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第12回 企業内ベンチャーに挑もう!

12月 26th, 2006

元記事

自分のアイデアを生かして、事業を興したいと思っている人は少なくない。しかし、安定したサラリーマンの職を投げ打ってまで起業するにはリスクが大きすぎる。そんなジレンマを解消する画期的な仕組みが企業内ベンチャー制度である。

目立ち始めた企業内ベンチャーの成功例

スープストックトーキョー近年、大企業サラリーマンが起業した「企業内ベンチャー」の成功事例が目立っている。たとえば〝スープストックトーキョー〟。

「無添加・食べるスープの店」をコンセプトにしたスープの専門店である。同社は三菱商事㈱で情報系の部署にいた遠山正道氏が、親会社の支援を得ながら起業し、育て上げた会社である。若い女性を中心に人気を集め、今や駅ナカやオフィスビルを中心に全国約30店舗を展開している。

スポーツクラブ ルネサンスまた、全国に90店舗展開する業界大手のスポーツクラブ〝ルネサンス〟も、大日本インキ化学工業㈱に勤める一サラリーマンが起業したものである。

同社の斎藤敏一氏がスポーツ事業部をスタートさせ、これをベンチャー企業として立ち上げた。1979年創業した後、03年にJASDAQに上場。2004年に東証2部に上場し、06年3月には東証一部上場を果たした。現在、売上高288億円、従業員441名を有する大企業となっている。

「コレが言いたい」の第12回は、成功事例が散見されはじめた企業内ベンチャーについてみてみることにしよう。

企業内ベンチャー〟とは…

そもそも「企業内ベンチャー」とは、おもに大手企業の社員が社内の経営資源を活用しつつ、自らの創造性を発揮して起業するもの。それは、いわゆるサラリーマンがサラリーマンでありながら「一国一城の主」となることのできる仕組みだといってよい。

最近では、多くの大手企業がこれを制度化し、社員から新規の事業計画を募集し、将来性があるものを支援して積極的に企業内ベンチャーを促進しようとしている。リコー・松下電器産業・東京ガス・JTB・三菱商事・富士通・花王・シチズン・東京電力・NEC・NTT・3M・ソニー・東急不動産などがそうした制度を設けている。

(株)帝国データバンクから企業内ベンチャー「(株)帝国データバンクフュージョン」を起こした萩原直哉同社代表取締役社長は自身の経験を次のように語っている。

「帝国データバンクで調査員を5年間やっていて、相手先である中小企業の社長や財務担当者から信用調査以外の話、企業を買いたい・売りたい、事業提携したいといった話をよく耳にした。こうしたニーズを何とか事業化できないかと考えました」――萩原氏は、中小企業のM&A仲介を行なう会社を起業することを思い立ち、上司に提案した。帝国データバンクはこの提案を積極的に受けとめ、出資をはじめとして積極的に支援した。

帝国データバンクフュージョンが業務としている中小企業を対象とするM&Aの仲介は案件のロットが小さいにもかかわらず、情報収集などにコストと手間暇がかかるため、これを事業として採算に乗せるのは難しいと言われている。しかし、帝国データバンクフュージョンは、親会社である帝国データバンクの調査員から得られる情報を活用するなどによって低コスト化を実現し、立ち上げてわずか半年足らずで黒字を達成した。

企業内ベンチャーのメリット

「企業内ベンチャーのメリットは、親会社のバックボーン、看板を使えること。私たちのような小さな会社が突然会社訪問しても、通常なら受付で断られてしまいます。でも、帝国データバンクの名前を出せば、担当者は会ってくれます。もう一つのメリットはやはり資金。私たちの会社の資本金は5000万円ですが、サラリーマンである私たちがこんな金額をファイナンスもせずに使えるのは企業内ベンチャーならではと言えます」。

萩原氏がこう語るように、立ち上げに必要な資本金の調達や人材等経営資源の入手が比較的容易であること、また借り入れや営業において親企業の信用力やネームバリューが活用できることなど、「何もない」ところから始まる「独立型ベンチャー」に比して「企業内ベンチャー」の優位性は否定しがたい。

企業内ベンチャーのメリット

親会社にとっての企業内ベンチャーのメリット

一方、親会社にとっても、企業内ベンチャーを推進することにはメリットがある。松下電器産業㈱パナソニック・スピンアップ・ファンド推進室の水間隆室長は次のように語っている。

「松下電器はもともと創業者を含めて、ベンチャー精神にあふれた会社。社員一人ひとりに事業意識・企業家意識・経営意識を持ってほしい。しかし、大きな会社の中で大きな事業を営んでいると、自分が相対的に小さく見えてしまうものです。そこで、自分の手で 何か新しい事業を起こしたいと社員が思うとき、それを実現できる機会を会社が提供する必要があります。どうぞチャレンジしてくださいと。そういうことを通じて社員に自分の役割の大きさを実感してもらう。企業内ベンチャーで設立された会社を見ると、福祉をはじめ、社会貢献を立派に果たしている会社が多い。これは、松下本社のブランドイメージの向上にもつながります」。

親会社のメリット

パナソニック・スピンアップ・ファンドは、100億円を積み立てて作った第一次ファンド(01年4月~04年3月)で、一件あたり上限5億円まで出資が可能。年2回企業内ベンチャーの希望を募ってきたが、これに350名の社員が応募し、すでに19社が発足した。現在、二次ファンド(50億円)で企業内ベンチャーを募集しており、15社の設立を目標としている。

〝企業内ベンチャー〟を起こすことの難しさ

ところか、実際には我が国の起業内ベンチャーは、必ずしも十分な展開が見られなかった。その理由も数多く指摘されている。

企業内ベンチャーを輩出する企業が社員間の処遇のバランスを考慮するあまり、創業者へのインセンティブを低く設定するため、起業へのモチベーションが制限される。

起業経験のない既存企業の役員らによる事前チェックでは「起業の芽」がつぶされてしまう可能性が高い。

安定志向の強い大企業サラリーマンの中からは起業志向の人材を得ることがそもそもむずかしい。

起業後の親企業の過度の干渉がベンチャー企業の成長の妨げになっている・・・などである。

企業内ベンチャーの難しさ

コレが言いたい!
――サラリーマンよ 挑戦しよう!――

こうした諸々の困難や制度的問題が克服され、数多くの企業内ベンチャーが出現し、その活発な活動が継続されるようになるためには、企業内ベンチャー創業者やそれを企図する「潜在的起業家」たち、また企業内ベンチャーの輩出に努力する既存企業の関係者、あるいは企業内ベンチャーに関心を寄せる研究者など、多くの人々が体験交流、情報交換あるいは調査・研究活動を行い、その成果を社会に積極的に情報発信していく「場」が不可欠である。こうした問題意識に基づき、有志たちによって「企業内ベンチャー推進協議会」が設立され、隔月で交流会を実施している(実は、現在私は同協議会の会長を務めている)。

自分のアイデアを生かして、事業を興したいと思っているサラリーマンは少なくない。日本の大企業は優秀な人材を抱え込みながら、その能力を十分に活かしきっていないとする指摘もある。上記の「企業内ベンチャー推進協議会」なども活用しながら、ぜひ多くのサラリーマンたちに起業への挑戦を試みてもらいたいものである。それが、既存企業の活性化を含め、より力強い日本経済を実現することになると思われるからである。

(2006/12/26 執筆)

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