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第48回山口教授のコレが言いたい!2011年

7月 2nd, 2014

TPP(環太平洋連携協定)参加問題
~何が問われているのか~

「先生は、日本がTPPに参加することに賛成ですか?それとも反対ですか?」――最近、こういう質問を受けることが多い。もっと端的に「TPP参加の応援団になってください」とか、「TPP参加に反対する会に入ってください」という要請を受けることも少なくない。

「賛成か、反対か」――いずれは私も立場を鮮明にすべき時が来るとは思うが、現在ではそのどちらとも言いがたいというのが正直なところである。というのは、TPPという舞台の上で日本政府が果たしてどんな「踊り」を舞おうとしているのか、それがはっきりしないからである。


TPPとFTAとの違い~TPPでは国の形が問われている~

 中小企業経営者の中には、TPPをFTAと「同じようなもの」だと認識している人も少なくない。しかし、これは大いなる勘違いである。

 FTAは自由貿易協定と訳されるように、あくまでもモノやサービスの貿易に関する協定であって、そこでの主なテーマは関税の引き下げである。これに対し、TPP(環太平洋連携協定)は貿易のみならず、投資、金融、労働といった広範囲に及ぶ問題について各国共通のルールを作ろうとするもので、それはFTAと違って、国の制度さらには文化や伝統にさえ影響を及ぼしかねないものなのである。

 表は、TPP交渉の作業部会の一覧だが、これを見ただけでも、その対象となる課題がいかに広範囲にわたっているかが確認できる。
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 つまり、「関税が引き下げられ輸出がしやすくなるのなら、大いに賛成!」といった具合に、簡単にはいかないのがTPPなのである。

 例えば、「金融サービス」について考えてみよう。日本では近年金融業界の「改革」が積極的に進められてはきたが、いまだアメリカの金融システムとはかなり異なっている。アメリカでは銀行の自己資本比率規制は10%だが、日本では8%、特に海外での業務を行わない地方銀行や信用金庫では4%が守るべき最低基準になっている。

 日本がTPPに参加することで、仮にアメリカと同様の基準を求められるようになったとしたら、これら金融機関は自己資本比率の上昇を余儀なくされ、結果的にその貸出能力が低下しかねない。となれば、これら金融機関に依存している中小企業にも多大な影響が及ぶことになる。

 それだけではない。アメリカの金融機関が日本市場に参入する際の障害になっているとして、中小企業に低利融資などを行っている政府系金融機関の存在が問題視され、その縮小を求められることも考えられる。これも中小企業にとっては看過できない問題である。

 いずれにしても、「TPP参加で困るのは農業だけ」といった発想で、簡単に賛否を判断することは大いに危険なのである。

 こうした問題について、日本政府がどのような態度で交渉に挑もうとしているのか。そして、どこまで自己主張し、どこまで譲歩するつもりなのか。こうした点がはっきりしないかぎりは、「簡単に賛成などできない」というのが私の立場である。


誇るべき日本の医療保険制度が壊される危険

 TPPで交渉のテーブルに乗せられる「金融サービス」の中には、「保険」も含まれている。周知のように、アメリカの保険業界は政府に対する最強の圧力団体の1つである。実際、小泉政権がアメリカ政府の意向を受けて郵政民営化を懸命に進めた背後には、「簡保」の存在を市場参入の障壁とみて、その縮小を希望したアメリカ保険業界の強い要請があったと言われている。

 日本がTPPに参加すれば、そのアメリカの保険業界の圧力も避けることができなくなる。それは、日本が世界に誇る「公的国民皆保険制度」の実質的な崩壊につながりかねない問題を含んでいる。

 というのは、アメリカ政府は保険業界の意向を受けて、日本に対し「混合診療の解禁」を強く求めてくるにちがいないからである。「混合診療の解禁」を安易に進めていけば、徐々に公的保険の適用外の医療が拡大し、やがては「進んだ医療を受けたければ、保険外で」というのが一般的になりかねない。

 そうなれば、その高額な治療費を賄うために、国民は公的保険以外に民間の医療保険にも入らなければならなくなる。これは、アメリカの保険業界のビジネスチャンスを広げることにはなるが、日本国民にとっては大いに問題である。

 政府はこの点についてどのように考えているのか。その姿勢を明らかにしないまま、TPP参加への賛成を国民に求めようとしている現状は、まったくもって不可解だと言わざるをえない。


TPP参加を「開国」と位置づける菅政権の危うさ

 要するに、TPPへの参加を問うことは、政府が「どういう国をつくろうとしているのか」という、その国家理念を問うことなのである。したがって、菅政権は自身が目指す「国の形」を明示し、その国づくりを進める上でTPP参加がどのような意義を有するものなのかを国民に示さなければならないのである。

 残念ながら、菅政権にはこうした問題意識はほとんど見られない。その証拠に、TPP参加を「平成の開国」と称して、国民に同意を求めるキャンペーンを展開している。そこに見られるものは、アメリカの要望に合わせて国を「開く」という受け身の姿勢でしかない。この危うさこそが、国民の間に強い不信と不安を呼び起こしているのである。菅首相が一刻も早くこのことに気づいてくれることを期待したい。

(2011年3月6日執筆)

(2011年/スモールサンニュース3月号より)

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