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第17回 日本の「食」を守れ! ~今求められている農業政策とは~

6月 27th, 2007

元記事

国土が狭いのだから、日本で農業をするのは不合理。工業品を作って輸出し、それで得た外貨で農産物を輸入するほうが合理的――かつてはこんな意見が根強かった。しかし今や、こんなことを言っておられない事態が起きつつある。

求められる日本農業の再生

人口増加やBRICs諸国の台頭により、地球的規模で食糧難が問題になっている。また、環境問題からバイオ燃料の需要が増加し、食料価格が上昇している。輸入農産物の安全性を懸念する声も大きくなっている。ところが、日本農業をめぐる状況はますます厳しくなり、食料自給率も低いままである。農業を再生し、自給率を引き上げるには何をすべきか。「コレが言いたい」の第17回は、深刻な日本農業の現状と、求められる農業政策について考えてみたい。

深刻な日本農業の現状

日本農業の現状は悲惨である。近年、農業産出額、農地、農業従事者のいずれも大幅に減少してきた。1986年には11兆4236億円であった農業産出額が、2005年には8兆4807億円と20年弱で26%も減少している。同様に、536万haあった農地が2006年には467万haと13%減少している。さらに、農業従事者においては377万人から2006年の210万人へと44%もの減少を示した。農業従事者は今後も年々減少し、2015年には146万人にまで減少すると言われている。その際には、65歳以上の割合が6割を超えると予測されており、日本の農業はその内部から崩壊しかねない状況に至ると見られている。

図1は各国の食料自給率(カロリーベース)を比較したものだが、日本は40%と他の先進国と比較して著しく低いことが分かる。ここで注意が必要なのは、図に示されているアメリカ、フランス、ドイツ、イギリスはいずれも近年食料自給率を上昇させてきたという事実である。1961年には78%あった日本の食料自給率が2003年には40%に低下したのに対し、同時期アメリカでは119%から128%へ、フランスでは99%から122%へ、ドイツでは67%から84%へ、イギリスでは42%から70%へ上昇させてきたのである。日本では、「先進工業国では食料自給率が低下するのは当たり前」といった認識が常識化しているが、現実はけっしてそうではない。日本国民がまずこの事実をしっかりと認識することが、事態改善の第一歩であると言えよう。

(図表1)各国の食料自給率各国の食料自給率

資料:農林水産省「食料需給表」 FAO”Food Balance Sheets”

「食」の海外依存の危険性

さて、他方で、「食」を海外に依存することの危険性はますます高まっている。

  1. 第一は、世界的な食糧難問題。人口増加やBRICs諸国の台頭により、地球的規模で食糧難が起きつつある。実際、中国は工業化が進み、農産物の輸出国から輸入国へと転換しつつある。例えば、最近の大豆価格の上昇は中国が大豆の輸入国になったことが大きく影響している。このように、食糧事情が悪化してくると、気候異変などが契機となって、食料輸出国が自国の食糧を確保するために、突然輸出を抑制するということが起きる。そうなると、日本は干上がってしまいかねない。かつて、1973年のアメリカの大豆禁輸措置によって日本やヨ-ロッパで大混乱が生じた歴史もある。こうした危機再来の可能性は、かつてないほどに高まっている。
  2. 第二は、輸入食材の安全性に係わる問題である。BSE問題、中国からの輸入野菜の農薬問題など、「食」の安全性に関する問題が多発してきた。そもそも、輸入農産物はどの様に作られているのかチェックがしにくく、「作り手の顔」が見えない。その点、国産品、特に「地産地消」であればなおさら安心である。日本の農業が衰退していくことは、「食」の安全性が低下していくことでもある。
  3. 第三は、環境問題への対応が、食糧供給に与える影響である。地球温暖化への対応としてバイオエネルギーに注目が集まっている。それが食料価格の上昇を引き起こす。石油の代替燃料としてエタノールへの需要が高まり、とうもろこしなどの価格はすでに急騰している。さらに、ともろこし価格上昇が他の農産物からともろこしへの転作を促し、結果的に農産物の価格が波及していくという事態もすでに起きている。日本でもジュースなどの価格上昇や、マヨネーズの久々の値上げなど国民の食卓への影響が見られ始めている。

「直接支払い」という農業政策

さて、今日本の農業の再生に必要な施策は何か。ここでは、なかでも特に重要だと思われる「直接支払い」という政策について考えてみよう。

「直接支払い」とは、文字どおり農業従事者に国が直接お金を支払って、所得補償するというもの。そのやり方は多様だが、アメリカの場合、「目標価格」と「市場価格」の差額を政府が農家に直接に支払うことで所得補償するという仕組みが取られている。例えば、10ドルで売らなければ農家にとって採算の取れない農産物が、市場で6ドルで取引されているとしたら、その差額4ドルを政府が農家に支払うことになる。その他、過去何年間かの生産高や作付面積を基準に算定した金額を農家に支払うというやり方をしている国もある。

図2に明らかなように、先進各国では、こうした「直接支払い」などによる個別所得補償が農業所得の大きな割合を占めている。日本では、小規模農業が多く、アメリカなどの大規模農家と比較して、生産性が低いために、価格競争力が劣ると言われている。確かにそれは否定できないが、そのアメリカですら農業所得の46%が個別所得補償されている。これに対し、日本は0.7%でしかない。これでは、日本農業に勝ち目はなく、衰退は必然である。ヨーロッパ各国では手厚い補償がなされており、これが自給率の維持・向上の大きな要因になっている。

(図表2)農業所得に占める直接支払いの割合農業所得に占める直接支払いの割合

資料:民主党パンフレット『農林漁業』再生プラン

もちろん、各国が「直接支払い」を無制限に行なえば、農産物の貿易が成り立たない。そこで、支給額の上限について、国際的な取り決めがなされている。これをAMS(Aggregate Measurement of Support=助成合計量)という。図表3はその上限枠のうちのどの程度を各国政府が支払っているかを見たものだが、アメリカでは可能な上限枠の75%、EUでも64%を支払っているのに対し、日本では18%にしか達していない。日本政府が本気で農業を護ろうとしてこなかったことが、この数字に端的に占めされている。

(図表3)AMS水準の各国比較AMS水準の各国比較

資料:衆議院調査局農林水産調査室

また、日本の農業予算のうち、現状では45%が公共事業費である。農業に使われるべき予算が農業そのものではなく、周辺の道路の整備などに使われている割合が大きい。「直接支払い」という形で農家に直接お金を支払うことで自給率を上げるという試みは、真剣に検討されてよい。ちなみに、政府もこの方向に進み始めているが、支給対象を大規模農業に限るなどけっして十分なものとは言えない。

コレが言いたい!
――「農業保護は国の安全保障」――

「農業を守ることは国の安全保障だ」という認識が重要である。現在の食料自給率では、どんなに多くの武器を持っていても国は守れない。輸出国が農産物のわが国への輸出をストップしたら、日本は簡単に干上がってしまうからである。

食料自給率向上のための予算は、防衛予算同様に国家の存立に関わる不可欠なコストなのである。そういう国民的合意を前提に、政府は自給率についての具体的な数値目標を設定し、その達成のために様々な施策を講じることについて国際社会の了解を得るよう努力すべきである。他国もこれを真っ向から否定することはできないであろう。

なぜなら、それは日本国民の基本的な生存権に関わる問題だからである。

(2007/6/27 執筆)

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