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第56回山口教授のコレが言いたい!2011年

7月 2nd, 2014

「日本化」と「アメリカ病」
~「失われた10年」に悩まされるアメリカ~

 今アメリカで「日本化」が話題になっている。といっても、「日本文化を取り入れよう」とか、「日本人のやり方を学ぼう」といった話ではない。「アメリカも日本のようになってしまうのではないか」という懸念から、「日本化」が話題になっているのである。


失われた10年

 1980年代後半、日本は不動産バブルを体験し、その不動産バブルがもたらすさまざまな景気浮揚効果に日本中が酔いしれていた。しかし、「宴」は長く続かない。バブル経済は実質3~4年で終わり、90年代に入ると、不動産価格は急落をはじめた。

 それと同時に日本経済は深刻な不況に突入し、以後2003年ごろまで長期の低迷にあえぐこととなった。この長期低迷期を指して、多くの人たちが日本経済の「失われた10年」と呼んだことは周知のところである。

 住宅バブルに酔いしれ、その後リーマンショックとともに深刻な不況に見舞われたアメリカ経済。リーマンショックからすでに3年も経過したにもかかわらず、景気浮揚どころか「二番底」懸念がいまだに叫ばれている。

 そんな中にあって、「アメリカもバブル崩壊後の日本のように、『失われた10年』を体験することになるかもしれない」という懸念が、いよいよリアリティーをもって語られ始めている。奇妙なのは、アメリカ人たちがこうした懸念を、「アメリカ経済も“日本化”してしまうのではないか」といった具合に表現することである。


なぜ「日本化」と呼ぶのか

 もともと「失われた10年」という言葉は日本に向けて言われたものではない。それは70年代後半に発生したバブルが崩壊し、その後長期の経済低迷にあえいでいた中南米諸国に向けて言われた言葉である。「80年代は中南米の失われた10年である」といった具合である。

 その言葉をそのまま不動産バブル崩壊後の日本に当てはめて、当時の日本経済の低迷ぶりを「失われた10年」と称したのである。実際には日本経済の低迷はおよそ14年に及んだのだが。

 大きなバブルが崩壊すると、10年ほど経済が停滞する。これは、「歴史が示す法則」なのである。それは決して日本に特殊な現象ではない。それにもかかわらず、それを「日本化」と呼ぶアメリカ人たち。その背後には、2つの心理が働いているように思われる。

 その1つは、「失われた10年」をバブル崩壊に伴う不可避的な現象だと見做(みな)したくないという心理である。彼らは、それをあくまでも政策上の失敗によるものだと考えたいのである。実際、オバマ大統領は就任後初の会見で、こう語った。

 90年代、日本は大胆かつ迅速な対応をとらなかったので、いわゆる「失われた10年」に苦しみ、ほとんど成長できなかった。(2009年2月9日の会見、於ホワイトハウス)

 バブル崩壊後、日本は政策的に失敗したが、アメリカはそんな失敗はしない。だから、アメリカは日本のように「失われた10年」には陥らないのだというわけである。

 そしてもう1つは、アメリカという国の「底力」を信じたいという心理である。「バブル崩壊後10年も停滞したのは日本が弱々しい国だからだ。その点アメリカは違う。だから、アメリカは『失われた10年』とは無縁だ」――そう信じたいのである。

 こうした状況を見ていると、自分のことや自分をとり巻く環境を客観的に認識することがいかに難しいかをあらためて感じさせられる。たしかに、「自分だけは特別だ」と思いたい心理は誰にでもある。しかし、そのことが事態を客観的に分析する能力を低下させ、結果として対応を誤らせることになる。私はこれを「アメリカ病」と呼んでいるのだが、現在のアメリカにとって、この病はかなり深刻な状況だといわざるをえない。


「アメリカ病」を抜け出せないアメリカ

 客観的にみれば、アメリカの状況が当時の日本よりはるかに厳しいことは明らかである。

 例えば、消費。アメリカの場合は「貯蓄率がマスナス」の状況――すなわち消費者たちが貯蓄以上に借金をして、それで消費を続けている事態――が長く続いていた。それが可能だったのは、消費者たちが住宅を担保にして銀行から借金をし続けられるほどに住宅価格の上昇が続いていたからである。あるいは、手持ちの株を売ればいつでも借金が返せるほどに、株価の上昇が続いていたからである。

 したがって、住宅価格の下落や株価の下落が引き起こす消費抑制効果は、不動産バブル崩壊時の日本とは比べ物にならないほどに大きい。日本はいっときバブルに酔いしれたとはいえ、その時期も含めて貯蓄率は「プラス」であった。

 それだけではない。日本とアメリカとでは輸出競争力が違う。バブル崩壊後の低迷から日本経済を引っぱり上げたのはやはり「輸出」だった。中国経済の躍進が日本の輸出主導型回復を後押ししたという「追い風」も作用した。

 たしかに、オバマ政権も輸出倍増を掲げてはいる。しかし、いまだその成果はみられない。日本とは輸出競争力が違うからである。しかも、世界経済の成長は新興国も含めて今後スローダウンすることが予測されている。アメリカの輸出をめぐる環境が当時の日本よりはるかに厳しいことは明らかである。

 そして、今1つは財政問題。現在アメリカの財政赤字はGDP比で戦後最大の水準に達しており、国債の格下げまで起きている。そんな中では財政出動も大きく制約される。この点でも、不動産バブル崩壊時の日本より厳しい状況にある。

 このように客観的には日本のバブル崩壊後よりはるかに厳しい状況にありながら、アメリカ人はいまだに「日本化するかどうか」といった観点でしか問題把握ができないでいる。だからこそ、QE2と呼ばれるむちゃくちゃな量的緩和政策を実施して、ドル価値の低下やインフレをまき散らし、世界中に迷惑をかけてきたのである。

 アメリカにはもっと謙虚に現実を認識し、それをふまえた経済施策を地道に実施することが求められる。それができない以上、アメリカ帝国の凋落は続くことになる。

 さて、そうだとすると、今後日本はその国際的立ち位置、アメリカとの距離関係をどう定めるべきか。将来世代のために、これをしっかり考えて行動するのが、今を生きる日本人の責務である。

(2011年10月9日執筆)

(2011年/スモールサンニュース10月号より)

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