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第49回山口教授のコレが言いたい!2011年

7月 2nd, 2014

「奪い合う経済」から「分かち合う経済」へ
~電力不足問題が提起したもの~

 大震災がもたらした電力不足。当初政府はいわゆる「計画停電」でこの問題を乗り切ろうとした。しかし、1日数時間の停電が引き起こす経済的な打撃はあまりにも大きい。なんとかこの方式によらずして、電力不足を乗り越えることはできないかと現在さまさまな試みが提起されている。


「輪番操業」の提案

 その1つとして注目されているのが、自動車工業会が提案しようとしている「業界別の輪番操業」である。日経新聞はこう報じている。


     自動車工業会(志賀俊之会長)は、自動車や電機、素材など主要業界ごとに休日を決めて工場の操業を一斉に止める「業界別の輪番操業」を近く提案する。……

     例えば月・火曜日は自動車、水・木曜日は鉄鋼、金・土曜日は電機といった具合に主要業界が休日を設定。金融や流通業界にも広げていくことを想定している。
    (2011年4月7日日本経済新聞)

 経済産業省は工場などの大口事業者に、夏のピークの電力需要を25~30%削減するよう求めることで、電力不足問題を乗り切ろうと考えている。しかし、この要望に応えようと各社がばらばらに節電を実施すると、A社の工場が操業していても、B社が休業中のために部品が手に入らず、結局生産が続けられないということになりかねない。

 そこで、業界として効率的に節電するには、加工組立などを行う会社とそこに部品を納入する会社が一斉に工場の操業を停止する必要がある。これは、国内に7000社を越える部品会社をもつ自動車業界にすれば切実な問題である。こうした業界の事情が、「業界別の輪番操業」の提案となった。


「分かち合い」の仕組みづくり

 もちろん、この提案が簡単に実現されるとは思えない。「業界によっては2~3日ごとに工場の操業を止めると品質が低下するといった問題もあり、調整は難航する可能性もある」(同上紙)。しかし、その成否は別にして、この試みが新たな社会システムの提案でもあることに、私は注目したい。

 それは一言でいえば、一時的にせよ、「奪い合う経済」を「分かち合う経済」へと転換させようとする試みだからである。

「電力が不足するのなら、電気料金を上げればいい」と主張する人たちもいる。たしかに電力使用のコストが上がれば、そのことが節電の工夫を促すことにもなり、決して不合理な提案だとはいえない。

 しかし、それは、高所得者は今まで通りで電気を使用できるが、低所得者は使用の抑制を余儀なくされるという意味で、低所得層に負担を押し付けて事態を切り抜けようという社会的不公平感を生みかねない提案である。経済界でいえば、競争力のある大企業はコスト増を製品価格に転嫁することができるから、今までどおり電気を使用できるが、製品価格への転嫁が難しい中小企業は電気の使用を抑え、結果として売り上げの縮小に甘んじざるをえないということになる。


将来の先取り

 このように、「いわばカネにモノを言わせて、電力という資源を奪い合う」というのも1つの解決手段かもしれない。しかし、これとはちがって、関係者が話しあって合理的に資源を「分かち合う」という解決手法もある。「輪番操業」は、言ってみればそうした提案の1つとして位置づけられる。

「少ない資源を分かち合って、経済を動かしていく」――これは、CO2問題や化石燃料枯渇問題に象徴される地球資源の限界を考慮するなら、いずれ人類が取り入れなければならないシステムである。

「輪番操業」は、震災による電力不足問題という一時的な外的強制に起因しているとはいえ、日本がいわば将来を先取りして、あらたな社会システムを実験的に導入しようとするものだともいえるのである。その意味で、これは決して「暗い話」ではない。


求められる生産性の向上と高付加価値化

 断っておくが、「奪い合う経済」から「分かち合う経済」への転換がいずれ生じるのだといっても、それは市場競争がなくなることを意味するものではない。
 企業は限られた資源を極力有効に活用して、市場競争を勝ち抜いていかなければならない。省エネを進めながら、いかに生産性を高めていくか。どのようにしてより高付加価値な製品を提供できる会社になるかなど。企業間競争がより高度化されることになる。当然のことながら、それに応じて中小企業経営者の力量もアップしなければならない。――そんな時代が近いことを、電力不足問題が提起している。直面する事態を、こう捉えることはできないだろうか。

(2011年4月9日執筆)

(2011年/スモールサンニュース4月号より)

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