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第19回 改正パートタイム労働法施行~その効果は?~

7月 1st, 2008

元記事

今年4月1日から改正パートタイム労働法が施行された。法改正で何が変わり、どんな効果が期待されているのだろうか。

改正パートタイム労働法施行

雇用者のうち非正規社員の占める割合は年々増加を続け、総務省の調査によれば、2007年には33.5パーセントと過去最高を記録した。今や3人に1人が非正規社員ということになる。こうした状況を反映して、パートタイム労働法の改正が実施され、本年4月1日より施行されることになった。改正によって、何がどう変わり、どのような効果が期待されているのか。「コレが言いたい」の第19回は、このパートタイム労働法について考えてみたい。

増加するパートタイム労働者

日本の企業では、今や働く人の3人に1人は非正規社員。数にして1500万人に達する。図表1はパートタイム労働者比率の推移を見たものだが、これによっても日本での近年の著しい増加ぶりが確認できる。日本のパートタイム比率はオランダについで2位。とくに男性は、パート王国といわれているオランダと肩を並べる水準にまでいたっている。

(図表1)主要国のパートタイム労働者比率推移主要国のパートタイム労働者比率推移

(長坂寿久『オランダを知るための60章』明石書店、367ページより転載)

オランダは長年にわたって、パートタイム労働者とフルタイム労働者の差別をなくすことに尽力してきた。パート比率の増加はそうした均等待遇化の結果でもある。しかし、日本の場合は、企業のリストラ策の一環としての側面が強くフルタイム労働者との格差を残したままの増加となっている。実際、パートタイム労働者の給料は、フルタイム労働者と比較して、時給にして6割程度でしかないといわれている。

このような状態が続くと、労働者のモチベーションも低下し、企業の活力も減退しかねない。また、所得格差が助長され、いわゆる格差社会の一因にもなる。これらを改善すべく、法改正が実施された。

改正のポイント

では、具体的に法改正で何が変わるのか。
ちなみに、同法でいう「パートタイム労働者」とは一週間の所定労働時間が通常の労働者(正社員)に比べ、短い労働者を指す。したがって、パートタイマー、アルバイト、嘱託、契約社員、臨時社員、準社員など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、すべて同法の対象となる。

さて、今回の改正ポイントはいかの4点に整理できる。

  1. 雇用条件の文書での明示経営者はパート社員を雇う際に、昇給、退職金、賞与、それぞれの有無を文書で明示しなければならない。違反の場合は過料(10万円)に処せられる。改正前は努力義務だったが、改正後は義務化された。
  2. 経営者の説明責任パート社員が、賃金や教育訓練などの待遇に関して説明を求めた場合、経営者は必ず応じなければならない。改正前は努力義務だったが、これも改正後は義務化された。
  3. 同一労働・同一賃金パート社員が正社員と同じ仕事と責任を担い、人事異動でも正社員と同じ扱いを受けている場合、待遇も正社員と同じにしなければならない。また、正社員とは仕事内容が異なるいわゆる「パートさん」についても、上記の方向で努力するよう義務づけられた。
  4. 正社員へ登用促進経営者は、パート社員の正社員化を促すための施策を導入しなければならない。たとえば――
    1. 正社員を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパート労働者に周知する。
    2. 正社員のポストを社内公募する場合、既に雇っているパート労働者にも応募する機会を与える。
    3. パート労働者が正社員へ転換するための試験制度を設けるなど、転換制度を導入する

    ――など。

効果は?

以上4点のうち、特に大きな意味を持つのは③と④。③については今後を見守るしかないが、④についてはすでに効果があらわれ始めている。

多くの企業が、改正パートタイム労働法施行を前にパートの正社員化や雇用形態の多様化を進めた。

その成果は図表2に示されている。本年2月には、フルタイム労働者の増加率がパートタイム労働者を上回っている。また、多くの企業が同法施行を前に、正社員化を含めた雇用形態の多様化を進めた(図表3)。

(図表2)一般労働者の増加率が2008年2月にパートタイム労働者を上回った

出典:日経産業新聞 08年4月18日

(図表3)主な企業のパート処遇改善の取り組み主な企業のパート処遇改善の取り組み

出典:日経新聞 08年4月30日

たとえば、全国に850店を展開する洋菓子チェーン・モロゾフは、去年10月、パート社員を正社員として登用する「ショートタイム社員」制度を導入した。その結果、169人がこのショートタイム社員に転換し、正社員となった。

ショートタイム社員とは、短時間の勤務でも、賃金や福利厚生面で、正社員の待遇が適用される社員である。図表4に示されているように、勤続3年以上のパート社員は試験や面接を受けてショートタイム社員になれる。また、フルタイム社員も、親の介護、子育てなどで労働時間が限られる間は、ショートタイム社員として働き、時間的な余裕ができたときには、フルタイム社員へ戻ることができる。ライフステージに応じた働き方を選ぶことができるのである。

(図表4)モロゾフの短時間正社員制度モロゾフの短時間正社員制度

出典:日経新聞 08年4月30日

日本が目指すべきオランダの働き方

現在のパートタイム労働者がすべてフルタイムへの転換を希望しているわけではない。あるアンケート調査によれば、パートタイム労働者の8割程度の人たちが、フルタイムではなくパートタイムを希望している。

その意味で、モロゾフが実施したような雇用形態の多様化は、今後の日本の企業や経済のあり方を考えた場合、きわめて有意義な試みである。重要なのはフルタイムとパートタイムとの間の待遇格差を是正し、多様な雇用形態が選択できる社会に向けて、日本の労働環境を改善していくことである。

労働時間差による差別を禁止し、均等待遇化を進めてきたオランダでは、現在労働者は、以下の3つの雇用形態から、働き方を選ぶことができる

  1. フルタイム 週休二日、週35時間以上の労働時間
  2. 大パートタイム  週休三日、週20~34時間の労働時間
  3. ハーフタイム 週休四日以上、週19時間以下の労働時間

こうしたオランダのあり方は、自己実現型――たとえば、芸術家の卵は日本であればバイト暮らしを余儀なくされるが、オランダではハーフタイム社員として正社員として働きながら夢を追える――、また少子高齢化対応型――親の介護や子育てをしやすい労働環境になっている――といわれている。日本もこうしたオランダの状況を見習い、それを目指すべきであろう。

コレが言いたい!――法改正を企業活性化につなげよ――

改正パートタイム労働法に基づき、それが目指す方向に努力するとなれば、企業にはどうしても労働コストの上昇という負担がかかることは避けられない。

しかし、多様な生活とバランスが取れる働き方を提示し、それによって優秀な人材を集め、長期的に彼らを確保することは企業の重要な経営戦略である。労働コストの負担を、「コストではなく投資である」と認識してほしい。

経営者はこれを機に、認識と課題を労働者と共有し、より強靭な会社作りへと挑んでもらいたいものである。

(2008/7/1 執筆)

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