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第39回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

菅直人新政権への期待と不安
~中小企業支援は3点セットで~

 鳩山前総理の辞任を受けて、6月4日、菅直人総理大臣が誕生した。菅新総理がいわゆる「脱小沢路線」を鮮明にした人事を打ち出したことで、国民の民主党支持率も急回復を示している。その菅政権に私たちは何を期待すべきなのか。中小企業政策を切り口に、以下に若干記しておきたい。

鳩山政権はなぜ行き詰まったのか

 現在日本を取り仕切っている権力は3つある。1つは国会という権力。2つ目は官僚という権力。3つ目はマスコミという権力である。

 昨年の衆議院選挙で、国民は国会という権力の場で“主役交代”を実現させた。その国会での権力把握に基づいて鳩山政権が誕生したが、これに連動して残りの2つの権力に基本的変化が生じたかと言えば、決してそうではない。

 官僚もマスコミも、戦後初の「選挙による政権交代」という歴史的事実を簡単には受け入れようとしなかった。新政権が残りの2つの権力を掌握するには相当な時間が必要だったのである。

 ところが、鳩山首相は官僚もマスコミも掌握できないままで、沖縄の普天間基地移転という重い課題に挑んだ。それは、超大国アメリカを相手にハードな交渉を要する課題であり、その達成には、政権が国内に盤石な支持基盤を有していることが不可欠である。それは決して国会という1つの権力を得ただけで果たせる課題ではない。結果は、火を見るより明らかであった。

「国外、少なくとも県外」という首相の「思い」を体現して動く官僚は、外務省にも防衛省にもほとんどいなかった。その冷ややかなムードを反映して、岡田外務大臣は就任早々嘉手納基地への統合という「県内移設」案を打ち出し、北沢防衛大臣も「グアムは無理」と国外移設案を否定した。

 また、マスコミも鳩山首相の「思い」を「アメリカとの関係を悪くしかねない危険な政策」と位置づけて批判的論調を繰り返した。鳩山首相の敗北宣言はまさに「時間の問題」だったのである。

中小企業支援は3点セットで

 さて、リーマンショック後、世界の市場も産業も「100年に一度」という言葉に値する劇的な構造変化を遂げようとしている。そうした時代にあって、日本の「財産」とも言える中小企業群の活力を維持し、それをより強靭なものへと発展させていくことは、今日の政治に課せられた最重要課題の1つである。

 そのためには、以下の3つの施策が3点セットで実施されなければならない。

 1つには、「中小企業憲章」の制定である。

 EUには「小企業憲章」があり、EU各国はこの憲章に基づいて政策を実行していくことを約束している。その基本姿勢は「Think small first」(小企業を第1に考えよ)である。その基本理念に基づいて行動計画を策定したり、欧州委員会によるフォローアップが行われている。

 民主党は前回の衆院選でマニフェストの中に「中小企業憲章の制定」を明記した。実際、鳩山政権下で憲章文の作成作業も行われてきた。私は同省の「憲章」研究会のメンバーとしてその作業に関わってきた。

 重要なのは、これを単なる作文に終わらせないことである。まずは国会決議を通して、その基本理念を「中小企業立国宣言」として国の内外に高らかに宣言することからはじめなければならない。残念ながら、中小企業庁はこれを「閣議決定」にとどめる方針である。

 2つには、「中小企業担当大臣」の設置である。

 ちなみに、09年8月号ニュースに記したように、「中小企業担当大臣」の必要性を民主党の『政策集』にはじめて明記したのは菅氏である。

 2002年12月頃だっただろうか。民主党代表に就任したばかりの菅直人氏に呼ばれ、中小企業の現状や中小企業政策について1時間ほどレクチャーしたことがある。…… その際……菅氏に重要な施策を提案したことを覚えている。それは、「中小企業担当大臣を設置したらどうか」というものである。菅氏は私の提案に強い興味を示し、以後民主党の『政策インデックス』の中に――残念ながらマニフェストには記載されなかったが――「中小企業担当大臣の任命を検討する」という一文が明記されるようになった。 (スモールサンニュース8月号より)

 3つには、総理を議長とする「中小企業支援会議」の設置である。

  すでにニュースや一斉メールで繰り返し述べているように、日本の中小企業の発展のためには、経済産業省の一部局である中小企業庁が中小企業政策を取り仕切るという現在の体制から、関係省庁が連携しながら国を挙げて中小企業支援に取り組む体制へと発展させることが不可欠である。

  そのためには、総理を議長とし、関係閣僚が参加する「中小企業支援会議」の設置が必要になる。その実現に向けて、私も精いっぱいの努力を重ねてきた。その成果として、鳩山総理が国会で「中小企業支援会議を内閣府の中につくる」と約束するところまでこぎつけたが、鳩山総理の退陣とともにこの構想も振り出しに戻っている。

菅新総理は「国会以外の権力」とどう対峙していくのか

 次期参議院選挙に向けたマニフェストの中に「中小企業担当大臣の任命」を明記しようとする民主党議員に対して、経済産業省の官僚が「それは困ります」と阻止のための説得工作を行っていた。

  中小企業支援会議の設置についても中小企業庁はまったく非協力的であった。その意向を受けてのことかどうかはわからないが、経済産業副大臣が中小企業支援会議設置に反対を公言するという状況が鳩山政権下で続いてきた。

 普天間基地移転問題に比べたら上記の3点セットの実現は、はるかに容易である。しかし、それでも、この3点セットの実現のためには国会以外の権力、とりわけ官僚という権力を総理がしっかりと掌握していることが不可欠である。果たして、それが可能かどうか。菅新総理のやる気と力量が問われている。

(2010年6月7日筆)

(2010年/スモールサンニュース6月号より)

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