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第14回 「残業なし」は不可能じゃない!

3月 17th, 2007

元記事

残業代ゼロ法案だと騒がれた「ホワイトカラー・エグゼンプション」。安倍内閣は今国会での提出を見送ったが、いずれは提出する可能性を含んでいる。日本は企業も働き手も残業を当たり前として受け入れているが、果たして本当に残業は不可避なのか。

残業代ゼロ法案「ホワイトカラー・エグゼンプション」

2007年1月5日、安倍総理は「日本人は少し働きすぎではないかと感じている方も多いのではないか。家で過ごす時間は、少子化(対策)にとっても必要ですし・・・」と発言した。そして、一定の条件を満たすホワイトカラーの会社員を労働時間の規制から除外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」を提言した。これが導入されれば、本人の裁量で働く時間を決めることができるようになり、労働時間の短縮につながるという。

しかし、労働者側はサービス残業を合法化し、残業の増加を招くと猛反発している。結局、政府は、国民の理解が得られていないとして、国会への法案提出は難しいと判断した。「ホワイトカラー・エグゼンプション」の正否を問う前にそもそも企業にとって残業は必要なのかを問うてみたい。「残業のない企業なんて、競争に負けてたちどころに消えていく」――なんとなくそう思っている日本人は多い。だが、本当にそうなのであろうか。「コレガ言いたい」の第14回は、この点に立ち入ってみよう。

「労働時間が長くて生産性が低い」という日本の実状

世界でも、長時間労働の国として知られる日本。厚生労働省の調査によると、日本の「年間総労働時間」は、アメリカ、イギリスなど他の先進国に比べてかなり長い(図表1)。また社会経済生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較」によれば、日本の労働生産性はOECDに加盟している30カ国中19位と、主要先進7カ国中では最下位の位置にある(図表2)。

図表1図1 年間総実労働時間の国際比較(製造業生産労働者 2003年) 厚生労働省「日本及び諸外国の労働時間等に関するデータ」より作成

図表2図1 食品の安全性に対する意識調査 財団法人社会経済生産性本部「2006年 労働生産性の国際比較」より作成

このような労働実態を招いた原因の一つとして、日本企業と働き手の”残業依存体質”が挙げられる。日本企業はすべての働き手を”企業戦士”として夜遅くまで会社に縛り付け、それを働き手の側も暗黙のうちに受け入れてきた。そうした非合理的な体質を変えなければ、労働時間も短縮できず生産性も上がらない。そこへ、中国のような安い労働力を武器にした途上国が台頭してくれば日本は敵わない。今、日本は残業依存から抜け出し次の段階へ進むべき時に来ている。

「残業ゼロ」でも会社は伸びている

年末年始19連休、ゴールデンウィークも夏期休暇も10日間。年間の休日は140日。火曜が祝日なら月曜は休み、木曜が祝日なら金曜を休みにする。残業は一切なく、16時45分を過ぎると社員は一斉に会社から居なくなる。

こんな会社がこの厳しい競争社会で生き残っていけるはずがない。多くの人がそう思うに違いない。ところが、この会社、700人超の従業員を抱えながら、近年の厳しい不況下でも200億円を上回る売り上げと15%以上の経常利益をちゃんと確保してきた。第二次オイルショック時に利益率が7%にまで低下したが、その後労働時間の短縮を徹底的に推し進めながら、利益率を倍以上に増やしてきた。

会社の名前は㈱未来工業。1965年現相談役の山田昭男氏が仲間4人で創業して以来赤字を知らない。電設資材メーカーのカリスマと呼ばれる会社であるが、だからといって、際立って「特殊な技術」をもち、それをよりどころに社員が「楽をしている」というわけではない。

「未来工業」に見る”残業なし”の効果

この会社が伸び続けるには理由がある。「残業なし」を目指したことが会社を強くしているからである。

  1. 第1は、徹底した低コスト経営の実現である。あらゆる市場が成熟化したといわれる今日、もはや長時間労働で売り上げを増やそうと試みても、その労働コストを賄えるほどの成果はなかなか得られない。高い残業代を支払って従業員に長時間労働を強いるよりも、残業を減らしてコストを下げることに力を注いだ方が、会社の利益にははるかに貢献する。さらに、その推進に全従業員を巻き込むことによって、従業員みずから経費と時間のムダを取り除くことに真剣に取り組むようになる。まさに、「時短」という課題が時代に見合った低コスト経営を導いている。
  2. 第2は、高精度の顧客管理・需要予測体制の構築である。社員個人にせよ会社全体にせよ、長期の休みを実現しようとする時、最大のネックになるのは顧客への対応である。注文を出したいのに会社が休みで応じてくれない。クレームを言おうにも担当者がいない。これではお客はどんどん逃げていく。そうした事態を避けるためには、注文予測をはじめ、顧客情報をよほど高精度に把握していなければならない。実際、同社ではそのためのソフト開発や顧客とのコュニケーションの徹底などに全社あげて取り組んできた。顧客管理・需要予想の高度化は現代経営のキーワードである。その意味でも、「時短」という課題設定が同社の強靭さを作り出している。
  3. そして第3は、不断の商品開発を伴う高付加価値経営の実践である。同社は毎年500以上の新商品を発表するなど、きわめて旺盛な開発力を有している。「使ってみると具合がいいというプラスアルファを付け加えよう」と、従業員たちは建設現場へと足しげく通う。スイッチボックスのねじ穴を斜めにすれば作業しやすい。電線管に1メートルごとに印をつければ使用量がわかる。そんなヒントを現場から得る。今や日本企業の競争相手は低賃金を誇るアジア諸国である。どんなにサービス残業を強いて労働の「量」を増やしても、労働コストの低さでは日本企業は太刀打ちできない。従業員一人ひとりが知恵を絞り、様々な工夫で商品に「付加価値」をつけることで労働時間の少なさをカバーする。こういう同社の経営戦略は、その意味でも時代に適合したものだといえる。

大企業でも”残業なし”の取り組み可能!?

残業なしの取り組みは大企業でも試みられている。去年から全社をあげて”残業なし”を徹底している会社「良品計画」。無印良品を展開する良品計画では、今年から大胆な策を打ち出した。

「毎日ノー残業」。残業時間が月に100時間を越えていた部署でも例外なく適用される。06年下期、無印良品は全社を挙げて”残業なし”を実践し、店舗では、すでに9月から閉店30分以内に業務を終わらすことが義務づけられた。勤務管理データによって作業実態を「見える化」したうえで、残業の発生要因を、店で解決できるもの、本部のバックアップが必要なもの、関連部署との連携が必要なものに分類し、1店ごとにワークスケジュールを組み直している。

本年1月以降、社員の夜7時以降の残業を原則禁止する。ベースとなるのが、本社の業務を各部ごとに標準化し、マニュアル化する業務標準化プロジェクトである。

どんな会社でも、やり方によっては”残業なし”は可能なのである。

コレが言いたい!――”残業なし”で強い会社になろう!――

労働規制というハードルは会社や経済を強くする。日本も途上国であった時代は労働規制がほとんどない長時間労働の国であった。戦後、8時間労働規制が敷かれ、週休2日制も近年徹底されてきた。

こうしたハードルによって日本経済が弱くなったのかといえばそんなことはない。労働規制の強化がむしろ日本経済や日本の企業を強くしてきた。安易な「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入はむしろ日本企業を弱体化させる危険性さえある。タダで残業させられるとなれば、上記の「未来工業」にみられたような会社を強くするための努力はどうしてもトーンダウンしてしまう。

今やむしろ”残業なし”という課題を、個々の会社が前向きに受け止め、それを企業体質強化のための契機とすることこそ「時代の要請」である。ただし、そのためには経営者と従業員がテーマを共有することが大前提である。

(2007/3/12 執筆)

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