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第53回山口教授のコレが言いたい!2011年

7月 2nd, 2014

被災中小企業への支援を急げ!
~地域金融機関の“魂”が問われる二重債務問題~

 被災中小企業から悲惨な現状を訴えるメールが寄せられている。震災で会社を失い、顧客を失った被災企業が事業継続や会社再建に取り組むもうとしている今、それを阻んでいるものは何なのか。また、その困難を乗り越えるためにはどんな支援が必要なのか。その際、スモールサンはどんな貢献ができるのか――最近の数カ月間、この問題が私の頭を巡り、問題解決のための糸口を求めていろいろな所に出向く日々が続いていた。


放射能避難地域の中小企業を取り巻く現状

「原発から半径10キロメートルもない距離に会社も自宅もあったために、ほとんどすべてを失ってしまったような状態でおります。社員も7つの県に避難中で、業務遂行がほとんどできないような状態です。地元商工会加盟600社中、事業継続の意思を示したのが15社だけで、このままでは原発により全滅させられてしまいます。国も東電も現場の現実をどのくらい理解しているのか甚だ疑問です。

 しかし、私はこんな状況でもとにかくやり続ける意思だけは明確に持っておりますので、どうしたら会社の活動が再開でき、従業員を再び雇用して地域の人たちにサービスを提供できるようになるか、アドバイスをいただければと思っております。つべこべ言わずにとにかく自力で動くしかないと思っております。スモールサンはぜひ入会させていただきます。よろしくお願いいたします」。

 これは本年6月末に、福島県のある中小企業経営者から私の下に寄せられたメールである。この経営者は現在仙台市に在住し、会社の再建をめざして奔走している。

 もともと地域密着型の企業であり、顧客も避難中のため、現在8割の顧客を失った状態にある。しかも、現状ではこの企業への支援はほとんど行われていない。東電から「仮払金」として250万円が振り込まれたが、震災によって不可能になった買掛金の支払いだけでも数千万円を要する状況下では、「焼け石に水」である。

 そんな中にあっても、一部大手メーカーからは容赦ない催促の嵐だという。「すべての業務機能を奪われ、支払い決済ができないので東電の補償がハッキリするまで待ってほしいと何度も依頼しましたが、とにかく払えと。本社から何とか払わせろと指示が来ているんだと。裁判するとまで。仕方ないので、生活資金としていただいた義援金や心あるメーカーさんからいただいたお見舞い金等まで使って支払いをしました」。

 これが被災中小企業を取り巻く厳しい現状である。ちなみに、銀行債務については現在1年間の返済猶予が実施されている。


スモールサンが担う「情報提供」という支援

 私は頂いたメールをもとに早速中小企業庁に連絡を取り、同社が利用可能な公的支援の一覧をつくってもらって、それをこの経営者に転送した。その中にはすでにご存じの情報もあったし、実質的に使えない制度も少なくなかったが、「初めて知った」「早速調べてみます」と言っていただけた情報もあった。

 また、「原子力損害賠償」の見通しなどについて、資源エネルギー庁の担当者からヒアリングをして、その情報をもって仙台に出向いて直接お会いする機会も作った。

「発生した損失のうちどこまで賠償がなされるのか」「いつ賠償金が支払われるのか」といったことは、経営者がもっとも欲しい情報であろう。その見通しが金融機関からの新規融資を左右することにもなるからである。

 もちろん、私がお会いしても何かを確約できるというわけではない。しかし、こうした「情報提供」が経営者の「折れそうになる心」を支え、希望をもって頑張っていただくための一助となるに違いない。これは、そんな思いからの行動である。

 仙台には、中山義活経済産業大臣政務官の秘書さんにも同行していただき、同社の相談に乗ってもらうことにした。「国はがんばる経営者を見捨てない!」――そうあってほしいし、そのことを経営者に実感してもらうことが必要だと考えたからである。


既存債務の重荷を下ろす方法がある」ことを伝える

「情報提供」の重要性は他地域の被災中小企業においても同様である。以下は、水産加工業を営んでいた岩手県のある中小企業から得た報告である。

 同社は津波で会社も自宅も流され、やむなく社員全員(50名)を解雇した。経営者はそれでも会社を再建し、従業員を再雇用することを望んでいる。その希望を阻む最大のネックは、金融機関に残された6億円の債務だという。これがあるために新たな借り入れがまったくできない状況にある。

 同社の経営者によれば、信用保証協会は、「その残債がなければ」8000万円までは信用保証が可能だと言ったという。また、政策金融公庫は同社のメインの借入先である金融機関が1000万円でも融資するなら――つまり、メインの金融機関が同社の再建に本気であることが示されれば――1億5000万円まで無担保無保証で融資することができるという。

 既存債務の重荷を下ろすことができれば新規の借り入れも不可能ではないが、この重荷がある限り被災企業は再生に向けてスタートが切れないことも事実である。こうした厳しい状況下にある被災中小企業に対し、スモールサンは何ができるか。

 私はとりあえず、M&Aやその手法を活用した企業再生に詳しい萩原直哉プロデューサーに現地に行ってもらい、被災企業を対象にした企業相談会を実施することにした。

 岩手県中小企業家同友会の協力も得て、経営者20名の参加を得ることができた。相談会では、被災中小企業が既存債務の重荷をどのようにして減らすかを中心テーマとし、その具体的手法の解説には、サービサーであるミネルヴァ債権回収株式会社の小野間史敏会長にも参加していただいた。

 その「手法」が個々の中小企業にとって早期の問題解決を可能にするかどうかはわからない。しかし、「絶望感で半ばパニック状態にある経営者が、既存債務を減らす手法があることを知っただけでも冷静さを取り戻すきっかけになる」(萩原氏)という。萩原氏は現在もなお相談会に参加してくれた経営者諸氏と連絡を取り続け、情報提供やアドバイスを行っている。


必要なのは「債権買い取り機構」の早期活動開始と地域金融機関の「やる気」

 他方、私は被災中小企業の悲惨な現状を改善する方法について、中山政務官や高原中小企業庁長官をはじめとする行政担当者と繰り返し意見交換を行った。現在、進められている「債権買い取り機構」設立構想の進捗状況などについても、情報を得るべく担当者からのヒアリングに力を注いだ。

 今、政府は被災各県に金融機関から貸出債権を買い取る機構(ファンド)を設立することを考えている。そして、その機構は金融機関から買い取った中小企業向け債権を一定期間棚上げにして、元本の返済や金利の支払いを凍結する。その後に、一部を債権放棄した上で残債を金融機関に買い戻させるといったことを構想している。

 これが仮にうまく機能すれば、中小企業の既存債務は相当程度減少し、新規の借り入れも可能になるかもしれない。問題は、この構想がいつ現実のものとなるか。そして、それが実効あるものになるように、当該地域の金融機関がどれだけ真剣に協力するかである。

 被災地域を主な地盤とする信用金庫や信用組合は別だが、県全域を活動対象としているような地方銀行は、被災企業向け債権についてはすでに貸倒引当金を十分積み終えており、自らすすんで貸出債権を「機構」に売却しようという気持ちはない。むしろ、それらを「塩漬け」にしておいて、借り手企業が多少でも売り上げが立つ状況になったら、少しずつ返済させた方がいいと考えている。――そんな情報も私のもとには入っている。

 仮にそうだとしたら、被災中小企業には既存債務がいつまでも重しとなってのしかかり、新規の融資を受けることもできず、再生のスタートも切れない状態が続くことになる。中小企業はただただ「貸しはがし」の対象となって、じりじりとやせ細っていくことになる。これでは、被災地域の企業再生も雇用の再生も進まず、復興も絵に描いた餅になる。

 今は、地方銀行としての「魂」がそれを許さないことを信じたいと思うが、仮にそれがかなわない時は、あらためてさまざまなルートを通して金融機関への圧力を高める社会的運動が必要になる。もちろん、その時にも、スモールサンは何らかの貢献を果たしたいと考えている。

(2011年8月8日執筆)

(2011年/スモールサンニュース8月号より)

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