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山口ブログ№10[2017.1.1]

1月 2nd, 2017

新年のご挨拶を兼ねて、
ブログ№10をお送りします。

昨年は本当にお世話になりました。
皆様のおかげをもちまして、
スモールサンも創立8年目に入り、
少しずつではありますが、
着実な成長を遂げております。

本年も中小企業支援のさらなる充実に向けて、
スタッフ一同、一層努力してまいる所存です。
引き続きの御指導御協力を
心よりお願い申し上げます。

ところで、皆様は
大晦日をどのように過ごされましたか。
私は紅白歌合戦ではなく、
総合格闘技のTV番組を観ていました。
42歳のミルコ・クロコップの活躍ぶりを見て、
年齢を理由に「気力の衰え」を正当化していた
自分を反省する良い機会となりました。

そういう意味では、「新年の迎え方」として、
いい番組選択だったといえます。

私が選んだ「昨年の漢字」は“隠”

昨年12月22日、聴かれていた方も
いらっしゃると思いますが、毎週木曜日
私がコメンテイターを務めているラジオ番組、
文化放送「福井謙二グッモニ」で、
昨年の1年を象徴する「漢字」として、
「隠(イン)」という文字を選び、
その理由について少しお話をしました。

「隠れトランプ」という言葉も使われたように、
昨年は、隠れていたものが「顔」を見せ始めた年
であったように思ったからです。

トランプ勝利はメディア関係者にとっても、
多くの識者にとっても「予想外」のことでした。
これはそれまであまり表面に出てこなかった
国民の不満が、政治家の「煽り」にのせられて
「顔」をのぞかせたからにほかなりません。

私の専門分野でいえば、
昨年9月に実施された日銀の金融政策の「変更」も、
これまで隠されていたものが、ちらりと
「顔」をのぞかせた現象だったように思います。
それは、「異次元量的緩和政策」の行き詰まりが
「漏れ出た」ものだったからです。

今年の漢字は“現”
――様々な「矛盾」が表面化する年――

さて、「昨年が“隠”だとすれば、今年は“現(ゲン)”」
――私は今そんな風に思っています。
「昨年、隠れていたものが顔をのぞかせた」ことで、
「今年は、様々な矛盾が噴き出る年になる」と、
思うからです。

例えば、トランプ氏は選挙期間中、
「輸入を制限すれば、米国製造業を再興できる」と
訴えて、白人工場労働者(ブルーカラー)たちの
「隠されていた不満」を炙り出しました。

しかし、そんな政策を本当に実行に移せば、
輸入品の価格が上昇してしまい、
それを材料や部品として使う
米国製造業の競争力が
一層削がれることになりかねません。
そうなれば、
「製造業を再興しようとする政策」が
「製造業の活力をさらに奪う」という
「矛盾」に陥ります。

また、トランプ氏は大規模な公共事業を
継続的に実施して、米国経済を元気にするのだと
訴えました。
しかし、大規模な財政支出で
物価が上がり始めれば、
FRBは躊躇なく金利を引き上げて
通貨価値の安定を図ると言明しています。

金利上昇が起きれば、世界中から米国に資金が流入し、
ドル高が起きます。そうなれば、
そのドル高によって、米国製造業の競争力が
奪われることになります。
トランプ氏は支持者たちから反発を
受けることになるでしょう。
これも「矛盾」です。

日銀が抱える矛盾も表面化?!

米国で金利上昇が起きれば、そのことで、
日銀の金融政策が抱える「矛盾」も表面化する
ことになます。

すでに日銀の国債保有率は4割を超えていて、
年80兆円のペースで国債を買い上げる
「異次元緩和政策」は「限界」に近づいていると
言われています。

9月に日銀は政策変更を表明し、今後は
「年80兆円という“量”にはこだわらない、
これからは10年物国債利回りを
ゼロ%近辺にとどめることを目標にする」と
表明しましたが、
これも国債買い上げが限界に近づいてきていることを
表すものでした。

しかし、米国金利が上昇すれば、
日本の国債を売って、
米国の国債に乗り換える動きが出てきます。
その結果、日本の国債価格が低下し、
利回りが上昇することになります。
つまり、長期金利の上昇が起きます。

米国大統領選挙後、
日本ではすでにそういう動きが出てきました。
昨年末に、三菱銀行が早々と住宅ローンの
引き上げを決定したのも、
こうした国債利回りの動きを反映したものです。

こうした動きが広がれば、
「10年物国債利回りをゼロ%近辺」に抑えると
言明した日銀としても放置できません。
国債をどんどん買うことで、
国債価格の低下を防がなければならなくなります。

でも、そうすれば、
日銀の国債保有率がますます上昇し、
これ以上、国債を買い続けることが
難しくなるという「限界」が
一層速いテンポで近づいてしまいます。
これも「矛盾」です。

“変化”は“チャンス”と受け止めて

上記に加えて、
中国も過剰生産能力払拭のための「構造調整政策」と、
「景気の落ち込みを防ぐ」ための「景気対策」を
同時進行させる「矛盾」に苦しんでいます。
この「矛盾」も、
今年はより一層激しくなることが予想されます。

このように様々な「矛盾」が表面化してくると、
経済情勢も揺れ動くことになります。

昨年12月号の『スモールサンニュース』の
「景気を読む」のコーナーに、
「激動の予感 2017」という表題を付したのは
上記のような判断に基づくものです。

したがって、今年は中小企業経営者が
大変難しい「かじ取り」を強いられる局面も
やってくるかもしれません。

しかし、「矛盾」の発露は「変化」の兆しです。
そして、「変化はチャンス」でもあります。
――そんな風に前向きに受け止めて、
皆様には、今年をさらなる飛躍のきっかけにして
いただきたいと思います。

私も全力で皆様の知的サポートに努めます。
ともに頑張りましょう。

           2017.1.1山口義行筆

山口ブログ№9[2016.9.22]

9月 26th, 2016

日銀の「金融緩和強化策」
~2つのウソと3つの限界~

去る9月21日、日銀はこれまでの
金融政策の「総括的検証」を踏まえて、
新たな「金融緩和強化策」を発表しました。
スモールサン会員の中にも、この新政策が
「どのようなものか」と強い関心をもって
新聞記事などを読まれた方が多いと思います。
でも、そんな方々から聞こえてくる声は
「何だかよくわからない」というもの。
そこで、今回のブログでは、
日銀が打ち出した「新政策」について、
できるかぎりわかりやすく
解説してみたいと思います。

2つのウソ

「なぜ、わかりにくいのか」――その理由は
日銀が「ウソ」をついているからです。
その「ウソ」とは、以下の2つです。

ウソその①――金利引上げを「緩和強化」と呼ぶ
「緩和強化ではなく、緩和後退ではないか」――
9月21日、米国に本社を置く通信社ロイターは、
日本の債券関係者のこんな感想を紹介しています。
 実は、この感想こそが正しいのです。なぜなら、通常
「金融緩和の強化」といえば、「金利の引き下げ」です。
ところが、今回日銀が打ち出した政策は
「金利を引き上げよう」というものなのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する」と、
日銀は発表しましたが、この国債利回りは7月中旬には
マイナス0.3%にまで下がっていました。
こんな風にマイナス圏にある利回りを、今後は
ゼロ%程度に固定しようというのですから、
これは「金利引き上げ」にほかなりません。
このように「金利を引き上げる」政策を、
「緩和強化策」と称して発表したのです。
この「ウソ」に惑わされて、
政策発表直後は為替が円安に動きました。
しかし、「実は緩和強化ではなく後退だ」と
市場関係者が気づくにつれて、
再び円高に押し戻されたのです。
市場関係者も騙されるくらいですから、
素人が日銀の発表を「わかりにくい」と
感じるのは当たり前です。

ウソその②――「テーパリングではない」と強弁
 「これはテーパリングではない」――
政策発表直後の黒田総裁の発言です。
日銀のもう1つのウソとは、これにほかなりません。
テーパリングとは「量的緩和政策の縮小」のこと、
つまり「日銀が買い入れる国債の量を減らす」ことです。
 日銀は「年間80兆円のペース」で国債を買い増して
きましたが、今後はそういう「量」を目標にしないで、
10年物国債の利回りをゼロ%にするといった具合に
「金利」を目標にするのだと発表しました。
日銀が「年間80兆円」のペースで買い増していくと、
相当な買い圧力ですから、国債価格がどんどん上昇します。
その結果、利回りがどんどん低下してしまいます。
7月にマイナス0.3%にまで低下したのはそのためです。
 ですから、国債利回りをゼロ%にとどめるためには、
日銀はこれまでのペースで国債を買い続けることをやめ、
そのテンポを落とさなければなりません。
これは、まさに「テーパリング」にほかなりません。
今回の発表は、「いずれテーパリングを開始する」と
日銀自ら宣言したようなものなのです。
ちなみに、アメリカの通信社ブルームバーグは、
21日配信の記事で、市場関係者の間には今回の措置を
「事実上のテーパリング」とみる「見方」があると
はっきり書いています。

3つの限界

以上述べてきたように、今回の日銀の「新政策」は
「金利引き上げ」と「量的緩和の縮小(方向を示す)」という
「緩和後退策」にほかなりません。
では、なぜ日銀はそんな「後退」策を、今になって
発表したのでしょうか。それは、以下の3つの点で、
従来の緩和策が限界に達したからです。

限界その①――金融業界からの猛烈な反発
 その1つは、金融業界からの猛烈な反発です。
この反発で、日銀はマイナス金利政策の後退を
余儀なくされたのです。
 マイナス金利政策とは、民間銀行が「日銀に置く預金」
――日銀預金――にマイナス金利を課す政策のことですが、
今のところ、この政策自体はほとんど反発にあっていません。
なぜなら、マイナス金利が課せられるのは、実際には
日銀預金全体の1割程度しかないからです。
8割弱の預金には0.1%のプラス金利がついていますし、
残り1割強はゼロ金利だからです。
金融業界から反発を受けているのは、
日銀によるハイテンポの買い上げによって
国債価格が高騰したために、国債の利回りが
マイナスになってしまったことです。
利回りがマイナスになったということは、今国債を買って
それを満期まで持っていたら赤字になるということです。
したがって、金融機関はもはや国債を買うことで
資金を運用することができなくなってしまったのです。
銀行は預金を集めても運用先がない、保険会社は
保険料を集めても運用先がない――こんな状態になりました。
「日銀さん、いいかげんにしてよ」という声が大きくなりました。
そこで、日銀は国債を買い上げる量を調整して、
「10年物国債の利回りをゼロ%程度にし、
それよりも長期の国債――たとえば20年物国債など――は
プラス圏におさまるようします」と約束したのです。
ちなみに、短期金利はマイナス、10年物はゼロ、
もっと長期のものの金利はプラスというように、
期間ごとで金利をコントロールしようというわけですが、
これを日銀は「イールドカーブ(利回り曲線)コントロール」と
英語で説明しました。それがまた、皆さんから
「何だかよくわからない」という声が上がる原因になったのですが、
日銀としては、こんな具合に英語の専門用語を使うことで、
何か積極的な政策を打ち出したかのように
「装い」たかったのだと思います。

限界その②――国債枯渇問題
もう1つの限界は、国債枯渇問題。つまり、
国債が不足して、日銀が「年間80兆円のペース」で
買い増そうとしても、実行が難しくなるという限界です。
 スモールサンニュース9月号の「巻頭インタビュー」で、
「来年6月にも限界に達する」という予測を紹介しましたが、
近々日銀がテーパリングを開始しなければならないことは
もはや疑いようのない事実です。とはいえ、
「テーパリングを開始します」などと発表すれば、
それだけで国債価格が急落してしまい、
金利が想定以上に急騰してしまう可能性があります。
そこで、日銀は「テーパリングではない」と言いつつ、
「国債利回りをコントロールする」という言い方で
事実上のテーパリングをはじめることにしたのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%に固定する」と
日銀が発表すれば、それ以上の長期金利の急騰
すなわち国債価格の急落は避けられると考えたわけです。

限界その③――物価上昇・景気浮揚への効果がない
 限界の3つ目は、いくら緩和政策を続けても
物価上昇や景気浮揚に効果が出てこないという限界です。
 当初日銀は「2年以内に物価上昇率を2%程度にする」と
期限付きで目標設定していたのですが、3年半経った今も
物価は上がらないどころか、下がり続けています。
つまり、「政策効果という点での限界」は、
だれの目にも明らかになってしまったわけです。
とはいえ、「敗北宣言」を出すわけにはいきませんから、
今回日銀は「期限を設定しない」で、物価上昇率が
2%くらいになるまで、そしてそのあとでもしばらくの間は
「緩和政策」を続けると宣言することでお茶を濁したわけです。
これはいってみれば「長い目で見てください」ということですが、
これを日銀は「フォワードルッキングな期待形成」と
またまた英語を使うことで、
意味があるかのように「装っています」。
こうしてますます「わかりにくく」なってしまいました。
でも、どう言いくるめようとしても、日銀自身が
「短期的な効果は期待できない」ことを認めたわけですから、
これからは「長期戦」だということになります。
そうなると、長期間続けられる政策でなければなりませんから、
金融界から反発の強いマイナス金利政策は改めよう、
いずれ限界が来る「大量の国債買い上げ」という「旗」も降ろそうと
いうことになります。
そこで、上記のような政策発表になったのです。

考えられる今後の影響

最後に、今回の日銀の政策変更で、
実際の経済にどんな影響があるのかという点について
簡単に記しておきます。
一言でいえば、当面は「大した変化はない」と思います。
それでも、指摘しておかなければならないことが3点ほどあります。

影響その①――円高圧力の高まり
 事実上のテーパリングが始まるということで、
これからは円高圧力が続くと予想されます。
「円を大量に供給する」ことで「円安を誘導する」というのが、
黒田日銀の手法でしたから、その「円の供給が減ってくる」となれば、
投機筋が円高方向に仕掛けてくることは十分に予想されます。
もちろん、米国の利上げがどうなるかなどにもよりますから、
一概には言えませんが、こういう観点をもって
事態の推移を見守ることが必要です。

影響その②――長期ローンの金利上昇
もう1つは、日銀が10年物以上については
ゼロ%以上の金利にする方針を打ち出したわけですから、
長期の貸出金利とりわけ住宅ローンは
多少上昇してくる可能性があります。
もちろん、低金利政策は続くわけですから、
大幅な上昇はないと思いますが、
今年の7月のような水準よりは「上がる」ことになると思われます。

影響その③――「信用リスク」の増加による金利上昇に注意を
 3つ目は、日銀が「長期戦」を打ち出したことで、
長期にわたって「低金利」が続くという安心感から、
「借り過ぎ」の企業が出現する懸念が大きくなることです。
 不動産業界などですでにその傾向があることは、
スモールサンニュース9月号で述べましたが、
そうした業界に限らず、銀行の「貸し込み」や、
企業や投資家の「借り過ぎ」が発生しやすくなります。
もちろん長期にわたる低金利状態は、低コストで
借り入れができるチャンスであることは間違いありません。
しかし、「金利が安いから」という理由だけで、
十分な展望のないまま借り入れを増やすことは危険です。
金利がいくら低くなっても、返済ができなくなれば
企業は倒産の危機にあうことになりますから。
さらに、国債利回りを基準にしているといっても、
銀行が実際に貸し出す時には、それに「信用リスク分」を
上乗せした金利になることを忘れてはいけません。
「借り過ぎ」によって企業の保有する在庫が増加し、
「今後この企業では売れ残りがかなり出そうだ」とか、
「景気の先行きが怪しくなったので
売れ行きが急減するかもしれない」と銀行が予想すれば、
「信用リスク」が高まったとして、追加融資の際の金利を
引き上げてきます。
 経営者はこのことを忘れずに行動する必要があります。
                 2016.9.25山口義行筆

山口ブログ№8 [2016.6.27]

6月 27th, 2016

英EU離脱問題~今言える2つのこと~

英国民投票でEU離脱派が勝利
英国の国民投票直前には
EU残留派優勢という世論調査も出ていましたから、
多くのマーケット関係者にとって
離脱派の勝利という結末は
まったく想定外の出来事でした。
そのため、市場は大きなショックに
見舞われることになりました。

しかし、その動揺も数日でひとまず収まり、
現在は英とEUとの「離脱交渉」が
今後どのような展開を見せるかに
多くの人々の関心が集まっています。

そもそも、英国会の承認が得られて
本当にEU離脱が実現するのかどうかさえあやしい
とする意見もあるほどですから、
今後を予想することは極めて難しいことです。

とはいえ、少なくとも、以下の2つのことは
「今でも言える」のではないかと私は思っています。

最終的には「自由貿易協定」の締結へ
その1つは、
英国が離脱通告をすれば、EUとの間で厳しい
離脱交渉が始まることになりますが、
それでも、最終的には
両者は「自由貿易協定」を結び、
両者間の貿易関税はゼロに近いところで
落ち着くことになるのではないかということです。

そんな馬鹿な!
と思う方もおられるでしょう。

英国は移民の流入に制限を加えるために、
「モノの自由な移動」が保証されているEUを
自ら飛び出しました。
その英国とEUが「自由貿易協定」を
結ぶことになれば、EUは英国に
「いいとこ取り」をされてしまったことになる。
――そんなことをEUが許すはずがない。

それを許せば、EU域内の離脱派が
英国の真似をして、
「ウチも、ウチも」と騒ぎ始め、
EUそのものが瓦解してしまう。

こんな風に思われている方は
少なくないと思います。

EUにとって英国は重要な輸出先

でも、英国はEUにとって
もっとも重要な貿易相手国の1つだということを
頭に置いておく必要があります。
しかも、EUからすれば輸出の方が輸入よりも多い。
2014年でいえば、
EUは英国に2240億ポンド輸出し、
英国から1480億ポンド輸入しました。

そういう「お得意さん」ともいえる英国に対して、
自ら高い関税をかけて
「輸出をしにくくして、マーケットを減らす」のは、
EUにとって極めてばかばかしい選択です。

さらに、仮に「自由貿易協定」を結んで、
関税をゼロに近づけたとしても、
EUを離脱したことで
英国にとっては様々な障壁ができることになり、
必ずしも「いいとこ」だけを「取る」ことにはならない
という点も理解しておく必要があります。

たとえば、関税ゼロの適用を受けるためには、
英国は「英国内で作られた商品」であることを
輸出の際に証明することが必要になります。
いわゆる原産地証明というものですが、
EU内にとどまっていれば、
英国内の企業はそういうコストを負わなくてすみました。

また、たとえば
これは金融機関などに影響してきますが、
イギリス国内で一度許認可を得さえすれば、
これまでであればEU域内どこの国でも
それが通用してビジネスが行えたのですが、
離脱後はそういうわけにはいきません。

また、EU域内に進出した英国の企業や金融機関は、
EUのルールに従わなければなりませんが、
これまでであれば、そのルール作りに
英国も関わることができました。
しかし、離脱後はもはや口出しできなくなります。
将来英国の企業や金融機関にとって不利なルールが
課せられることになっても、文句はいえません。

こうした様々な障壁やリスクを嫌って、
今後英国に参入してくる企業の数が大きく減少しまうとか、
あるいは今英国にいる企業や金融機関が
英国を去ってEUに出て行くようなことになれば、
いくら自由貿易協定を結んでいても、
英国経済は打撃を受けます。

今後は、そうした関税以外の細々としたことが
EUと英国との間の「交渉事」としてテーブルに
乗せられていきます。
その結果次第では、
EU域内の離脱派が元気づく可能性もありますから、
この点については、
EU側は慎重に交渉を進めることになるでしょう。

しかし、「自由貿易協定」そのものについては
おそらく締結の方向に向かうと思われますし、
その他の交渉においても
英国経済を著しく停滞させてしまうことは
EUにとっても好ましいことではありませんから、
それなりに時期を選びながら、
――言い換えると、域内各国の選挙日程や
「離脱派」の動きなどを見据えながら――
遅かれ早かれ「大人の決着」がなされていくものと思われます。

結論的には、英国のEU離脱が、
世間で取り沙汰されているような
世界経済の大きな混乱ないし低迷要因になることはないし、
これを機にEUが崩壊に向かうなどということもない
と考えています。

ただ、離脱が実行されれば、
それがきっかけとなって、
長期的には、英国経済の国際的な地位の低下が
徐々に進行していくことは
避けられないとは思っています。

残されるもの――それは「円高」
「それなら、心配はいらないね」
ということにはならないのが、
“日本にとって”の「離脱問題」です。

というのは、今回の離脱騒動で
一気に進行した円高が、
新たな1つの水準として、
定着してしまう可能性が高いからです。

さきほど「今でも言える2つのこと」と書きましたが、
この「円高の定着」というのが、
その2つ目にほかなりません。

離脱騒ぎで英国(ポンド)や
EU(ユーロ)からお金が逃げだして、
ドルや円に向かっていきました。
その結果、ポンドやユーロに対して
ドルが上昇し、さらにそのドルに対して
円が上昇するということが起きました。

今後、英国とEUとの間で「離脱交渉」が行われ、
一定の方向性が見えてきたとしても、
それを期待して、お金が、円から
ポンドやユーロへと戻っていって
元通りになるかといえばそれは難しい、
したがって、ドル対して円が
再びかつての円安水準にまで戻るのも
難しいと思われるからです。

なぜか――
第1に、英国とEUとの「交渉」は
完全に決着するまでには数年を必要としますから、
仮に交渉過程で、ある程度「落し所」が
見えてきたとしても、多かれ少なかれヨーロッパには
不安定要因がかなりの期間残されることになるからです。
ですから、安全な通貨としての「円への志向」は
なかなか払しょくできません。

第2には、そういう不安定さを配慮して、
アメリカの金利再引き上げが
さらに延期される可能性があるからです。
これは、金利引き上げによってドルが上昇することを見込んで
ドルを持っていた投機筋に
「ドル売り=円買い」を促す要因になります。

こうして、現在の1ドル=101~105円という水準が
定着してしまうことになれば、安倍政権下で
一部大企業に見られた「円安バブル」ともいえる現象は
完全に終止符を打たれることになります。

その意味では、英国のEU離脱は、
アベノミクスに「最後のとどめをさす」役割を
担うことになります。

これを機に、円安への甘い期待を捨て、
日本経済は「新しいあり方」を求めて
模索を始めなければなりません。

国民がそのことに気づけば、
それが参議院選挙の結果にも
影響することになりますが、
はたしてそれはどうでしょうか。

日本国民の問題意識が問われます。

山口ブログ№7 [2016.5.31]

5月 31st, 2016

世論と政府、どっちが狡猾なのか
~消費増税先送りが意味するもの~

増税延期で政権支持率大幅アップ
安倍首相は来年4月に予定されていた
消費増税の再延期を決めました。

「再び延期することはない。
ここで皆さんにはっきりと
そう断言いたします」と
14年11月に発言したことも、
「必ずや」(増税が可能な)「経済状況をつくり出す」
と断言したことも棚に上げ、
本人は何ら責任を取らないままの再延期です。

サミットの場で「リーマンショック前後に似ている」と
発言し、この現状判断を各国首脳も「共有」したから
という理由で、増税再延期を正当化しています。
でも、これが「こじつけ」でしかないことは
だれの目にも明らか。各国首脳や外国メディアからも
「こじつけ」ぶりに批判が上がっています。

何よりも、政府自身がいまだに日本の景気は
「ゆるやかな回復が続いている」としています。
この景気判断と増税再延期は明らかに矛盾しています。
政府は、この景気判断を取り下げて、
素直に「日本の景気は悪化しつつある。
ここで増税するのは危険だ」と言うべきです。

それを言わないのは、ただただ
「アベノミクスが失敗した」と
批判されることを恐れているからにすぎません。

こんな政権を国民はどう思っているのか。
今回の決定で、少しは政権に批判的な人たちが増えるのでは
――と思いきや、結果は真逆。
直近の世論調査で政権支持率は大幅にアップしました。

政権としては大成功。「筋が通ろうが、通らまいが、
国民は増税再延期を喜んでいる。これで参議院選挙も安泰」。
安倍首相はそう思っているに違いありません。
「世論誘導なんてチョロイ」と思っているかもしれません。

しかし、ちょっと見方を変えると、
この事態はまったく逆に見えます。
というのは、今回の決定は、
安倍政権の方が「世論によって見事に誘導されている」
ともいえるからです。

「世論」に誘導される安倍政権
「再び延期することはない」と断言した首相が、
なぜ再延期を決定せざるを得なくなったのか。
それは4月増税に反対する世論が高まってきたからです。
共同通信社が4月末に行った世論調査では
「反対」が64.6%。
昨年12月調査の50.0%から大幅な上昇です。

同調査では「アベノミクス」で
景気回復を「実感していない」との答えも
81.4%に達していて、
このまま消費増税の再延期なしに
参議院選挙に突入すれば、
国民の反発を招いて与党が思わぬ「敗北」を喫する
可能性さえあったのです。

こんな具合に、最近の安倍政権では
世論に押されて「妥協」を余儀なくされる
という事態が続いています。

最初は冷たい反応をしていた保育園・保育士問題では、
国民からの批判の高まりに慌てて
付け焼刃的とはいえ「対策」を打ち出しました。
また、沖縄の辺野古問題では「粛々と工事を進める」と
言っていたにもかかわらず、世論の批判を無視できず、
急きょ方針を転換してひとまず工事を中止しました。

では、なぜこんな風に安倍政権は世論を気にして、
「妥協」めいたことを繰り返しているのでしょうか。

それは、集団的自衛権の行使や憲法改定という
国民にいまだ不人気な政策を実現しようとしているからです。
そのためには国民からの高い政権支持率が不可欠です。
とくに憲法改定となれば、
議員総数の3分の2を確保する必要があります。

どっちが狡猾なのか、国民世論と政権

では、国民はそういう安倍政権の意向を
受け入れてきているのでしょうか。

今回の増税再延期で、共同通信の5月末世論調査では
政権支持率が前回調査48.3%から55.3%へと
7ポイントも上昇しました。
ところが、同調査では、
安倍首相の下での改憲について
反対が54.9%にのぼり、
賛成35.0%を大きく上回っています。

日本経済新聞社とテレビ東京は
例年憲法記念日を前に世論調査を実施しています。
安倍政権誕生前には憲法を「改正すべきだ」が
「現状のままでよい」を上回っていましたが、
安倍政権誕生後は状況が一変しています。
15年4月に「現在のままでよい」(44%)が
「改正すべきだ」(42%)を逆転し、
さらに本年4月の調査では
「現在のままでよい」との回答が50%に達しました。

世論に妥協してでも政権支持率を引き上げたいと
躍起になってきた安倍政権ですが、
安倍首相が「一番やりたいこと」については
反対に世論の支持を失いつつあるというのが実態なのです。

安倍政権はあの手この手で「世論誘導」を行い、
高い支持率を得て改憲にまでもっていこうとしている。
他方、世論の側は安倍政権にエールを送ることで政策を誘導しつつ、
でも、安倍政権の本当の狙いに対してはノーを突きつけている
――安倍政権と世論、双方に「狡猾さ」を感じるのは私だけでしょうか。

とはいえ、次期の参議院選挙で改憲勢力が3分の2を獲得すれば、
安倍首相は改憲の夢に大きく近づくことになります。
3分の2を取れなければ、
安倍政権は世論に妥協しただけで、
肝心の目的は果たせなかったことになります。

参議員選挙の結果が待たれます。

立教大学教授・スモールサン主宰 山口義行

追伸)
私が企画、出演しているBS11「中小企業ビジネスジャーナル」は
多くのスモールサン企業の協賛で成り立っています。
今回協賛企業として紹介したいのは、株式会社晃商。
とくに同社が経営する「焼肉の天壇(てんだん)」です。
天壇は1965年に京都で誕生した「焼肉の名門」です。
伝統の味と行き届いたサービスが魅力で、店内の雰囲気も素敵です。
京都祇園本店はスモールサン・ゼミ京都の会場としても
使わせていだたいています。
東京なら銀座店と赤坂店があります。
会合などで、ぜひご活用いただければと思います。

{現在、協賛企業の不足で番組継続が危なくなってきています。
「スポンサーをしてもいいよ」という企業がおありでしたら、
ぜひ私にご連絡ください。
1回の放送で15万円~30万円程度の出費で、
全国にテレビCMが流せます。格安です。

山口ブログ№6 [2016.4.6]

4月 6th, 2016

新年度入りとともに株価大幅下落、なぜ?
~マイナス金利政策の“2つの不思議”~

新年度入り1週間で日経平均1000円下げ

新年度入りした途端、
株価が大幅に下落するという状況が続いています。
3月31日終値16758円をつけた日経平均は、
新年度入りとともに下落し続け、
4月6日の終値は15712円と、
再び16000円を割り込んだ水準で低迷しています。

新年度入り早々の株価大幅下落――
なぜ、こういうことが起きているのか。
今回のブログではその解説を試みます。

景気失速懸念の急浮上

今回の株価下落のきっかけになったのは、
1日発表された3月の日銀短観です。
企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が
たとえば大企業製造業でプラス6と
前回(昨年12月)調査を6ポイントも下回りました。

業況判断DIというのは、
景況感が「良い」と答えた企業の割合から
「悪い」と答えた企業の割合を
差し引いて求めたものです。
DI値が6ポイントも下がったのは
「よい」と答えた企業の割合が3%減って、
「悪い」と応えた企業の割合が3%増えたからです。
[ちなみに、全体の74%が「さほど良くない」と応えています]

注目すべきはその水準です。
プラス6という水準は、
13年6月にプラス5となって以来
2年9カ月ぶりの低さです。
つまり、今回の結果は、
アベノミクスが始動した頃の水準にまで
景況感が戻ってしまったことを示したわけです。

「アベノミクスはもう用を成さなくなった」
「景気は後退局面に入ろうとしている」
――そういう感じを抱かせたのが今回の日銀短観でした。
これを受けて株価が下落したわけですから、
これはきわめて正常な反応だったといっていいでしょう。

海外からの需要は円安誘導前の水準に逆戻り
では、日銀短観が示した景況感悪化の背景には
何があるのでしょうか。

2つあると考えられます。

その1つは中国景気の失速を背景とした海外経済の悪化です。
それは、日銀短観でいえば、
海外の製商品需給判断指数(DI)に示されています。
このDIは、「需要超過」と答えた企業の割合から
「供給超過」と答えた企業の割合を引いた値です。
このDI値がマイナス11と
前回調査から2ポイント悪化しました。

マイナス11という水準は
2013年3月調査以来3年ぶりの低さです。
つまり、海外からの需要は、
安倍政権が円安誘導を開始する以前の水準にまで
下がってしまったことを示しています。

一時1ドル=109円台
日銀短観が示した景況感悪化の背景にはもう1つ、
円高の進行があります。
円高は日銀短観発表以降も加速していて、
5日のニューヨーク外国為替市場では、
一時1ドル=109円台後半にまで進みました。
約1年5カ月ぶりの円高水準です。

なぜ円高が進行しているのか。
1つは、FRBは「予定していた金利引き上げを実施できない」
という見方が広がっているからです。

昨年12月にFRBは金利を引き上げましたが、
その際今年は4回程度金利引き上げを実施するとしていました。
そこで、アメリカの金利が上がればドル高になると見込んで、
世界中にばら巻かれていた資金がアメリカ(ドル)に戻ってきました。

ところが、アメリカの経済が予想ほど強くなく、
世界景気も悪化が懸念されている状況では
アメリカも金利を上げられなくなってしまい、
春に予定していた金利引き上げも断念しました。
「今年は金利引き上げを1回もできないのではないか」
という声まで出ています。

「金利引き上げ→ドル高」を期待して
ドルで資金を保有していた投資家たちは、
それが無理だということになれば、
ドルから離れて他の通貨に乗り換えようと動くことになります。

その際、もともと大幅な円安が進んでいた円であれば
「今後これ以上円安になることはない、
とすれば、円安が起きてドルに戻した時に損をする心配もない」、
ということで、
ドルを売って円に買おうという動きが活発になったわけです、
こうして、円高ドル安が進みました。

マイナス金利政策の2つの不思議

こうした動きが強い中では、日銀が円安方向に相場を戻そうとして
マイナス金利政策を実施しても効果はありません。

本来であれば、マイナス金利政策で日本の金利が下がれば、
資金は日本からアメリカに流れますから、
ドル高円安に相場は振れるはずですが、
0.1%くらい金利が下がったくらいでは
上記のような国際的な資金の流れを変えることはできません。

反対に投機筋は、「マイナス金利政策を実施しても
日銀は円高を止めることができなかった」という事実に着目して、
今後円高が進んでも「もはや日銀は打つ手なし」と判断し、
安心して円買いを進めました。
結果としてマイナス金利政策を実施したことで、
ますます円高が進んでしまったのです。

それでも、投機筋は「もしかしたら、
日本政府が円売りドル買いという為替介入を行なって、
円安方向に相場を戻そうとするのではないか」と
心配していたのですが、
昨日安倍首相が自ら
「通貨金利下げ競争を避けるべきだ」と発言したことで、
「日本政府が為替介入する心配はない」と
ますます安心させてしまい、
一気に1ドル=109円台まで円高が進んでしまったのです。

黒田日銀総裁も安倍首相も「円安にしたい」と思っているのに、
「まったく反対の役割を果たしている」のだから、
リーダー失格だといわざるをえません。

マイナス金利政策を実施したのに、
円安ではなく、反対に円高が進んでいくというのは、
一見不思議ですが、
マイナス金利についてはもう1つ不思議なことがあります。

それは、マイナス金利政策を実施したのに、
大手銀行が住宅ローンを引き上げると発表したことです。

マイナス金利政策を受けて、
銀行は当初は住宅ローン金利を引き下げたのですが、
その結果どんどん借り換えが起き、
他方新規のローンが増えないため、
銀行は一方的に利益が減っていくという状況に
追い込まれてしまいました。
そこで、「せめて10年固定の金利だけは上げさせてください」と
なったわけです。

ヨーロッパでもマイナス金利政策を実施してから、
一部の住宅ローン金利が上がるということが起きています。

無理な政策は結局「負の効果」を生んで、
実体経済を傷つけます。
私は、黒田さんや安倍さんに辞めてもらうことが
「最大の景気対策」だと思っているのですが、
これは「言いすぎ」でしょうか。

山口義行・公式WEB

Yamaguchi-yoshiyuki.net