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第36回山口教授のコレが言いたい!2010年

7月 1st, 2014

トヨタ・リコール騒動~中小企業経営者はそこに何を見るべきか

トヨタ車のリコール問題が世間をにぎわしている。中小企業経営者は、この事象に何を見るべきだろうか。


「他山の石」とすべきリコール問題

その1つは、何と言っても、「企業の社会的責任」に関する問題である。

「安全を第一に」と言いながらも、トヨタには「臭いものには蓋」的な体質があったのではないか。今回のリコール問題では、何よりもまずそれが問われている。

「企業の社会的責任」というと、ついつい寄付活動やボランティア支援などを頭に浮かべがちだが、そこで本来求められているものは、企業が「自分自身の活動が社会にどのような影響を及ぼすか」を十分に認識したうえで、自ら市民社会と調和的な存在であり続けようとする姿勢にほかならない。

 経営陣にそういう「社会的責任」への意識が欠如していると、いずれは市民社会との間で衝突が起き、企業の長期継続的発展は大いに阻害されることになる。トヨタが直面している問題もまさにこれである。

 いま1つは、「コーポレート・ガバナンス」の問題である。「急速な企業の成長に人の育成が追いつかなかったことが一因になった」と豊田社長は述べているが、どんなに立派な企業理念を掲げていても、それを体現する「人」の育成なしには、その理念は「絵に描いたもち」になってしまう。

 コーポレート・ガバナンスを「所有者である株主の意向を企業経営にいかに反映させるか」という問題として認識する向きもあるが、これはアメリカ型企業社会を前提にしたあまりに狭い問題把握である。コーポレート・ガバナンスは、何よりも、「企業理念を日々の活動にどう具体化・徹底化させるか」という問題として認識されるべきであろう。

 上述の「企業の社会的責任」も、コーポレート・ガバナンスがしっかりしていなければ十分に果たせない。その際、もっとも大切なのは「人」である。豊田社長の反省の弁が示す問題は、決して中小企業にとっても無縁の事柄ではない。

 いずれにしても、中小企業の経営者が、今回のリコール問題を「他山の石」として、そこからいかなる教訓を引き出しておくかは重要である。ぜひとも、リコール騒動をテーマに、社内で従業員と大いにディスカッションされることを勧めたい。


激化する競争の一場面

 トヨタ・リコール騒動が示すものは、上述のような「企業倫理」上の問題だけではない。それは「国家を巻き込んで展開される企業間競争の一場面」であり、この競争激化こそ、リーマンショック後の世界経済を象徴するものにほかならない。その意味で、トヨタ・リコール問題は極めて今日的な事象なのである。

「競争激化」をもたらしている背景の1つとして、アメリカの輸出志向国家への転換が挙げられる。今回の騒動に対し、トヨタの自動車工場を有する州の知事らは、「あまりにも不公平である。トヨタは米国で17万2000人もの雇用を生み出している米国でもっとも称賛されるべき企業である」という声明を出したという。こうした州知事らの認識は、つい最近までアメリカの「常識」でもあった。

 戦後、アメリカは世界経済を「消費国」としてけん引してきた。ただ、「消費」を輸入でばかりまかなってしまうと、国内では「雇用」問題が発生する。トヨタはこの問題をアメリカ国内でアメリカ人を使って自動車を組み立てるという形で解決した。結果として、トヨタは17万人の雇用を生み出し、「米国でもっとも称賛されるべき企業」となったのである。にもかかわらず今、そのトヨタが徹底したバッシングにあっているのはなぜか。

 その背後には、アメリカという国が輸出国へと「転身」しようとしている事実がある。去年の9月26日、G20の声明の中で、アメリカは今後過剰消費を抑え、財政支出も抑制し、他方で「輸出セクターを強化する」と宣言した。

 アメリカの自動車産業を「輸出産業」として強化するためには、業界トップとして君臨する最大のライバル・トヨタの牙城を崩すことが不可欠になる。今回のリコール問題はその絶好のチャンスなのである。とすれば、トヨタが17万人の雇用を生み出したという事実は後景に押しやられ、いかにしてその「ブランド価値」を低下させるかが、「国家的課題」として優先されることになる。


「次世代自動車」市場を見越した競争戦

 さらに、今日競争が激化している背景として、「次世代自動車」の時代が到来しつつあるという事実を挙げることができる。

 電気自動車の時代が到来するということは、とりもなおさず、ガソリン車の時代に描かれた業界地図が再度、描き直されることを意味する。「ガソリン車」時代にトヨタに水をあけられてきた各国の自動車産業にとってみれば、シェア向上の最大のチャンスが訪れることになる。その際、最大のネックはトヨタ自動車のもつ「安全神話」である。

「トヨタ車なら安全だというイメージ」さえ消し去れば、電気自動車の時代になれば、技術的には「トヨタが相手でも決して勝てない戦いではない」。多くの競合企業がこんな風に考えたとすれば、今回のリコール騒動は、トヨタの「安全神話」を覆す絶好のチャンスと認識されることになる。いきおい、トヨタ攻撃には各国で熱が入る。

 もちろん、こうした競争環境をしっかり読みこんだ上で、今回の問題に早めの対応をしてこなかったトヨタ経営陣の責任は重い。

 いずれにしても、トヨタ・リコール問題から、中小企業経営者が学ぶべきものは多い。

(2010年3月7日筆)

(2010年/スモールサンニュース3月号より)

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