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第20回 「食糧危機」にどう対応すべきか?

7月 13th, 2008

元記事

食糧価格が急上昇している。途上国では食糧難から暴動さえ起きている。食糧危機――これは一時的なことなのか。それとも、人類の生存を脅かすような長期にわたる事態なのか。

高騰する穀物価格

近年の食料価格の急上昇には目を見張るものがある。図表1に示されているように、1年間で大豆はおよそ2倍、米はおよそ3倍、小麦やとうもろこしの価格も大幅に上昇している。

本年6月3日、世界的な食糧危機への対応を協議する「食料サミット」がローマで開催された。「食糧危機を克服するため、国際社会に『緊急の協調行動』を求める」宣言が発表された。食糧問題は今後も一層深刻化するのだろうか。また、食糧の約6割を輸入に依存している日本の私たちは、この問題にどう向き合えばいいのだろうか?「コレが言いたい」の第20回は、食糧をめぐる問題について、悲観論・楽観論の双方に耳をかたむけながら、あらためて考えてみることにしよう。

(図表1)穀物の国際価格穀物の国際価格

(出典 農林水産省HPより自己作成)

穀物価格上昇の背景

なぜこんなに穀物価格が高騰しているのだろうか。その背景として、以下の5点をあげることが出来る。

  1. 第1は、新興国の需要増。途上国の所得上昇や工業化の進展とともに、食糧需要が増加し、それら諸国の輸入が拡大している。たとえば、中国は食料の自給自足を基本としてきたが、近年大豆輸入量が急増、大幅な輸入超過となっている。また、牛肉の生産量が増加し、これに伴い飼料用穀物の輸入も増加している。
  2. 第2は、バイオ燃料の生産拡大である。図表2はバイオエタノールの生産量の推移を表している。

    (図表2)バイオエタノールの生産量の推移バイオエタノールの生産量の推移

    (出典 F.O. Lichtより自己作成)

    アメリカやブラジルがバイオエタノール生産の大半を担っているが、これらの国では、ガソリンにバイオエタノールを混ぜて使用することを促進している。そのため、食糧用の穀物がバイオエタノール用へと転換され、結果として食糧価格の上昇を招いている。

  3. 第3は異常気象による不作である。とくにオーストラリアでは、100年に1回といわれる大干ばつが2年連続した。その影響で、食糧供給力が減少して価格急騰を招いた。
  4. 第4は、穀物生産国の輸出規制である。上記のような状況が続き、穀物生産国が自国の需要をまかなうために輸出を規制するという措置をとった(図表3)。これが、食糧価格の更なる急騰をもたらした。
    (図表3)農産物の輸出規制農産物の輸出規制(資料 農林水産省 HPより自己作成)

最後に、上記のような食糧需給の状況を踏まえて、投機が盛んになっている。図表4は、商品先物市場に運用先を見出す資金が近年急増していることを示している。とくにサブプライム問題以降、金融商品に対する信頼が落ち、世界中の余剰資金が商品先物市場に向かっている。

(図表4)商品指数ファンド投資残高商品指数ファンド投資残高

(出典:JOGMEC HPより引用)

悲観論と楽観論

こうした食糧価格の上昇をどのように見るか、悲観論と楽観論がある。

悲観派の代表ともいえる丸紅経済研究所の柴田明夫所長は、おおむね次のような発言をしている。

「今の現象は、中国などの新興国が発展途上国から先進国へと移行する動きのなかで発生している。その意味では過渡期の現象だが、人口が多いため、世界の食糧市場に与える影響も非常に大きい。また、過渡期といっても5年10年ではなく、15年20年といったタームで考えるべきであろう。このような時間軸の長い現象がいま始まったばかりであるから、今後ますます需給が逼迫していく可能性が高い。このままでは、パニックになるまで価格が上がる恐れもある」。

これに対し、楽観派といえる九州大学大学院の伊東正一教授は、おおむね次のように発言している。

「現状は、食糧価格が原油価格の上昇につられて上昇しているにすぎない。食料不足というわけではない。これを『危機』と呼ぶのはどうかと思う。価格が上昇すれば生産者に増産への大きなインセンティブになる。したがって、今年はかなりの増産になるだろう。発展途上国を含め、農業に力を入れてこなかった国も力を入れはじめる。いずれはバランスの取れた形になっていくので、今のような混乱は長くは続かない」。

たしかに、たとえばブラジルには農地として使用可能な土地が、1億ha程度あるといわれている。現在実際に使用されているのが約2千万ha。残りの約8千万haが開発可能だということになる。また、中国は農業重視政策へと転換しつつある。今まで中国は工業の発展に力を入れ、農業を抑制してきた。しかし、自給率が下がり自給自足型経済が成立しなくなってきたため、農業抑制策として採られてきた農業税を廃止し、逆に補助金をつけて農業の生産増へと誘導しつつある。オーストラリアの干ばつも、さらに3年・4年と続くことはないだろう。

投機抑制と食糧増産支援

こうした事情を踏まえるなら、現在の食糧価格の高騰をもって過度に悲観的になる必要はないかもしれない。しかし、水や肥料の不足が深刻化していると指摘する声もあり、「需要増→価格上昇→供給増→価格低下」といった価格調整機能が工業品のようには柔軟に働かない可能性もある。

いずれにしても、市場メカニズムに任せておくだけでなく、一定の政策的対応が必要であることは間違いない。さしあたりはまず、国際協調の下、投機抑制策を打ち出す必要がある。少なくとも、投機抑制策を検討する国際会議の開催を早急に実施すべきである。また、食糧増産に向けて国際的な支援が生産国に対してなされなければならない。

「コレが言いたい」
~自給率60%までは国の責務!~

食糧輸入大国である日本がやるべきことは、なによりもまず自給率を上げて、国際的な食糧供給の安定化に貢献することである。そこで、すぐにでも世界に向けて「食料自給率60%宣言」を発するべきである。

図表5に明らかなように、先進国の中でも日本の自給率は最下位の39%。すでに日本農業は破壊的状況にあり、1960年に比して農家戸数も半減している。

(図表5)主要国の食料自給率主要国の食料自給率

(出典 農林水産省HPより自己作成 数値は2003年度 日本のみ2006年度)

「食料自給率60%」は安全保障からしても絶対に必要な水準である。今日のように食糧供給が不安定化している状況では、この水準を下回ることは国家の存立を危うくしかねない。実際、他国が食糧輸出を規制すれば、日本はとたんに干上がってしまう。

日本では少しでも農家に補助金を出すと、「ばら撒き政策」だとする批判がすぐに出てくる。しかし、アメリカもヨーロッパも多額の農業補助金を出している。日本は国際ルールで認められた限度額の15%程度しか補助金を支給していない。

戸別補償も含めて、農業支援のための財政支出は防衛費と位置付けられてしかるべきであろう。そうした認識に立って、農業政策の明確な転換、安定的な食糧確保政策の推進が早急に実施されることを強く期待したい。

(2008/7/13 執筆)

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