洞爺湖サミット(08年7月7日~7月9日)の主なテーマが地球温暖化問題であることは周知のところである。今やCO2の削減は喫緊の課題。そこで、注目されているのがバイオエネルギーなどの代替エネルギーである。
期待される第2世代バイオエタノール
地球温暖化が叫ばれる中、化石燃料の代替としてバイオエネルギーが注目されている。しかし、バイオエネルギーは食糧価格の高騰を引き起こすなど問題も多い。そこで期待されているのが第2世代バイオエタノール。すなわち、食用作物を用いないバイオエタノールの生産である。しかし、コスト面などを考慮するとその事業化が難しいのも現状。そこで、「コレが言いたい」の第22回は、第2世代バイオエタノールを取り上げることにしたい。
将来はバイオエネルギーが主役になる
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による世界のエネルギー供給予測では、図表1に示されているように、2050年にはバイオエネルギーが石油や天然ガスを上回り、2100年にはバイオエネルギーが圧倒的な主役になると予測している。
(図表1)世界のエネルギー供給予測
(出典:IPPC 2nd Report Figure5を基に作成 )
バイオエネルギーに注目が集まっているのは、それが生物由来の循環型エネルギーであるため、一つには化石燃料のように枯渇しないこと、そしていま一つはいわゆるカーボン・ニュートラル――植物は成長する際に光合成を行い、二酸化炭素を吸収しているので、エネルギーとして利用される際に二酸化炭素を発生させてもプラスマイナスゼロとみなされる――であるとして、地球環境にやさしいとみなされているからである。
アメリカとブラジルで世界の7割を生産
図表2によって、バイオエタノールの生産状況を国別に見てみると、生産量の圧倒的な部分がアメリカとブラジルによるものであることが分かる。実際、アメリカとブラジルで世界の生産量の約7割を占めている。アメリカの場合、世界一の生産量を誇るトウモロコシが主たるエタノール原料であるが、昨年は生産量の4分の1をバイオエタノールに利用している。ブラジルの場合は、やはり世界第一位であるサトウキビ生産の約3割がバイオエタノールに使用されている。中国・EUなどもバイオエタノールの生産に取り組んでいる。
(図表2)世界各国のバイオエタノール生産量
注1 06年まではすべてのエタノール、07年は燃料用エタノール(出典:農業情報研究所HPより)
食用作物を用いないバイオエタノール
さらに、食用作物を用いたバイオエタノール生産が増えたことが今日、食糧価格高騰の一因となっている。日本がバイオエタノール生産を増やすことで、更なる食糧価格の高騰を招いても困る。
そこで、「地産地消型」で、なおかつ食用作物を用いないでバイオエタノールを作ることが必要となる。だが、そんな都合のいい方法があるのだろうか。以下に、注目すべき一つの事例を紹介したい。
岐阜大学の高見澤一裕教授と、環境ベンチャー企業である㈱コンティグアイは、食料と競合しない”あるもの”からバイオエタノールを生産する技術を共同開発した。それは、”芝”である。刈り取ったゴルフ場の芝を乾燥させ、それからバイオエタノールを作り出すというもの。
通常のバイオエタノールはトウモロコシなどのでんぷんを糖化・発酵・蒸留して作る。でんぷんを含まない芝をどのように糖化するかが大きな課題であった。岐阜大学の高見澤教授は刈り芝(のセルロース)を糖化するのに適した酵素を発見し、これを解決した。それによって芝だけではなく、竹や雑草などからもバイオエタノールを生産することができるようになった。乾燥芝1トンから200mlのバイオエタノールを生産できる。さとうきびの場合1トンから300mlの生産であるから、生産効率的にそれほど差はない。とすれば、あえて食物からバイオエタノールを生産する必要はないということになる。
この会社では、三重県亀山市にプラントを建設し、来年にも事業を本格的に開始する予定である。小さなプラント(8000万円程度で建設可)で生産可能なため、鈴木繁三コンティグアイ社長は、この試みを地産地消型の「地ビール」ならぬ「地エタノール」生産と称している。
この事例が注目に値する3つの理由
以下の3つの理由で、この試みは注目に値する。
- 一つ目の理由は言うまでもなく「非食料」であるという点。とうもろこしやサトウキビからの生産では食糧価格をより高騰させることになりかねないが、刈り芝ならこのような心配はない。
- 二つ目の理由としてはゴルフ場の刈り芝という、「産業廃棄物」を用いる点。ゴルフ場は現在、芝の刈り取りと廃棄のために多額の処理費用を負担している。その資金をバイオエタノールの生産のために用いるなら、バイオエタノールの生産も採算に合うと考えられている。事業化が企図されているのはそのためである。ゴルフ場のみならず、高速道路に敷かれた芝や河川などの雑草の処理費用などをバイオエタノール生産に回すことも考えられ、将来の広がりが期待できる。
- 三つ目の理由は地産地消型である点。プラントは何億円もかかるものではなく、地ビール生産のためのものと同程度である。各地に小プラントが多数出来れば、エタノール原料の輸送コストや輸送の際のCO2排出なども削減でき、環境改善に効果的な試みとなる。
「コレが言いたい」~低炭素型社会への明確なプロセスを示せ!~
政府は脱化石燃料化を進め、日本のエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を05年の5.9%から20年には8.9%に、30年には11.1%に引き上げたいとしている。EUが20年までに20%、アメリカでも30年までに20%という目標を掲げていることからすれば、日本の目標は極めて控えめなものである。しかし、それでもその目標を達成するためのプロセスがまったく描かれていないというのが現状である。
たとえば、太陽電池の普及を謳ってはいるが、ソーラーパネルを設置する家庭を12年後の20年には、320万戸と、現状の10倍になることを想定している。しかし、そのための促進税制など具体的な施策はまったく見当たらない。
バイオ燃料にいたっては、現在ほとんど生産されていないにもかかわらず、2年後には生産量50万キロリットルにする目標を描いている。これこそ、まさに絵に書いた餅である。高い目標を掲げているが、目標実現のためのプロセスは全くと言っていいほど示されていない。
上に記したように、ゴルフ場の刈り芝を活用したバイオエタノール生産など、民間では既にさまざまな試みが始まっている。こうした事例を踏まえながら、今こそ政府は低炭素社会へ向けた具体的なプロセスと誘導政策を明確に示すことが必要である。政府の明確な政策呈示があってこそ、民間の思い切った投資も可能になる。環境サミットを取り仕切った日本政府の「やる気」に強く期待したい。
(2008/8/7 執筆)