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第11回 まだ異議あり!貸金業法案

11月 7th, 2006

元記事

臨時国会に提出される貸金業規制法の改正法案(貸金業法案)については、すでにさまざまなメディアが繰り返し取り上げてきた。しかし、同法案にはいまだほとんど報じられていない重要な問題が含まれている。

NPOバンクの危機

今年発表されたノーベル平和賞。経済学者として貧困撲滅の運動を行ってきたバングラディシュのムハマド・ユヌス氏が選ばれた。ムハマド氏は、貧しい人たちのために非営利のグラミン銀行を設立。農村の女性たちに、無担保で小口融資を行うという画期的な取り組みを始めた。融資を受けた人々は、それを元手に経済的な自立をめざし、貧困撲滅に大きな貢献を果たしたといわれている。こうした試みは世界各地で行われている。日本でも各地で「NPOバンク」が設立された。環境や地域のための事業に低利で融資する活動を行っている。

ところが、今国会に提出される貸金業法案が成立すると、これらNPOバンクは崩壊の危機に瀕してしまう。救済の手立てはないのか?「コレが言いたい」の第11回は、NPOバンクの目線から貸金業法案を取り上げてみたいと思う。

貸金業法案のもう一つの問題点

出資法の上限金利(29.2%)と利息制限法の上限金利(20%)との間に存在していた「グレーゾーン金利」、これを撤廃する与党の貸金業法案が固まった(図表1)。少額・短期融資には最大25.5%の上限金利を認める「特例金利」を創設するなど、「業者寄り」として批判を受けていた従来案が国民の批判に押されるかたちで大幅に修正された。「特例金利」の見送りのほか、「実質的に貸出金利が上がるケースが生じる」との批判が多かった利息制限法の金利区分見直しなども先送りとなった。

図表1 改正案(自民党)図1 貸金業法案改正案(自民党)

これらによって法案の問題点は大きく改善されたといえるが、同法案にはいまひとつ看過できない重大な問題が含まれている。それは、今回の法案の中にNPOバンクを危機的状況に陥れる条項が見られることである。とりわけ重要なのは、以下の2点――

  1. 貸金業の財産的要件を純資産1000万円(個人)~5000万円(法人)へ引き上げ
  2. 貸金業協会、個人信用情報機関への実質的強制加入    ――である。

これらの条項がなぜNPOバンクを危機に陥れることになるのか。その理由に立ち入る前に、簡単にNPOバンクそのものについて記しておこう。

NPOバンクとは

NPOバンクとは、市民活動からスタートした非営利の金融団体。市民の出資をもとに設立され、環境問題・地域活性化・女性の地位向上など社会的意義のある事業に低金利で融資を行っている。すでに全国で9つのNPOバンクが設立されている。(図表2)

図表2 NPOバンク全国MAP図表2 NPOバンク全国MAP

その中でもよく知られているのが、環境プロジェクトを支援するために設立された「apバンク」。これは、坂本龍一氏や「ミスチル」の櫻井和寿氏などアーティストらが出資して設立されたもので、たとえば豚の放牧で緑を復活させる試みや放置自転車のリサイクルなど、前例がないために金融機関からの融資が得られない事業に対して融資活動を行っている。

図表3 apバンクの仕組み図表3 apバンクの仕組み

「apバンク」の場合には、図表3にあるように一部篤志家の資金が「バンク」を通してNPOなどに融資される形をとるが、すべてのNPOバンクがこのような仕組みになっているわけではない。たとえば、9つのNPOバンクのなかでも最も早く設立され、太陽光パネルなどの購入資金を融資するなど、環境面での事業を支援している「未来バンク」の場合には、図表4にあるように一般市民やNPOが組合員となって事業組合を設立し、そこに出資された資金を組合員たちに融資するという仕組みになっている。

図表4 未来バンクの仕組み図表4 未来バンクの仕組み

いずれにしても、「預金」という形で広く大衆から資金を集め、営利を目的で融資活動を行っている「銀行」とは、仕組みもまたその目的もまったく異なっているのがNPOバンクである。それは、「こういう分野に資金を投じてほしい」という出資者たちの「思い」を実現するために活動している金融組織なのである。

貸金業法で存立の危機

さて、今回の貸金業法案がこのまま成立すると、NPOバンクはどのような影響を受けることになるのか。「未来バンク」の田中優理事長は、「新しいNPOバンクを設立する際のハードルが高くなってしまい、多額の出資金を集めてからでなければ設立できなくなってしまう。また、仮に設立されたとしても、経費倒れしてしまう可能性が高い」とその影響を懸念している。

少し、具体的に見てみよう。愛知県のNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」はようやく出資金が700万円集まり、この秋から融資活動を始めたばかりである。貸金業を営むのに必要な「財産的要件」を純資産5000万円以上に引き上げる今回の法案が成立すれば、こうした小規模のNPOバンクはもはや設立できないことになる。また、「momo」の場合、貸出金利は2.5%を想定しているため、全資金を融資に回しても年間の収入は17万5000円にしかならない。今回の法改正で貸金業協会、個人信用情報機関への加入が義務付けられると、貸金業協会への加入費10万円、その年会費6万円、さらに個人信用情報機関への入会金50万円、年会費3万円が必要になる。さらに貸金業登録手数料15万円が3年ごとに必要になる。明らかに「経費割れ」となって、活動存続は難しくなる。

当然のことながら、NPOバンクが活動停止になれば、そのバンクから融資を受けている事業も存続が危なくなる。「未来バンク」から融資を受けて活動している「フェアトレードカンパニー」の胤村なお子常務は、「もっとNPOバンクが広がって借入先のバラエティーが広がることを期待していたのに、借入先が一般の銀行しかないとなると事業にも影響する・・・」と今後の不安を隠さない(注)。

(注)フェアトレードは、経済的、社会的に立場の弱い生産者と通常の国際市場価格よりも高めに設定した価格で継続的に農産物や手工芸品などを取引し、発展途上国の自立を促そうという活動。1960年代にヨーロッパから始まったが、現在では世界的ネットワークが形成され、何千もの小規模生産者グループや貿易会社、何千万もの消費者に直結する貿易システムを組織するまでになっている。

コレが言いたい――「少数派」切捨てを許すな!

社会がますます複雑化している現代、従来以上に十分な目配りのもとで法律制定や政策運営にあたる必要がある。そうでないと、現場には様々な混乱や被害が発生する。政治家や行政マンにはこの点に関する十分な配慮を強く求めたい。

今回のNPOバンクの問題はその典型的な事例であるといえる。NPOバンク側は「十分な配慮」を強く求めているが、今のところ与党側からはこの要請に積極的に応えようとする姿勢は示されていない。ちなみに、「全国NPOバンク連絡会」は、NPOバンクを貸金業法の適用除外とするために以下のような法案改正を提案している。

貸金業規制法の適用除外の対象として、同法第二条の四号の次に、以下を追加する。

四の二 構成員が出資をして結成する団体が、環境や福祉、社会的弱者の救済など、特定非営利活動推進法別表、または、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律別表に掲げられた公益目的の事業を行うものに対して行う融資であって、以下の要件を満たすことによって、金銭的利益(pecuniary profit)を目的とせず、かつ、その収益のいかなる部分もいかなる個人などの利益とならないような組織となっているもの

イ 構成員の出資に対して出資額を超える配当又は残余財産の分配を行わない団体が行うもの

ロ 貸付金利が年7.3%以下であり、かつ、利息計算が単利であるもの

ハ 団体の役員及び従業員の給与の額が、不相当に高額でないもの

ニ 以上の要件を満たす団体が自主規制団体を結成し、その自主規制団体を金融庁に届出することにより、個別団体の代表、所在地、活動状況を金融庁が把握しうるもの

四の三 構成員が出資をして結成する団体が、相互扶助を目的にして構成員向けに行う融資であって、以下の要件を満たすもの

イ 構成員の出資に対する利益配当が年3%を超えないもの

ロ 構成員に対する貸付金利が年7.3%以下であり、かつ、利息計算が単利であるもの

ハ 団体の役員及び従業員の給与の額が、不相当に高額でないもの

ニ 以上の要件を満たす団体が自主規制団体を結成し、その自主規制団体を金融庁に届出することにより、個別団体の代表、所在地、活動状況を金融庁が把握しうるもの

全国NPOバンク連絡会「貸金業規正法の適用除外を求める要請書」より

(2006/11/07 執筆)

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