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山口ブログ№9[2016.9.22]

9月 26th, 2016

日銀の「金融緩和強化策」
~2つのウソと3つの限界~

去る9月21日、日銀はこれまでの
金融政策の「総括的検証」を踏まえて、
新たな「金融緩和強化策」を発表しました。
スモールサン会員の中にも、この新政策が
「どのようなものか」と強い関心をもって
新聞記事などを読まれた方が多いと思います。
でも、そんな方々から聞こえてくる声は
「何だかよくわからない」というもの。
そこで、今回のブログでは、
日銀が打ち出した「新政策」について、
できるかぎりわかりやすく
解説してみたいと思います。

2つのウソ

「なぜ、わかりにくいのか」――その理由は
日銀が「ウソ」をついているからです。
その「ウソ」とは、以下の2つです。

ウソその①――金利引上げを「緩和強化」と呼ぶ
「緩和強化ではなく、緩和後退ではないか」――
9月21日、米国に本社を置く通信社ロイターは、
日本の債券関係者のこんな感想を紹介しています。
 実は、この感想こそが正しいのです。なぜなら、通常
「金融緩和の強化」といえば、「金利の引き下げ」です。
ところが、今回日銀が打ち出した政策は
「金利を引き上げよう」というものなのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する」と、
日銀は発表しましたが、この国債利回りは7月中旬には
マイナス0.3%にまで下がっていました。
こんな風にマイナス圏にある利回りを、今後は
ゼロ%程度に固定しようというのですから、
これは「金利引き上げ」にほかなりません。
このように「金利を引き上げる」政策を、
「緩和強化策」と称して発表したのです。
この「ウソ」に惑わされて、
政策発表直後は為替が円安に動きました。
しかし、「実は緩和強化ではなく後退だ」と
市場関係者が気づくにつれて、
再び円高に押し戻されたのです。
市場関係者も騙されるくらいですから、
素人が日銀の発表を「わかりにくい」と
感じるのは当たり前です。

ウソその②――「テーパリングではない」と強弁
 「これはテーパリングではない」――
政策発表直後の黒田総裁の発言です。
日銀のもう1つのウソとは、これにほかなりません。
テーパリングとは「量的緩和政策の縮小」のこと、
つまり「日銀が買い入れる国債の量を減らす」ことです。
 日銀は「年間80兆円のペース」で国債を買い増して
きましたが、今後はそういう「量」を目標にしないで、
10年物国債の利回りをゼロ%にするといった具合に
「金利」を目標にするのだと発表しました。
日銀が「年間80兆円」のペースで買い増していくと、
相当な買い圧力ですから、国債価格がどんどん上昇します。
その結果、利回りがどんどん低下してしまいます。
7月にマイナス0.3%にまで低下したのはそのためです。
 ですから、国債利回りをゼロ%にとどめるためには、
日銀はこれまでのペースで国債を買い続けることをやめ、
そのテンポを落とさなければなりません。
これは、まさに「テーパリング」にほかなりません。
今回の発表は、「いずれテーパリングを開始する」と
日銀自ら宣言したようなものなのです。
ちなみに、アメリカの通信社ブルームバーグは、
21日配信の記事で、市場関係者の間には今回の措置を
「事実上のテーパリング」とみる「見方」があると
はっきり書いています。

3つの限界

以上述べてきたように、今回の日銀の「新政策」は
「金利引き上げ」と「量的緩和の縮小(方向を示す)」という
「緩和後退策」にほかなりません。
では、なぜ日銀はそんな「後退」策を、今になって
発表したのでしょうか。それは、以下の3つの点で、
従来の緩和策が限界に達したからです。

限界その①――金融業界からの猛烈な反発
 その1つは、金融業界からの猛烈な反発です。
この反発で、日銀はマイナス金利政策の後退を
余儀なくされたのです。
 マイナス金利政策とは、民間銀行が「日銀に置く預金」
――日銀預金――にマイナス金利を課す政策のことですが、
今のところ、この政策自体はほとんど反発にあっていません。
なぜなら、マイナス金利が課せられるのは、実際には
日銀預金全体の1割程度しかないからです。
8割弱の預金には0.1%のプラス金利がついていますし、
残り1割強はゼロ金利だからです。
金融業界から反発を受けているのは、
日銀によるハイテンポの買い上げによって
国債価格が高騰したために、国債の利回りが
マイナスになってしまったことです。
利回りがマイナスになったということは、今国債を買って
それを満期まで持っていたら赤字になるということです。
したがって、金融機関はもはや国債を買うことで
資金を運用することができなくなってしまったのです。
銀行は預金を集めても運用先がない、保険会社は
保険料を集めても運用先がない――こんな状態になりました。
「日銀さん、いいかげんにしてよ」という声が大きくなりました。
そこで、日銀は国債を買い上げる量を調整して、
「10年物国債の利回りをゼロ%程度にし、
それよりも長期の国債――たとえば20年物国債など――は
プラス圏におさまるようします」と約束したのです。
ちなみに、短期金利はマイナス、10年物はゼロ、
もっと長期のものの金利はプラスというように、
期間ごとで金利をコントロールしようというわけですが、
これを日銀は「イールドカーブ(利回り曲線)コントロール」と
英語で説明しました。それがまた、皆さんから
「何だかよくわからない」という声が上がる原因になったのですが、
日銀としては、こんな具合に英語の専門用語を使うことで、
何か積極的な政策を打ち出したかのように
「装い」たかったのだと思います。

限界その②――国債枯渇問題
もう1つの限界は、国債枯渇問題。つまり、
国債が不足して、日銀が「年間80兆円のペース」で
買い増そうとしても、実行が難しくなるという限界です。
 スモールサンニュース9月号の「巻頭インタビュー」で、
「来年6月にも限界に達する」という予測を紹介しましたが、
近々日銀がテーパリングを開始しなければならないことは
もはや疑いようのない事実です。とはいえ、
「テーパリングを開始します」などと発表すれば、
それだけで国債価格が急落してしまい、
金利が想定以上に急騰してしまう可能性があります。
そこで、日銀は「テーパリングではない」と言いつつ、
「国債利回りをコントロールする」という言い方で
事実上のテーパリングをはじめることにしたのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%に固定する」と
日銀が発表すれば、それ以上の長期金利の急騰
すなわち国債価格の急落は避けられると考えたわけです。

限界その③――物価上昇・景気浮揚への効果がない
 限界の3つ目は、いくら緩和政策を続けても
物価上昇や景気浮揚に効果が出てこないという限界です。
 当初日銀は「2年以内に物価上昇率を2%程度にする」と
期限付きで目標設定していたのですが、3年半経った今も
物価は上がらないどころか、下がり続けています。
つまり、「政策効果という点での限界」は、
だれの目にも明らかになってしまったわけです。
とはいえ、「敗北宣言」を出すわけにはいきませんから、
今回日銀は「期限を設定しない」で、物価上昇率が
2%くらいになるまで、そしてそのあとでもしばらくの間は
「緩和政策」を続けると宣言することでお茶を濁したわけです。
これはいってみれば「長い目で見てください」ということですが、
これを日銀は「フォワードルッキングな期待形成」と
またまた英語を使うことで、
意味があるかのように「装っています」。
こうしてますます「わかりにくく」なってしまいました。
でも、どう言いくるめようとしても、日銀自身が
「短期的な効果は期待できない」ことを認めたわけですから、
これからは「長期戦」だということになります。
そうなると、長期間続けられる政策でなければなりませんから、
金融界から反発の強いマイナス金利政策は改めよう、
いずれ限界が来る「大量の国債買い上げ」という「旗」も降ろそうと
いうことになります。
そこで、上記のような政策発表になったのです。

考えられる今後の影響

最後に、今回の日銀の政策変更で、
実際の経済にどんな影響があるのかという点について
簡単に記しておきます。
一言でいえば、当面は「大した変化はない」と思います。
それでも、指摘しておかなければならないことが3点ほどあります。

影響その①――円高圧力の高まり
 事実上のテーパリングが始まるということで、
これからは円高圧力が続くと予想されます。
「円を大量に供給する」ことで「円安を誘導する」というのが、
黒田日銀の手法でしたから、その「円の供給が減ってくる」となれば、
投機筋が円高方向に仕掛けてくることは十分に予想されます。
もちろん、米国の利上げがどうなるかなどにもよりますから、
一概には言えませんが、こういう観点をもって
事態の推移を見守ることが必要です。

影響その②――長期ローンの金利上昇
もう1つは、日銀が10年物以上については
ゼロ%以上の金利にする方針を打ち出したわけですから、
長期の貸出金利とりわけ住宅ローンは
多少上昇してくる可能性があります。
もちろん、低金利政策は続くわけですから、
大幅な上昇はないと思いますが、
今年の7月のような水準よりは「上がる」ことになると思われます。

影響その③――「信用リスク」の増加による金利上昇に注意を
 3つ目は、日銀が「長期戦」を打ち出したことで、
長期にわたって「低金利」が続くという安心感から、
「借り過ぎ」の企業が出現する懸念が大きくなることです。
 不動産業界などですでにその傾向があることは、
スモールサンニュース9月号で述べましたが、
そうした業界に限らず、銀行の「貸し込み」や、
企業や投資家の「借り過ぎ」が発生しやすくなります。
もちろん長期にわたる低金利状態は、低コストで
借り入れができるチャンスであることは間違いありません。
しかし、「金利が安いから」という理由だけで、
十分な展望のないまま借り入れを増やすことは危険です。
金利がいくら低くなっても、返済ができなくなれば
企業は倒産の危機にあうことになりますから。
さらに、国債利回りを基準にしているといっても、
銀行が実際に貸し出す時には、それに「信用リスク分」を
上乗せした金利になることを忘れてはいけません。
「借り過ぎ」によって企業の保有する在庫が増加し、
「今後この企業では売れ残りがかなり出そうだ」とか、
「景気の先行きが怪しくなったので
売れ行きが急減するかもしれない」と銀行が予想すれば、
「信用リスク」が高まったとして、追加融資の際の金利を
引き上げてきます。
 経営者はこのことを忘れずに行動する必要があります。
                 2016.9.25山口義行筆

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