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第1回 納得いかない! 中小企業への大増税

5月 21st, 2006

元記事

中小企業経営者の皆さん!  今国会で、皆さんの生活に関わる重要な増税法案が可決成立したこと、知っていますか?

中小企業への増税法案がすんなり可決!

この増税案は、年の瀬迫る昨年12月15日に自民党税制調査会の答申の中に突如出現し、年が明けた1月17日には早くも閣議決定された。年末年始の忙しい時期である。このことを知っていた国民はほとんどいなかったといっていいであろう。そして、与党が3分の2を占めている衆議院へ。当然のことのように、3月27日この法案はすんなりと可決した。

「こんなの、中小企業イジメじゃないですか!」と民主党議員が財務大臣に迫るシーンも見られたが、結局参議院でも可決。増税法案はほとんど議論のないまま成立することになった。

「中小企業にとって、平均5割もの税負担増になりかねない」と指摘する税理士もいる。「コレが言いたい」の第1回は、この増税問題を取り上げることにしたい。

社長個人に認められた「給与所得控除」に「法人税」がかかる、という奇妙

どういう仕組みで増税されるのか。まずは簡単に説明することにしよう。

中小企業といえども、社長に支払われた給与は会社の経費として認められている。したがって、その分は法人税の課税対象にはならない。そのかわり、社長は給与を得たことで、それに応じた所得税を支払うことになる。会社の所得には法人税、個人の所得には所得税を課すという、きわめて正当かつ明快な仕組みのもとで、これまで徴税が行われてきた。

ところが、今回の増税策は、こうした枠組みを大きく崩すものとなる。というのは、社長が所得税を支払う際に認められる「給与所得控除」、これに法人税――所得税ではなく、法人税――を課そうというのだからである。

普通のサラリーマンと同様、社長にも当然のことながら「給与所得控除」が認められている。社長が支払う所得税は、給与からこの「控除」分を差し引いた金額に課せられる。このこと自体は今後も否定されない。ところが、今年度からは、社長に認められるこの「給与所得控除」分を「会社の所得」とみなして、そこに法人税を課すというのである。その当然の結果として、会社が支払うべき税金は増加する。これが今回の増税である(図参照)。

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たとえば、会社の所得が500万円、社長の給与が1000万円としよう。そして、その1000万円に対し、「給与所得控除」が200万円認められたとする。従来であれば、500万円に対しては法人税が課せられ、800万円(1000万円-200万円)には所得税が課せられる。これからは、800万円に対して所得税が課せられる点は変わらないが、法人税は500万円ではなく、700万円(500万円+200万円)に対して課されることになるのである。

この増税策がきわめて矛盾に満ちたものであることは明らかである。そもそも、「給与所得控除」を認めるということは、社長に支払われた給与は「個人の所得」であって、「会社の所得」ではないと、税務署が認めたことを意味している。上の例で言えば、給与1000万円は「個人の所得」であって、「会社の所得」ではない。税務署もそのことを認めたからこそ、そのうちの一定割合を「給与所得控除」として所得税の課税対象からはずしたのである。ところが、その「控除」分200万円に法人税を課すということになれば、今度はその200万円は「個人の所得」ではなく「会社の所得」とみなすことになる。これは、「給与所得控除」を算出する際、税務署がその200万円を含めた1000万円を「個人の所得」とみなしたことと明らかに矛盾する。税務署が一旦自ら認めたことを、今度は自ら否定することになるのである。

こんな矛盾があることは多少なりとも論理的思考力をもつ人なら誰でも気づくことである。ところが、「この税の仕組みはおかしくないか」と閣議で異議を唱える大臣が一人もいない。国会でもほとんど議論のないまま承認されてしまう。これが日本の政治の現状なのである。

どんな会社が、どれだけ増税になるのか

気になる経営者諸氏のために、どんな会社が増税になるのかについても記しておこう。増税の対象となるのは、以下の3つの条件を満たしている会社である。

  1. 株の90%以上を同属で所有(有限会社の場合は出資比率)。
  2. 常勤役員の半数以上が同属。
  3. 会社の所得と社長の給与の合計額が800万円以上。

以上の条件をすべて満たしている会社が対象となる。ただし、③については、合計額が3000万円未満の場合には、その合計額のうち社長の給与が半分を超える会社に限定される。3000万円以上の場合には、そういう制限はない。いずれにしても、中小企業を狙い撃ちした増税策であることはまちがいない。

では、どれくらいの数の企業が増税になるのか。政府は、会社全体の2%程度、5~6万社に過ぎないとしているが、本当にそうだろうか。税理士会が税理士に対して実施したアンケートでは、各税理士事務所の顧問先企業のうち3割が該当するという結果が示されている。そうだとすれば、約70万社が増税対象になる。

では、どの程度の負担増なのか。

日本税理士会連合会副会長、清水武信氏の試算を紹介しておこう。

法人所得300万円、社長給与600万円の場合、改正前は99万4180円であった税金が、改正後154万7220円となり、55万3040円の増税となる。これは、なんと55.6%もの負担増である。(表参照)

改正前 改正後
法人所得 300万円 474万円
社長給与 600万円 600万円
給与所得控除 174万円 174万円
税金合計 99万4180円 154万7220円

55万3040円 55.6%アップ!

コレが言いたいーー論理矛盾、政策矛盾、議論不足

増税はその対象になる人々にとっては誰しも嫌なことである。しかし、そういうことを別にして、今回の増税策はあまりにも問題が多く、とても賛成できない。

その問題とは、以下の3点に整理できる。

  1. 第1は、上に記したように税理論上明らかに論理矛盾があるということである。税収が増えれば理屈なんか無視していいという、あまりにもご都合主義的な増税策だといえる。社長に認められる「給与所得控除」相当額はいったい「個人の所得」なのか、それとも「会社の所得」なのか。発案した財務省の官僚や自民党の税制調査会の議員、閣議決定した小泉総理をはじめとする閣僚政治家、法案に賛成票を投じた国会議員、どなたでもいいからこの問いにきちんと答えてから増税を実施してもらいたい。答えられないのなら、こんな理屈にあわない増税は止めるべきである。
  2. 第2は、政策矛盾をおかすことになるということである。この増税策が急浮上したのは、実は、本年5月1日から新たに「会社法」が施行されることが背景になっている。1円でも株式会社かつくれる「会社法」のもとで、これまで個人事業を営んできた人々が会社を設立して「節税」をはかるかもしれない。それを防ぎたいという財務省の思いが、この増税策を生み出した。
    しかし、新「会社法」で新規の会社設立を促そうとアクセルを踏んでおきながら、他方で増税によってこれにブレーキをかけるというのは、明らかに政策的に矛盾する。実際、これまで事業活動で900万円の所得を稼いでいた個人が、会社を設立して、会社の所得300円・社長の給与600万円という形をとったとすると、それだけで30万円を上回る増税になる。個人事業のままにしておけば税金は150万5000円ですむが、会社にしたとたんに所得税や住民税を含めて税金の総額は181万1220円となる。差し引き30万6220円の増税である。つまり、会社を作ると損をしてしまうのである。
  3. 第3は、以上のように、多くの問題を含むにもかかわらず、ほとんど議論がなされないうちに成立してしまったことである。未だに、この増税のことを知らない中小企業経営者は多い。マスコミもほとんど取り上げない。法案がすでに可決成立した今、今後は税務署が実際にどのような運用を行うかが注目されるが、その運用に影響を与えるという意味でも、再度幅広い議論がなされなければならない。

(2006/05/21執筆)

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