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第41回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

「元気企業の法則」を探れ①
~「価格の多様性」に着目したTKP貸会議室ビジネス~

「あの会社、不況の中でもすごく“元気”だよ!」――スモールサン会員の方から、そんな「元気企業」を紹介していただき、その会社を取材して「なぜ、どう元気なのか」を分析する。この作業を積み重ねていけば、やがては“元気企業の法則”が見つかるのではないか。そう考えて、この間、会員諸氏に「元気企業」の紹介をお願いしてきた。

 今回は、千葉県のスモールサン会員である猪瀬忠彦氏にご紹介いただいた(株)TKPの貸会議室ビジネスを取り上げることにしたい。


たった1人で始めた貸会議室ビジネスが、5年で従業員250名の会社に!

 インターネットなどで貸会議室を探した経験のある人なら、おそらく一度や二度は「TKP」の三文字に出会った経験があるにちがいない。(株)TKPは、全国主要都市に500室を超える貸会議室・研修施設・貸オフィスなどを直営している。創業してまだ5年しかたっていない。まさに業界ナンバー1の急成長企業である。

 同社の施設が、民主党政権の「事業仕分け」の会場として使われたことから、最近はメディアで取り上げられることも増えた。会員諸氏の中には、「TKPをテレビで知った」という方も少なくないだろう。

 猪瀬氏のご紹介で、私が同社の河野(かわの)高輝社長を訪問したのは、去る7月26日。たんなる好奇心からあれこれ質問する私に、河野社長はもったいぶることもなく、多弁に自社のビジネスの特徴を語ってくれた。「やる気」あふれる37歳の若き社長である。

 貸会議室ビジネスをはじめたきっかけは?――これが私の最初の質問。

「伊藤忠商事を辞めて何をやろうかと考えていた5年前、ある人の紹介で、今の六本木ミッドタウンの近くにあった3階建てビルの2階と3階の2フロアを、通常の3分の1の家賃で借りられることになったんです。会社を辞めたばかりで『失業中』でしたが、『この値段なら何とかなる』と思って借りることにしました。

 なぜそんなに安かったのかというと、このビルは取り壊しが決まっていたんですね。ところが、1階のレストランが出ていかない。まだ交渉中だったんです。かといって、空き室のまま放っておくのももったいないので、立ち退きが決着するまでの間、安くていいから誰か借りてくれないかということになったわけです。

 そこで、私は『3ヶ月前に通告されたら、無条件ですぐ出ていきます』という念書を入れ、そのかわり格安で借りることにしました」。

「そうしたら、たまたま近くで工事をしていた建設会社が、現場事務所として1フロアを借りてくれたんです。もう1つのフロアも、近くのいろんな企業が時間制で借りてくれて…。

 もともと通常の3分の1の値段で借りていましたから、いわば仕入価格が非常に安い。結果として、予想以上の利益が出ました。そこで、『よし、このビジネスモデルで行こう!』と思ったんです。」

 同社はいまや従業員250名を抱える企業であるが、それを支えるビジネスの基礎は、あくまでも河野社長のこの時の体験にある。


「正当な価格」は多様でありうる~この事実に着目したビジネスモデル

「正当な価格は、1つではない」。この、「価格の多様性」というものに着目したのが、御社のビジネスモデルだといってよさそうですね。――河野社長の説明を聞いて、私はこう念を押した。社長は「その通りです」とうなずいてくれた。

「一物一価(いちぶついっか)」という言葉がある。1つのモノには、1つの価格がつくという意味。私たち経済学者は、これを前提に議論を立てる。しかし、現実はそれほど単純ではない。

 河野社長が享受した「通常の3分の1の家賃」はまさにこれにあたる。それは、決して不当な低価格ではない。「立ち退き交渉が決着するまで」。「3ヶ月前に通告されたら、無条件で出ていく」。この2つの条件が付与されれば、それは「正当な価格」であるだけでなく、「空き家で放置しておくしかない事情」を抱えたビルのオーナーからすれば、むしろ「ありがたい価格」だったはずである。

 河野社長はこう説明する――

「例えば2年以上貸すのであれば、『月4万円もらわなければ貸せませんよ』という物件であっても、1年で出ていってほしいとか、半年だけ貸したいという事情がある場合には、貸し手は『3万円で貸してもいい』ということになります。

 他方、借り手の側はこれと反対です。2年以上借りるのであれば、『月4万円以上は払えませんよ』という物件であっても、半年だけ借りたいとか、研修に使うから3ヶ月だけ貸してほしいといった場合なら、『月5万円払ってもいい』ということになります。そこで、TKPが3万円で借りて5万円で貸せば、月2万円の利益を得ることになるわけです」。

 同じ物件がニーズによって高くも安くもなる。TKPがやろうとしているのは“「安くても提供したい」という供給”と“「高くても手に入れたい」という需要”をつないで高利益を得る“賢いビジネス”なのである。


「情報の収集」で社会の“ムダ”を減らす~時代の要請に応えることが“元気の源”

「価格の多様性」はいろいろな所に見いだせる。例えば、平日にはほとんど稼働していない結婚式場。仮に土日に結婚式場としてそのスペースを借りれば賃料は高くなるが、これをほとんど活用されていない平日に貸会議室として使用するのであれば、もともとほとんど利益を生まない物件なのだから、相当安く借りられるはずである。

 実際、TKPの2号店は、赤坂の結婚式場を平日に会議室として時間貸しするというものであった。

“「安くても提供したい」という供給”は、そうでなければ「空きスペースとしてムダになってしまう」という事情を背景にもっている。他方、“「高くても手に入れたい」という需要”には、そうでなければ「もっとムダにコストをかけることになる」という不便が隠されている。

 そんな「ワケあり」情報を収集し、たくみにこの両者をつないでいくTKPのビジネス。それは、環境面からも経済面からも、“ムダの排除”が重要な課題となっている現代社会の要請に応えるものだといってよい。こうした「時代との整合性」――そこにこそ、同社の“元気の源”があるのかもしれない。

(2010.8.2執筆)

(2010年/スモールサンニュース8月号より)

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