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第52回山口教授のコレが言いたい!2011年

7月 2nd, 2014

安易な消費税増税論に潜む危険
~少なくとも実態を踏まえた議論を~

 7月1日、税と社会保障の一体改革について、政府・与党の改革案がようやくまとまった。最大の争点となっていた消費税増税については、2010年代の半ばをめどにその税率を10%にまで引き上げることで合意がなされた。新聞社などが実施している世論調査でみるかぎりでは、今や「社会保障の財源のためなら消費税増税はやむを得ない」とする考え方が国民の間にも相当程度受け入れられつつあるようである。しかし、「増税やむなし」と回答した国民のうち一体どれだけの人たちが、消費税5%引き上げの根拠や消費税そのものの仕組み、さらにはその問題点について正確に理解しているのだろうか。


なぜ5%の引き上げなのか
~社会保障改革に充てるだけなら3%の引き上げで足りる~

 そもそもなぜ消費税を5%引き上げる必要があるのか。その根拠は、「社会保障改革を進めるための財源が2015年には10兆円超不足する」とする政府の試算にある。

 周知のように現在の消費税率は5%であるが、その税収は毎年およそ10兆円超に上る。とすれば、2015年に生じるとされる不足額10兆円超を賄うためには、その時までに消費税の税率をあと5%程度上乗せすればいいという計算になる。

 かくして、政府からは「2015年をめどに消費税を10%にまで引き上げるべきだ」という提案がなされることになり、与党も――議員からはかなり強い異論が出されはしたが――最終的にはこの提案をおおむね受け入れることになったのである。

「社会保障は国民みんなが享受するもの。だから、その財源を国民がみんなで広く薄く負担する消費税で賄うことには合理性がある」。こう主張する人は多い。しかし、こうした考え方に立つなら、むしろ「5%」の引き上げを容認することには疑問が残る。

 というのは、上に記した「不足額10兆円超」のうち、社会保障の維持・改革に必要な経費は政府の試算でも実は8兆円程度にとどまるからである。その8兆円程度の不足を賄うだけであれば、消費税は3%程度の引き上げで事足りる。

 それなのに、なぜ5%も引き上げる必要があるのか。それは政府の提案の中には、消費税2%分にあたる2~4兆円の税収増で、財政赤字を減らす(基礎的収支の赤字を半減させる)ことが企図されているからである。政府の言葉を用いれば、5%のうち2%分は「財政健全化のため」の税率引き上げなのである。


「財政赤字を減らすための増税」として真っ先に消費税が対象になることの不合理

財政赤字を減らすための増税――そうだとすれば、その財源は必ずしも消費税でなければならない理由はない。むしろ消費税を真っ先に増税の対象にすることは不合理だとさえ言える。なぜなら、財政赤字拡大の原因を歳入面に限ってみるなら――つまり、無駄な財政支出があったのか、なかったのかといった問題を別にすれば――、それが近年実施されてきた所得税の減税にあることは明らかだからである。

 消費税導入後今日までの間に発生した所得税の税収減は、およそ100兆円にも上ると言われている。たしかに高額所得者への高率課税が廃止され、現在では課税所得が1800万円を超えれば、何十億円を稼ぐ高額所得者であろうと税率は一律40%が適応されるにすぎないようになった。この措置で、税収の減少が生じたことはいうまでもない。

 さらに課税最低限の切り下げも実施されてきたから、低所得者から得られる税収も減少した。仮にこうした歳入減が主因で財政赤字が拡大してきたのだとすれば、財政健全化のための増税としてまず検討の対象にあげられるべきは所得税であっても、消費税ではないということになる。

 あるいは、いわゆるキャピタルゲイン課税のあり方にもメスが入れられてしかるべきである。現在、株の売買などで得た所得に対しては「分離課税」が適用され、何億円もうけても税率は10%が適用されるだけである。民主党はそれを20%に戻すとしていたが、いまだ実施されてはいない。財政健全化が喫緊の課題だというのであれば、このキャピタルゲイン課税の引き上げこそが先行されるべきだと思うが、なぜ消費税の増税だけが真っ先に決められるのか。これも大いに疑問である。


消費税は消費者が公平に負担するものという「幻想」

 こんな疑問がかき消されて、消費税増税論が当たり前のように広がっていくのは、「消費税は消費者が公平に負担するものだ」というイメージがすでに広範囲にしみわたっているからである。しかし、このイメージは必ずしも現実を反映してはいない。

 実際、消費税分を販売価格に上乗せできずにいる中小企業者は少なくない。その場合には、消費税の負担者は消費者ではなく、販売業者だということになる。消費税という名前がついているために、この税金は消費者が負担するものだと思われがちであるが、現実は必ずしもそうではなく、競争力の強い弱いによって実質的な税負担者が決まるというのが、消費税なのである。

 ちなみに、中小企業経営者の中に、法人税が払えなくて首をくくる人はほとんどいない。赤字で経営が苦しい時には、法人税は課税されないからである。しかし、消費税はそうではない。業績が赤字の時も、消費税は容赦なく課税される。そういう厳しい環境の下にいる中小企業は往々にして価格競争力が乏しく、消費税分を製品価格に転化できないどころか、むしろそれ以上の値引きをも強いられている。

 苦しい企業ほど、負担が重くのしかかるのが消費税である。消費税論議を行う時には、こういう現実をきちんと踏まえて論議する必要があるのだが、マスコミに登場する多くの増税論者たちにはそうした配慮はまったくみられない。

 また、消費税が「公平な税金」だというイメージも同様に非現実的である。現在、輸出企業は外国から消費税を受け取ることができないために、国内の仕入れ業者に支払った消費税相当分が国から還付されることになっている。例えばトヨタの場合、その額は毎年2000億円を上回っている。

 こうした還付金は、その企業が国内の仕入れ業者に対しそれだけの消費税を支払ったことが前提になっている。しかし、先にも述べたように消費税を実質的に誰が負担するかは競争力の強弱によって決まる。したがって、還付を受けた企業が実質的にそれだけの消費税を本当に負担したかどうかは相当怪しいということになる。

 端的にいえば、大企業が下請け企業に対し、消費税分に相当する5%の値引きを要請し、それを下請け企業が受け入れたとすれば、形式的にはその大企業は消費税を支払っていても実質的には下請け中小企業がそれを負担していたと考えられる。しかし、国からの還付金はこの大企業に支払われる。消費税は下請け企業が実質的に負担し、還付金は大企業が受け取る。これでも、消費税は「公平」な税金だといえるのだろうか。

 ちなみに経団連には輸出大企業が多い。したがって、経団連の主張は当然のことながら「消費税を増税し、法人税を減税せよ」というものになる。消費税の増税は還付金の増加につながり、法人税の減税はそれを利益として社内に留保することを容易にするからである。


増税論議で配慮されるべきこと

 上記のようにざっと見ただけでも、安易な消費税増税論には問題が多い。もちろん、今後社会保障費は自然増の部分だけでも年間1兆円のペースで増加していくし、政府の歳出の48%が現在借金で賄われているという是正すべき現実もある。そうである以上、今後ある程度の増税は避けて通れないことも事実である。しかし、増税を論じる際には、少なくとも以下の2つのことが十分に配慮されなければならない。

 その1つは、消費、所得、資産という3つの課税についてどのようなバランスを「良し」とするか、常に税体系の全体像を考慮しながら増税が論じられなければならないという点である。現在のように、突出して消費税増税だけを論じるやり方は将来に大きな禍根を残しかねない。

 いま1つは、消費税については流布されているイメージに縛られることなく、真摯に実質的な負担関係を分析し、その問題点を緩和すべくさまざまな諸施策とセットで増税を考える必要があるということである。低所得層を対象にした施策をセットにしてその累進性を緩和することが必要なことはよく指摘されているが、それに加えて、きめ細かな中小企業対策を消費税増税とセットにすることで一部の中小企業に過度な負担がかかることのないよう配慮することも必要である。

 税のあり方を問うことは国のあり方を問うことにほかならない。今こそ、国民各層の利害を超えた強い関心と深い思慮が求められている。  

(2011年7月11日執筆)

(2011年/スモールサンニュース7月号より)

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