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第8回 夕張市だけじゃない!地方自治体の財政危機

8月 10th, 2006

元記事

6月20日、北海道夕張市が負債632億円を抱え、事実上の財政破綻に陥った。市の負債を住民一人当たりに換算すると、およそ486万円にものぼる。現在、多くの自治体が財政危機に直面しており、夕張市のような事例が今後多発するのではないかという声もある。

自治体を襲う財政危機

夕張市はかつて炭鉱の町として栄えていた。しかし、石炭産業の衰退に伴って炭鉱が相次いで閉鎖され、市の財政も厳しくなった。その後観光産業で息を吹き返したものの、総額176億円もの資金をつぎ込んで次々と観光施設の建設や買収を重ね、これも一因となって財政破綻への道をたどることとなった。2006年6月「財政再建団体の申請」を決意し、国の管理の下で建て直しを図ることになった。全国には、財政状況の厳しい自治体が数多くある。第二、第三の夕張市が出現することは時間の問題だという指摘さえある。「コレが言いたい」の第8回は、地方自治体が財政面で直面している実情に迫りたいと思う。

財政再建団体とは?

自治体の財政破綻は、民間企業で言えば「倒産」、個人で言えば「個人破産」にあたる。しかし、企業のように消えてなくなることもないし、個人の破産のように借金をチャラにして再出発を図ることもできない。地方自治体の場合には、財政再建団体として認定を受け、国の厳しい管理下で再建を試みることになる。

1957年以降、財政再建団体となった地方自治体は288団体に及ぶ。都道府県では青森県(1957年度~1961年度)と和歌山県(1960年度~1962年度の3年間)が財政再建団体となったことがある。最近では、福岡県の赤池町(現、福智町)が1992年度に財政再建団体となり、2001年度に再建が完了したケースがある。

財政再建団体と認められると、おおむね7年度以内に歳入と歳出が実質的に均衡するように再建計画が作成され、それに従って再建を試みることになる。いわば「鉛筆1本買うのにも国にお伺いを立てなければならない」状況に陥るわけで、地方自治権を放棄するに等しい。他方で、赤字を埋めるための借金(起債)については利子補給があるなど、国から財政支援が受けられる。

夕張市の場合、現在まだ再建計画を作成している段階にあるため、具体的な方針は未だ確定されていないが、①水道料金や市営住宅の家賃の引き上げ、②各種施設の利用料の値上げ、③市の事務事業の見直し(お祭りなど住民のイベントへの市からの補助金が削減される)、④職員給与や退職金の削減、⑤自治体独自で実施している事業の廃止など、住民の負担増は必至であろう。また、夕張市の場合、現在2社ある第3セクターが清算される可能性もある。しかし、こうした厳しい措置が人口流出を招き、その結果、歳入が減って、市の財政をかえって悪化させるという悪循環に陥る可能性もあり、問題解決は容易ではない。

現在、多くの自治体が財政難にあり、全国4389自治体の56.9%が赤字に陥っている。「赤字」がすぐさま財政破綻に直結するわけではないが、夕張市も巨額の負債が破綻の原因になったように、このまま赤字の拡大を放置すれば、いずれ破綻が生じかねない自治体も少なくないといわれている。

まやかしの「三位一体改革」

最近の自治体財政の危機には国の政策が大きく関わっている。図表1から近年の地方交付税の推移をみてみると、小泉政権が誕生して以降、それが急激に減少してきていることがわかる。地方交付税は地方財源の不足を穴埋めするためのものであり、自治体は歳入の2割程度をこれで賄っている。その地方交付税が一方的に削減されてきたのであるから、自治体財政が逼迫するのも至極当然である。自治体の強い抗議を受けて、小泉内閣は「税源移譲」を含めた「三位一体」で「改革」を進めることを表明した。すなわち、国から地方への補助金と地方交付税を削減するかわりに、税源移譲を行って地方自治体の自立を促すというものである。

(図表1)
図表1:地方交付税の推移  総務省2006年版「地方財政白書」より作成

ところが、実際には補助金と地方交付税は大幅に削減されたものの、税源移譲は小幅にとどまり、結果として自治体の財政難はさらに深刻化した。ちなみに、「三位一体改革」が叫ばれた2004年度予算では、補助金が1兆円強、地方交付税は――その不足分を補う臨時財政対策債を含めて――3兆円弱が削減された一方、税源移譲は6500億円程度でしかなく、地方自治体は大幅な財政不足を余儀なくされる結果となっている。

さらに、片山鳥取県知事の次の指摘は注目に値する。「全国の自治体が財政破綻に陥っている理由は、政府の景気対策に呼応し、大量の土木建設工事を実施してきたことにある。財源は、地方債(借金)であるが、政府は地方交付税を上乗せして面倒見るので心配ないといわれた。ところが上乗せどころか約束の地方交付税は大幅削減され、おまけに国策に呼応した地方は『モラルハザード』と指弾され、あげくは合併に追い込まれている」(5月24日付 日本農業新聞)。地方自治体の放漫な財政運営が危機を招いた側面はもちろん否定できないが、上記の片山知事の発言にもあるように、中央政府の財政赤字のツケが地方に回された結果として地方財政が急激に悪化してきた、という側面も看過されてはならない。

コレが言いたい――破綻回避のために何が必要か

地方自治体の財政破綻を回避し、財政健全化を目指すにあたっては、少なくとも以下の三つことが肝要である。

  1. 第1は、「首長の多選」を許さないということである。夕張市では、1979年から2003年まで、6期24年間に渡って中田前市長がその地位を占めていた。このように長期にわたって同一人物の政権が続くと、議会や行政関係者はほとんど市長にものが言えなくなり、政策へのチェック機能が果たせなくなる。また、同一の首長がその任期の途中に大幅な政策転換を行うことは、過去の自分の失政を認めることになるため大変難しい。今回の夕張市の場合も、後藤現市長へと政権が交代してはじめて財政再建に向けての事実上の第一歩が踏み出されることになった。振り返ってみると、日本政府の膨大な借金も、選挙で与野党逆転による政権交代が起きないわが国の特殊な政治状況と不可分に結びついている。健全な財政運営のためには、何よりも健全な民主主義が不可欠なのである。
  2. 第2は、行政担当者が積極的に情報を開示して、住民と問題意識を共有することである。 夕張市では、年度内にいったん返済してまた借りるという「隠れ借金」が290億円以上にも膨れ上がっていた。こうした「秘密主義」が財政再建へ向けての本格始動を遅らせたことはいうまでもない。反対に、情報を公開し、住民と問題意識が共有されていれば、財政の悪化を防ぐこともできる。米国のある自治体では、プロ野球の球団を地元に誘致したいという住民の要望に対し、球場建設が財政上困難であることを明らかにして、建設費をまかなうために消費税を1%上乗せすることを提案した。住民は他の町で買い物すれば、その1%の負担を回避できる。しかし、それが球団誘致に必要なコスト負担であることを十分に認識していたため、住民たちはむしろ買い物を極力町の中でするように努め、その結果予定より半年も早く資金が集まって球場が建設できたという。このように、住民と行政とが問題意識を共有すれば、住民自身が適正な負担を受け入れ、財政悪化を招くことなく、行政サービスを向上させることも可能なのである。
  3. 第3は、自治体間の連携強化である。公民館や体育館、図書館など住民の生活に必要なインフラを複数の自治体が共同で所有したり利用したりすれば、行政サービスの水準を大きく下げることなくコストダウンを図ることができる。あるいは、それぞれの地域の産業上の特徴を生かして、それぞれの地元企業が他地域の企業と相互に連携を強めるよう自治体が支援することで、地域経済を活性化し、税収の増加を図ることもできる。地域内での「自己完結」を想定した再建、再生策にはおのずから限界がある。自治体のネットワーキング能力が試される時代だといえよう。

(2006/08/10 執筆)

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