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第2回 これでいいのか! 政府系金融機関改革。

6月 12th, 2006

元記事

5月26日、行政改革関連法案が参議院で可決され、成立した。政府系金融機関を08年度に一元化すること、またその貸付金残高をGDP比で04年度の半分以下にすることなどが決定された。

中小企業経営者たちの不安

郵政民営化が小泉改革の”本丸”なら、政府系金融機関改革は”二の丸”だなどといわれ、いつのまにか行政改革の格好のターゲットになってしまった政府系金融機関。「政府系金融機関は一つにできる」という小泉総理の”鶴の一声”ならぬ”純の一声”でその一元化が決まり、「欧米諸国の政府系金融機関の直接融資は日本と比べてもっと少ない」というだけの理由で、その半減(GDP比)が決まった。

劇場型パフォーマンス政治を喜ぶ有権者諸氏には、「8つを1つに」にしてしまうという「小泉改革」は実にわかりやすく、いかにも痛快に映る。実際、この方針が「さすが小泉!」とばかりにマスコミで大いに持ち上げられたことで、内閣支持率も上昇した。

しかし、中小企業の現場はそれほど単純ではない。「今あるのは中小公庫さんのおかげ」「民間銀行の貸し渋りの際、支えてくれたのは商工中金だった」「国金(国民金融公庫)さんがいなかったら、この店は開業できなかった」と、政府系金融機関の今後に不安を抱く中小企業経営者は多い。そこで、「コレが言いたい」の第2回は、中小企業金融の目線から「政府系金融機関改革」を論じてみることにしたい。

政府系金融機関とは・・・

政府系金融機関とは、政府が自ら出資し、郵便貯金や簡保保険などを融資の原資としている金融機関である。

今回改革の対象になっているのは、下記の8つの金融機関である。これら以外に国民にもなじみの深い政府系金融機関として住宅金融公庫があるが、これは2007年に独立行政法人に移行することが決定されており、したがって今回の改革の対象には含まれていない。

  1. 国民生活金融公庫
  2. 中小企業金融公庫
  3. 農林漁業金融公庫
  4. 沖縄振興開発金融公庫
  5. 国際協力銀行
  6. 日本政策投資銀行
  7. 商工組合中央金庫
  8. 公営企業金融公庫

上の8つの政府系金融機関が、今回の改革によって以下のように再編成される。

政府系金融機関の再編成図

上図のように、日本政策投資銀行と商工中金は民営化され、公営企業金融公庫は廃止もしくは地方移管され、政府から切り離される。国際協力銀行の国際金融部門は他の4機関と統合されて新政府系金融機関になり、そのODA円借款部門は国際協力機構と統合されて独立行政法人となる。

簡単にいえば、これまで8つあった政府系金融機関を、統合や民営化などで1つだけにするというのが、今回の改革である。

3つの理由

なぜ改革が必要なのか--政府ならびにそれに同調するマスコミなどの論調からは、以下の3つの理由を読み取ることができる。

  1. その1つは、「小さな政府」論。「小さな政府」を実現するためには、政府系金融機関の切り離しや規模縮小が不可欠だというものである。
  2. 2つ目は、もはや政府系金融機関の歴史的役割は終わったというものである。政府系金融機関の低金利融資などによって企業支援することは、むしろ淘汰されるべき企業を温存させることに繋がり、現在では経済発展の阻害要因になっているとする認識である。
  3. 3つ目は、天下りの阻止。天下りが横行する由々しき事態を是正するためには、少しでも多く公的機関を減らす必要があるというものである。

これらは、一見説得力があるし、すでに広く論者たちに受け入れられてもいる。しかし、立ち入って検討してみると、いずれも簡単には首肯できるものではない。

たとえば、財政面で見た場合、政府系金融機関の切り離しが「小さな政府」に直結するものでないことは明らかである。政府から切り離す3機関(商工中金、政策投資銀行、公営企業金融公庫)とも、政府からの補給金はゼロ。したがって、これらを民営化ないし廃止しても財政支出削減効果はなく、政府を「小さく」することには繋がらない。

2つ目の歴史的役割は終わったという主張も、それを実証する証拠はなんら示されていない。反対に、中小企業にとって政府系金融機関が未だ重要な役割を果たしていることは、現場の経営者の声からも確認できる。たとえば、「民間銀行の貸し渋りの際、ピンチを救ってくれたのは中小企業金融公庫だった」「政府系金融機関は、返済期間が長く、利率が低いことが魅力的。長期固定・低利の借入を民間に期待することはできない」「政府系金融改革によって、創業支援や災害支援、長期の戦略的投資が難しくなるのではないかと危惧している」など…。

そして、3つ目の天下り問題については、政府系金融機関の役員に関係省庁出身者を就かせない方針を明確に打ち出せば解決できる。これは機関の民営化や数減らしとは本質的に異なる問題である。

政府系金融機関が担ってきたもの

そもそも中小企業金融と大企業金融とでは決定的な違いがある。中小企業はもともと資本金が少なく、また広く一般大衆から証券市場を通して資本を集めることもできない。したがって、大企業であれば本来自己資本でまかなうべき投資を、金融機関からの借り入れによってまかなわなければならないという不都合が本質的に存在する。

その1つが、起業資金である。これはリスクも高く、短期の資金回収も困難であるため、自己資本でまかなうべきであるが、中小企業の場合、これも金融機関からの借り入れに依存するほかはない。しかし、当然のことながら、民間金融機関はこうした融資には慎重にならざるを得ず、政府系金融機関が多くの部分を担当してきた。たとえば街の美容室やお寿司屋さんに行って「開業資金をどこで借りましたか?」と問うと、多くが「国金さん」と答える。今後、政府系金融機関の直接融資を強引に削減すれば、起業資金の調達が困難になり、いわゆる開業率が一層低下してしまう危険性は高い。

自己資本でまかなうべき投資のもう1つは、新製品の開発など新たなビジネスの展開に必要な資金である。これもリスクが大きく資金回収に長期を有する。

たとえば、研究開発型中小企業が3年後の事業化を目途に、新製品の開発に挑んだとしよう。それが結果的に失敗に終わっても、その開発資金を自己資本でまかなった場合には、経営上大きな打撃を被るにしても必ずしも企業倒産には直結しない。しかし、仮にそれを民間金融機関からの返済期間5年の融資でまかなったとすれば、この企業は新規事業の失敗で直ちに返済に窮することになり、倒産は不可避となる。したがって、新規ビジネスのための資金は本来自己資本でまかなうべきであるが、中小企業はこれも金融機関からの借り入れに依存せざるを得ない。ただし、こうした場合金融機関は長期で低利の融資を行うことが必要である。政府系金融機関はその役割を担ってきた。たとえば中小企業金融公庫の場合、10年を超える長期の融資を低利で実施してきた。おかげで、日本には研究開発型の中小企業が多く育ち、これが日本経済の強さの源泉となってきた。民間金融機関がこうした政府系金融機関の機能を十分に肩代わりできるとは思えず、そうである以上、その歴史的役割が終わったとはとても言えないのである。

巷間、優良企業を政府系金融機関が奪い、民間金融機関の経営を圧迫しているという議論が盛んであるが、実態は、政府系金融機関の上記のような企業育成機能によって、優良中小企業が育ち、その取引関係が継続しているにすぎないのである。「民業圧迫」を旗印に、そうした政府系金融機関の機能を縮小させてしまえば、優良企業が育つ基盤そのものが縮小してしまい、民間金融機関にとっても、ビジネスチャンスを失うことになりかねない。

コレが言いたい
--もっと機能論を!もっと現場を!もっと広い視野で!

最後に、政府系金融機関改革において留意すべきこととして、以下の3点を指摘しておこう。

  1. 第1は「もっと機能論を!」ということである。政府系金融機関の組織いじりばかりが先行してきたが、もっと機能に関する議論を深めなければならない。この点は上に指摘したことからも明らかであろう。
  2. 第2は「もっと現場を!」ということ。政府は中小企業の現場の声に真摯に耳を傾け、「改革への不安」を払拭すべく努力しなければならない。
  3. 第3は、「もっと広い視野で!」ということである。民間金融のあり方を含めた、もっと広い議論や仕組みづくりをしていくべきである。

たとえば、米国では、日本のような政府系金融機関は存在しないが、「地域再投資法」(CRA:Community Reinvestment Act)という民間金融機関に地域貢献を義務づけ、その行動を評価する制度がある。私はかねてより「金融アセスメント法」という日本版地域再投資法ともいうる制度を提案してきた。これはすでに、中小企業の方々を中心に幅広い支持を得て、全国で975の地方議会(30都道府県、全自治体比53.6%)で同制度を制定してほしいという意見書が採択されている。このような制度によって、一方で民間金融機関の活動に公共性を確保しながら、他方で政府系金融機関の活動を縮小するなど、民間金融のあり方を含めた幅広い改革が志向されるべきである。

「数減らし=改革」であるかのような浅薄な議論で、日本が戦後培ってきた貴重な諸制度を破壊し、将来に禍根を残すことだけは避けなければならない。
(2006/06/12 執筆)

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