山口義行・公式WEB

Yamaguchi-yoshiyuki.net

第45回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

“5%の新規性”を実践しよう!
~「小さな挑戦」が未来を開く~

「売り上げの5%でいいから、何か新しい事業に挑戦しませんか」――日本経済がバブル崩壊後の「失われた10年」(実際の停滞は14年間続いた)を歩んでいた時期、私は中小企業経営者の方々にこんな呼びかけを繰り返してきた。
「マクロ経済がこういう状況なんだから、会社の業容が低迷するのもやむをえないかもしれません。でも、こんな時期だからこそ、売り上げの5%でもいいから何か新しい事業に挑戦してみることが必要だと思うんです。そうすることで、なえがちな社員のモチベーションを高めて、会社が閉そく感に押しつぶされないようにする。これは経済が停滞期にある時には、経営者のもっとも重要な仕事の1つだと言えます」――こう語り続けて、すでに10年以上が経過した。


10年前の「ちょっとした提案」~“普通の印刷業者”から“ユニークな出版業者”へ

スモールサン会員でもあり、現在、冊子スモールサンニュースの『上期号』や『下期号』の出版・印刷をお願いしている(株)三恵社の木全哲也社長は、同氏がまだ専務であった10年ほど前に、「小部数テキストの出版」という新しい分野への挑戦を開始した。

 不況に加えてIT化やデジタル化といった構造的要因が重なり、印刷業界は当時すでにじりじりと「縮小」の道を進んでいた。そんな印刷業界に身を置く者として木全氏は、「何か新たな事業を始めなければ、会社の将来はない」と焦燥感にも似た強い危機意識を抱いていた。とはいえ、何をしたらいいのか。その答えは簡単には見つからない。

 そんな状況にあった木全氏に、「大学は印刷物の宝庫だから」と、私は立教大学を訪れることを勧めた。早速池袋の研究室を訪ねてくれた同氏に、私はちょっとした「思いつき」を提案したのである。10年以上も前のことである。

「学習参考書で育った今の学生たちの多くは、90分間にもおよぶ講義の内容をノートに上手にまとめるなんてことはできません。そこで、多くの先生が講義の内容を整理したレジュメを配って、それに基づいて講義を進めています。でも、そのペーパーを受講生全員に配るだけでも結構時間を要しますし、やっと配り終わったかと思うと、『今日欠席した友達の分も下さい』とか、『先週のレジュメをなくしちゃったから、もう一度頂けませんか』とか言って学生たちがだらだらと教授の下にやってくる。そんなこんなで授業の始まりが大幅に遅れてしまうので、多くの先生たちが手を焼いているのが現状なんです。

 そこで…ですが、そうしたレジュメの1年分を1冊にまとめた講義用ノートかテキストのようなものを、履修する学生数に応じて少しだけ印刷・出版してあげるというのはどうでしょうか。ビジネスになりませんかねえ。間違いなくニーズはあると思いますよ」。

「おもしろいですね」と返事したものの、木全氏の頭をよぎったのはコストの問題。受講者数100名にも満たない講義のために少部数の「テキスト」を出版していたら、それはどんなに薄っぺらなものでも1冊3~4000円もする高額な出版物になってしまうからである。


“新規への挑戦”が、従業員のモチベーションを高める

 躊躇する木全氏に、素人の私は気楽にもこう言い放ったことを覚えている。「そこを何とかするのがプロでしょ!執筆者である教授たちに自分で編集もやらせることでコストを下げるとか、何とか工夫して下さいよ!」

 こんな無責任な素人の要望に応えて、木全氏は「サンケイ・システム」と称する低コストの少部数出版システムを作り上げたのである。いわゆる「オンデマンド印刷機」が世に出る4年ほど前の出来事である。

 この新たな試みを開始してから2年ほど経過して、あらためて事業の進捗具合を尋ねた私に、木全氏はこう明言した。

「売り上げでみれば、まだ全体の5%にも満たない程度です。でも、その効果は大変大きなものでした。今のご時世では印刷の売り上げが前年比何十%も伸びるなんてことはまずありえません。でも、今回の試みはわが社にとっては全く新しいビジネスですから、規模は小さくても頑張れば前年比100%増ということもありえます。これは従業員のモチベーションを大いに高め、努力と工夫次第ではまだまだ会社が生きる道はあるんだという前向きな気持ちにさせてくれました。それだけでも今回の試みは成功だったと言えます」。

 私が多くの経営者に、「“5%の新規性”を!」と呼び掛けるようになったのは、この出来事があってからである。

苦しい時の「小さな挑戦」が、数年後「大きな柱」となって会社を救う

 今や三恵社の「少部数テキスト出版」は、同社の存続を支える経営上の「大きな柱」にまで成長している。同社のシステムを活用してテキストを出版した大学教師たちの数はすでに200大学600名をかぞえ、もはや同社は全国有数の少部数テキスト出版社としてしっかりとその地位を確立している。

「あの時の“あの挑戦”がなかったら、ウチの会社はもうとっくに消えていたと思います!」

 木全氏はこう明言して憚(はばか)らない。苦しい時の「小さな挑戦」が、数年後「大きな柱」となって会社を救うことになったのである。

 近年はこの体験を踏まえて、同社は中小企業経営者自らが執筆する経営者向けの少部数書籍など新たな展開を試みており、最近は「電子書籍化」という新しい時代の流れにも対応しようと、さらなる挑戦を視野に入れて頑張っている。10年前の「小さな挑戦」が今や同社の風土・体質となって、その不断の革新力を生んでいるのである。


開花する「5%の新規性」~“待ちのビジネス”から“仕掛けるビジネス”へ

「5年前、先生から“5%の新規性”という話を伺ったのがきっかけなんです」――つい先日私にこう語ってくれたのは、(株)長大商事の長谷川睦副社長である。同社は、名古屋で貸しビル・貸室を仲介する不動産業。どちらかといえば、「待ちのビジネス」と言ってよい。そこから積極的に「仕掛けるビジネス」へと1歩踏み出そうというのが、長谷川氏の新たな挑戦なのである。

 その試みは、「大家さん」を説得して、車好きのためのガレージハウスを建て、これを賃貸しようというもの。その名も「AJITO」。居室とガレージとが透明のガラスで仕切られ、住人は愛車を眺めながら、食事をしたり居間でくつろいだりすることができる。設備もしっかりしていて、ガレージでエンジンを吹かしても音はほとんど外に漏れない。排気ガスの排出も万全で、ガレージや居室に排気ガスやその臭いが充満することもない。

 中部地区では初めての試みとあって、展示会には地元のテレビや新聞社が多数押し掛けた。私もその展示会に招待された。

「先生の話を聞いてから5年間温めてきたものですが、やっとそれが実現しました」。

 目を輝かして、私にこう語ってくれた長谷川氏の挑戦。この挑戦が成功体験となって、多くの中小企業経営者に勇気を与えてくれることを願わずにはいられない。

“5%の新規性”――これはたしかに、「激動の時代」を生き抜く中小企業に必要なキーワードだと思う。

(2010年12月5日執筆)

※参考
株式会社三恵社HP

http://www.sankeisha.com/

「AJITO」HP

http://www.safety-l.com/s-garage/estate/1.html

(2010年/スモールサンニュース12月号より)

山口義行・公式WEB

Yamaguchi-yoshiyuki.net