために、いくつかのキーワードを提示したい。

会社法を知るための5つのキーワード

  1. 機関設計の自由化
  2. 合同会社
  3. 定款自治
  4. 対価柔軟化
  5. ポイズンピル

1.機関設計の自由化

これまで株式会社は、取締役会の設置や取締役などの人数(取締役最低3名、監査役1人以上)など、機関設計が規制されてきた。今後は、すべての株式に譲渡制限を設けている会社であれば、大会社や委員会設置会社でない限り、現行の有限会社と同様、取締役 1人いるだけで、監査役も置かなくていいなど、機関設計を柔軟に行えるようになった。
(図表1)機関設計の自由化

図表1:機関設計の自由化

日本経済新聞より

2.合同会社

株式会社・有限会社の特徴である「有限責任の確保」と、合名会社・合資会社の特徴である「組織内の内部自治」、それぞれの性格を併せ持った会社組織である「合同会社(通称、日本版LLC)」が新設される。具体的には、そのすべての社員(出資者)が会社への出資額についてのみ責任を負い、株式会社のように取締役会などの機関を置く必要がなく、利益分配や意思決定などの方法が定款で自由に設定できる会社。資力はないが、重要な知財を有する研究者と、資力や人材をもつ企業とが一緒に新会社を立ち上げるときなど、合同会社は企業と大学研究者の共同研究、ベンチャー企業に向く。

3.定款自治

「定款」で定められる事項の範囲が拡大された。したがって、そこで定めておけば取締役(会)はかなり自由に重要事項が決定できるようになる。たとえば…
株主総会での特別決議が必要だった合併や株式交換、会社分割が取締役会の決議で可能になった。配当の仕方や利益で自社株を買ったりすることを取締役会の決議でだけでできるようになった。ただし、株主総会で3分の2以上の特別決議が必要だった取締役解任は、半分以上の普通決議に緩和され、経営者の「暴走」を抑えやすくした。

4.対価柔軟化

これまでは、吸収合併などが行われる場合、消滅会社の株主に交付する対価は存続会社の株式に原則限られていた。それを会社法では「金銭その他の財産を交付することができる」とした。これによって「現金合併(キャッシュ・アウト・マージャー)」や「三角合併」が可能になった。
(図表2)吸収合併例
図表2:吸収合併例

5.ポイズンピル

M&Aをやり易くしたことに伴って、ポイズンピル(毒薬)と称されるような買収防衛策も可能になった。たとえば・・・
○株主総会の特別決議により、買収者の取得した株を議決権制限株に強制転換する。
○敵対的な買収者だけが使えない差別条件をつけた新株予約権を無償で発行し、買収者の持ち株比率を下げる。(株主の任意だった新株予約権の申し込みや行使が、申し込みなしでも割り当てることができるように改善された{新株予約権の無償割当}を活用)
○譲渡制限をつけた拒否権つき株(黄金株)を友好的な企業に発行する。

コレが言いたい
--外部環境の変化を”追い風”にしよう

以上のように、会社法施行に伴って企業をとりまく外部環境が大きく変わる可能性がある。こうした外部環境の変化をどのようにして自社の「追い風」にするかは、まさに経営者や株主の力量であろう。実際、会社法施行が引き起こす問題も少なくない。その1つは株式会社の権威が大きく損なわれることである。機関設計を自由化し、会社設立を容易にしたことによって「何でも株式会社、誰でも株式会社」という状況が生まれ、かつてのように株式会社という形態をとることで社会的信用を得ることはもはやできない。会社それぞれがどのようにして自社の信用を高めるかが重要な戦略となる。また、M&Aとポイズンピルの活用が容易化されたことによって、「会社防衛か、経営者防衛か」の判断を株主に迫る局面がより多く見られるようになる。今後、定款自治の拡大を含めて株主の責任はより重くなる。いずれにしても、今回の法的環境の変化をうまく活用して、自社の発展につなげる企業が数多く登場することを期待したい。
(2006/06/16 執筆)

第3回 企業の未来は女性の雇用がカギ!?

6月 13th, 2006

元記事

景気回復に伴う人手不足、団塊の世代が大量退職する2007年問題などへの対応で、再び「人育て」が企業の課題になりつつある。なかでも、その取り組みが重要かつ難しいのが”女性”。しかし、その”女性”の活かし方が企業の未来を決定づける!

仕事と子育ての両立は難しい!?

出産を機に職場を離れる女性が多い。仕事と子育ての両立が難しいからである。またそうした女性が再び職に就こうとすると選択肢は著しく狭められ、キャリアを活かすことは大変難しい。これが現実である。

しかし、こうした環境がいつまでも改善されないことは、企業にとっても社会にとっても損失である。優秀な労働力を確保できないだけでなく、女性に「仕事か子育てか」という選択を迫ることで、結果として出生率の低下をもたらすからである。そこで、「コレが言いたい」の第3回では、女性の雇用について考えてみることにしよう。

法律はできたものの…

1985年に男女雇用機会均等法が制定され、今年で21年目を迎える。その間、職場における男女の格差は縮まったといわれているが、あまり実感がないという女性が多い。さらに、2005年には新たに「次世代育成支援対策推進法」が施行された。これは、自治体や企業が、育児休業制度の利用促進、企業内保育所の設置など、子育て支援のための「行動計画書」を策定し、厚生労働省に提出しなければならないというものである。ただし、対象となる企業は従業員301人以上に限定され、罰則規定もない。300人以下の企業については努力義務を課しているのみである。今のところ、明確な効果は確認できていない。

働く意欲を持つ女性たちの悩みは尽きない。財団法人『女性と仕事と未来館』の館長、渥美雅子さんは、「ライフバランスをとりながら、いかに仕事を続けるかが女性にとって一番深い悩み」であると指摘する。具体的には、夫の転勤に伴い仕事の継続を断念せざるを得ない、育児復帰後の待遇が悪い、保育体制に不安があるなど。「ファミリーサポートセンターが各地にあるなど子育て支援はあっても、PRが不十分で子育て中は仕事をあきらめる女性が多い」とも語っている。

依然、M字カーブくっきり

女性の年齢別労働力率(図表1)をみてみよう。日本は20代後半から30代にかけて労働力率が著しく低下し、そのためグラフがM字カーブを描いている。一方、諸外国は台形型でM字型ではない(かつては諸外国もM字カーブであった)。

(図表1)●女性の年齢階級別労働力率の国際比較
(図表1)●女性の年齢階級別労働力率の国際比較  内閣府 男女共同参画局HPより

もちろん、20代後半から30代女性の働く意欲が低いというわけではない。そのことは、図表2の就業希望率のグラフからも確認できる。

(図表2)●女性の年齢階級別潜在的労働力率
(図表2)●女性の年齢階級別潜在的労働力率  内閣府 男女共同参画局HPより

要するに、女性が子育てしながら働ける職場が少ないため、女性の希望とは無関係に職場を離れざるを得ない環境が依然続いているということである。

先進的な企業の取り組み

そんな中、画期的な取り組みで、女性の活用に成功している企業もある。

プレス金型の設計・製作・加工を行う㈱カミテ(秋田県)は、従業員41人中女性が23人、およそ半数を占めている。この企業では、働く女性を全面的にバックアップし、育児休業制度はもちろん、子供が病気の時に利用できる看護休暇制度なども積極的に取り入れている。また、事業所内に託児所が設置され、従業員は無料で子供を預けることができる。出産後も家庭と仕事を両立できる環境が整っているといえよう。

同社社長は言う。「育てた人材が育児などで辞めるのは会社の”損”。従業員にとって育児や介護が負担なのは会社にとっても困ること。仕事と育児が両立できれば、従業員はもっと能力を発揮できるはず」。

家庭を離れることができない「子育て真最中」の主婦にも、仕事を続けられる環境を提供しようとする企業もある。日本ノーベル㈱は、高い技術を持っていても家でしか仕事ができない主婦のために「在宅勤務制度」を取り入れている。在宅勤務の女性は週3回だけ会社に出勤し、残りは自宅で仕事をしている。「仕事と母親業、どちらも充実している」と従業員は胸を張る。

こうして女性を活用することで、企業側にも、大きなプラス効果があったと経営者たちは分析している。(株)カミテの場合、①社員の士気が高まり、欠損品が少なくなった。②出産後の復職率が100%であるため、企業の技術力を保つことができる--と指摘する。日本ノーベル(株)の場合は、①優秀な人材を確保できる。②働き方やスキルに応じて仕事を割り振りふることができる--などをあげている。

企業における女性比率と利益率

そこで、企業における女性比率と利益率との関係をみてみよう。図表3にあるように、女性比率が50%に近づくにしたがって企業の利益率も上昇しており、両者の間に明確な相関関係があることをみてとれる(女性比率が50%を上回ると利益率は若干低下する)。

(図表3)企業における女性比率と利益率との関係
(図表3)企業における女性比率と利益率との関係
男女共同参画研究会報告「女性の活躍と企業業績」(2003年6月経済産業省 男女共同参画研究会)より

女性の比率が高い企業が利益率も高いという相関は、たとえば人事考課が客観的でオープンであるとか、男女に関わらず人材育成の仕組みが整っているなど、女性が働きやすい職場特有の企業風土に起因していると思われる。そうした企業では管理職の中にも女性の比率が高くなる傾向がみられるが、この女性管理職比率と利益率との間にも明確な相関がみられる。図表4に明らかなように、女性の管理職比率が平均以下の企業と以上の企業とでは利益率に大きな差があり、平均以上の企業は以下の企業に比して2%以上も利益率が高い。

(図表4)女性管理職比率と利益率との関係
(図表4)女性管理職比率と利益率との関係
男女共同参画研究会報告「女性の活躍と企業業績」(2003年6月経済産業省 男女共同参画研究会)より

コレが言いたい--コストではなく投資とみなせ

女性が働きやすい環境を作るためには、会社はより多くの支出を覚悟しなければならない。女性の休業に備えて従業員数にゆとりがなければならないし、託児施設その他物的な投資も必要になる。しかし、これらを”コスト”としてではなく、”投資”とみなす感性が経営者には必要である。先にもみたように、この支出は優秀な女性の獲得や従業員の士気向上につながり、結局は企業の発展に寄与するからである。

なお付け加えていえば、この種の問題は企業努力ですべて解決できるというものではない。かつて、小泉首相は就任時、国会での所信表明で次のように述べた。「女性と男性がともに社会貢献し社会を活性化するために仕事と子育ての両立は不可欠の条件であり、これを積極的に支援するため明確な目標と実現時期を定め、保育所の待機児童ゼロ作戦を推進し、必要な地域全てにおける放課後児童受け入れ態勢を整備します」。

この公約はおよそ達成されていない。ところが、このことを強く批判するマスコミ論調はほとんどみられない。これは未だ問題の重要性が十分に認識されていないことに起因する。女性一人ひとりの悩みを社会全体で受け止める国民意識の醸成と、それを実現する社会的仕組みの構築が早急に求められている。

(2006/06/13 執筆)


(補)2006年6月12日の日本経済新聞は次のように報じている。

「日本経済新聞社が仕事と家庭の両立支援について主要401社に聞いたところ、『優秀な人材確保につながる』とする企業が87.7%に上った。支援策を導入した企業では新卒採用の応募が増えるなど波及効果も表れている。優れた人材の争奪が激しくなる中で、子育て支援は企業の競争力を左右する経営課題になってきた」。―――

同記事によれば、「次世代育成支援対策推進法」施行前の昨年2月に実施した調査に比して、支援策をコスト増と懸念する割合は15ポイント減り、55.3%になった。逆に優れた人材を集めやすくなることで「生産性が高まる」と回答した企業は84%に上った。また支援策の推進全般について経営に「プラス」「どちらかというとプラス」という回答も今回9割を超え、前回より13ポイント上昇した。以下、同記事中に挙げられている事例を列記すると…

日本興亜損保では男性社員向け「短期育児休業制度」(7日間まで有給)、出産や育児でやむを得ず退職した社員を再雇用する「Uターン制度」などを新設したことで、今春入社の新卒総合職の女性比率が04年度の3.5%から一気に約3割に上昇した。

アサヒビールや東京海上日動火災は、昨春から短時間勤務ができる期間を「小学校入学まで」から「小学校3年終了まで」に延長した。アメリカンファミリー生命保険も「生後から3歳になるまで」を近く「妊娠期から小学校卒業まで」に拡充する。

ソニーは育児休暇中の社員の職場復帰を支援しようと在宅勤務制度を昨春導入。松下電工も自宅や職場で徐々に仕事に慣れるプログラムを整えた。―――

第2回 これでいいのか! 政府系金融機関改革。

6月 12th, 2006

元記事

5月26日、行政改革関連法案が参議院で可決され、成立した。政府系金融機関を08年度に一元化すること、またその貸付金残高をGDP比で04年度の半分以下にすることなどが決定された。

中小企業経営者たちの不安

郵政民営化が小泉改革の”本丸”なら、政府系金融機関改革は”二の丸”だなどといわれ、いつのまにか行政改革の格好のターゲットになってしまった政府系金融機関。「政府系金融機関は一つにできる」という小泉総理の”鶴の一声”ならぬ”純の一声”でその一元化が決まり、「欧米諸国の政府系金融機関の直接融資は日本と比べてもっと少ない」というだけの理由で、その半減(GDP比)が決まった。

劇場型パフォーマンス政治を喜ぶ有権者諸氏には、「8つを1つに」にしてしまうという「小泉改革」は実にわかりやすく、いかにも痛快に映る。実際、この方針が「さすが小泉!」とばかりにマスコミで大いに持ち上げられたことで、内閣支持率も上昇した。

しかし、中小企業の現場はそれほど単純ではない。「今あるのは中小公庫さんのおかげ」「民間銀行の貸し渋りの際、支えてくれたのは商工中金だった」「国金(国民金融公庫)さんがいなかったら、この店は開業できなかった」と、政府系金融機関の今後に不安を抱く中小企業経営者は多い。そこで、「コレが言いたい」の第2回は、中小企業金融の目線から「政府系金融機関改革」を論じてみることにしたい。

政府系金融機関とは・・・

政府系金融機関とは、政府が自ら出資し、郵便貯金や簡保保険などを融資の原資としている金融機関である。

今回改革の対象になっているのは、下記の8つの金融機関である。これら以外に国民にもなじみの深い政府系金融機関として住宅金融公庫があるが、これは2007年に独立行政法人に移行することが決定されており、したがって今回の改革の対象には含まれていない。

  1. 国民生活金融公庫
  2. 中小企業金融公庫
  3. 農林漁業金融公庫
  4. 沖縄振興開発金融公庫
  5. 国際協力銀行
  6. 日本政策投資銀行
  7. 商工組合中央金庫
  8. 公営企業金融公庫

上の8つの政府系金融機関が、今回の改革によって以下のように再編成される。

政府系金融機関の再編成図

上図のように、日本政策投資銀行と商工中金は民営化され、公営企業金融公庫は廃止もしくは地方移管され、政府から切り離される。国際協力銀行の国際金融部門は他の4機関と統合されて新政府系金融機関になり、そのODA円借款部門は国際協力機構と統合されて独立行政法人となる。

簡単にいえば、これまで8つあった政府系金融機関を、統合や民営化などで1つだけにするというのが、今回の改革である。

3つの理由

なぜ改革が必要なのか--政府ならびにそれに同調するマスコミなどの論調からは、以下の3つの理由を読み取ることができる。

  1. その1つは、「小さな政府」論。「小さな政府」を実現するためには、政府系金融機関の切り離しや規模縮小が不可欠だというものである。
  2. 2つ目は、もはや政府系金融機関の歴史的役割は終わったというものである。政府系金融機関の低金利融資などによって企業支援することは、むしろ淘汰されるべき企業を温存させることに繋がり、現在では経済発展の阻害要因になっているとする認識である。
  3. 3つ目は、天下りの阻止。天下りが横行する由々しき事態を是正するためには、少しでも多く公的機関を減らす必要があるというものである。

これらは、一見説得力があるし、すでに広く論者たちに受け入れられてもいる。しかし、立ち入って検討してみると、いずれも簡単には首肯できるものではない。

たとえば、財政面で見た場合、政府系金融機関の切り離しが「小さな政府」に直結するものでないことは明らかである。政府から切り離す3機関(商工中金、政策投資銀行、公営企業金融公庫)とも、政府からの補給金はゼロ。したがって、これらを民営化ないし廃止しても財政支出削減効果はなく、政府を「小さく」することには繋がらない。

2つ目の歴史的役割は終わったという主張も、それを実証する証拠はなんら示されていない。反対に、中小企業にとって政府系金融機関が未だ重要な役割を果たしていることは、現場の経営者の声からも確認できる。たとえば、「民間銀行の貸し渋りの際、ピンチを救ってくれたのは中小企業金融公庫だった」「政府系金融機関は、返済期間が長く、利率が低いことが魅力的。長期固定・低利の借入を民間に期待することはできない」「政府系金融改革によって、創業支援や災害支援、長期の戦略的投資が難しくなるのではないかと危惧している」など…。

そして、3つ目の天下り問題については、政府系金融機関の役員に関係省庁出身者を就かせない方針を明確に打ち出せば解決できる。これは機関の民営化や数減らしとは本質的に異なる問題である。

政府系金融機関が担ってきたもの

そもそも中小企業金融と大企業金融とでは決定的な違いがある。中小企業はもともと資本金が少なく、また広く一般大衆から証券市場を通して資本を集めることもできない。したがって、大企業であれば本来自己資本でまかなうべき投資を、金融機関からの借り入れによってまかなわなければならないという不都合が本質的に存在する。

その1つが、起業資金である。これはリスクも高く、短期の資金回収も困難であるため、自己資本でまかなうべきであるが、中小企業の場合、これも金融機関からの借り入れに依存するほかはない。しかし、当然のことながら、民間金融機関はこうした融資には慎重にならざるを得ず、政府系金融機関が多くの部分を担当してきた。たとえば街の美容室やお寿司屋さんに行って「開業資金をどこで借りましたか?」と問うと、多くが「国金さん」と答える。今後、政府系金融機関の直接融資を強引に削減すれば、起業資金の調達が困難になり、いわゆる開業率が一層低下してしまう危険性は高い。

自己資本でまかなうべき投資のもう1つは、新製品の開発など新たなビジネスの展開に必要な資金である。これもリスクが大きく資金回収に長期を有する。

たとえば、研究開発型中小企業が3年後の事業化を目途に、新製品の開発に挑んだとしよう。それが結果的に失敗に終わっても、その開発資金を自己資本でまかなった場合には、経営上大きな打撃を被るにしても必ずしも企業倒産には直結しない。しかし、仮にそれを民間金融機関からの返済期間5年の融資でまかなったとすれば、この企業は新規事業の失敗で直ちに返済に窮することになり、倒産は不可避となる。したがって、新規ビジネスのための資金は本来自己資本でまかなうべきであるが、中小企業はこれも金融機関からの借り入れに依存せざるを得ない。ただし、こうした場合金融機関は長期で低利の融資を行うことが必要である。政府系金融機関はその役割を担ってきた。たとえば中小企業金融公庫の場合、10年を超える長期の融資を低利で実施してきた。おかげで、日本には研究開発型の中小企業が多く育ち、これが日本経済の強さの源泉となってきた。民間金融機関がこうした政府系金融機関の機能を十分に肩代わりできるとは思えず、そうである以上、その歴史的役割が終わったとはとても言えないのである。

巷間、優良企業を政府系金融機関が奪い、民間金融機関の経営を圧迫しているという議論が盛んであるが、実態は、政府系金融機関の上記のような企業育成機能によって、優良中小企業が育ち、その取引関係が継続しているにすぎないのである。「民業圧迫」を旗印に、そうした政府系金融機関の機能を縮小させてしまえば、優良企業が育つ基盤そのものが縮小してしまい、民間金融機関にとっても、ビジネスチャンスを失うことになりかねない。

コレが言いたい
--もっと機能論を!もっと現場を!もっと広い視野で!

最後に、政府系金融機関改革において留意すべきこととして、以下の3点を指摘しておこう。

  1. 第1は「もっと機能論を!」ということである。政府系金融機関の組織いじりばかりが先行してきたが、もっと機能に関する議論を深めなければならない。この点は上に指摘したことからも明らかであろう。
  2. 第2は「もっと現場を!」ということ。政府は中小企業の現場の声に真摯に耳を傾け、「改革への不安」を払拭すべく努力しなければならない。
  3. 第3は、「もっと広い視野で!」ということである。民間金融のあり方を含めた、もっと広い議論や仕組みづくりをしていくべきである。

たとえば、米国では、日本のような政府系金融機関は存在しないが、「地域再投資法」(CRA:Community Reinvestment Act)という民間金融機関に地域貢献を義務づけ、その行動を評価する制度がある。私はかねてより「金融アセスメント法」という日本版地域再投資法ともいうる制度を提案してきた。これはすでに、中小企業の方々を中心に幅広い支持を得て、全国で975の地方議会(30都道府県、全自治体比53.6%)で同制度を制定してほしいという意見書が採択されている。このような制度によって、一方で民間金融機関の活動に公共性を確保しながら、他方で政府系金融機関の活動を縮小するなど、民間金融のあり方を含めた幅広い改革が志向されるべきである。

「数減らし=改革」であるかのような浅薄な議論で、日本が戦後培ってきた貴重な諸制度を破壊し、将来に禍根を残すことだけは避けなければならない。
(2006/06/12 執筆)

山口義行・公式WEB

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