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第32回山口教授のコレが言いたい!2009年

7月 1st, 2014

リスケ支援の包括的な政策パッケージを!

 話題を集めた返済猶予法案については、スモールサンニュース10月号の巻頭対談で私の考え方を述べ、その後、そのニュースへの「補足」として一斉メールを配信した。今回は、その一斉メールを見損なったという会員諸氏のためにその「補足」を再掲するとともに、若干の更なる「補足」を記すことにしたい。

 さて、先の一斉メールでも記したように、いわゆる「返済猶予法案」は、私が国民新党で述べた主張にかなり近い形のものとなっている。その理由として、以下の3つをあげた。

モラトリアムではなく、リスケ推進

 その第1の理由は、「モラトリアム」を法的に強制するのではなく、「借り手から申し込みがあれば貸し付け条件等の変更をおこなうよう務める」という「努力義務」となったことである。

 私は、民間が自由意志で取り結んだ法的な権利義務を国家が強制的に停止させるのは「禁じ手」だとして、あくまでも「リスケ(条件変更)推進法」あるいは「リスケ支援法」とすべきだと主張してきた。結果的には、そのとおりになったと思っている。したがって、「返済猶予法案」というマスコミの呼び名も本当は正しくない。返済を猶予するのではなく、返済の仕方を組みなおす(リスケジューリングする)というのが、この「法案」の趣旨だからである。

法的強制ではなく、情報公開で

 第2の理由は、金融機関に「実施状況を定期的に開示(虚偽の開示には罰則)」するようを義務付けたことである。

 私は、金融機関にリスケ対応をしっかりやってもらうためには、法的強制ではなく、「金融アセスメント」の手法を使うべきだと主張した。それは金融機関の「努力」の度合いを「評価」したり、それを「公表」したりすることである。そうすれば、金融機関はいい評価をもらうために、あるいは悪い評価を避けるために、努力するようになるはずだからである。

 今回の法律では、「実施状況の開示」については、金融機関が金融庁に「開示」し、金融庁がそれを「国会」に「開示」する形になる。私は国民に分かりやすく「開示」することが肝要であると、国民新党で主張した。利用者の目を通して、望ましい金融機関を育てていくことが重要だからである。今回の法律の施行についても、この観点でしっかり見守っていくことが必要だと思っている。

検査マニュアルの見直し

 

 第3の理由は、「貸し付け条件を変更しても『不良債権』にはしないなど、金融検査マニュアルや監督方針を改定」するとしたことである。

 ニュース10月号のなかで「金融検査の在り方や方針について検討することが必要」であると述べたように、この点も私の主張と合致している。

 政府は、今回の法律施行に併せて、「利払いが続いていれば、不良債権扱いしない」といった項目を「金融検査マニュアル」に入れる方針である。実は、「金利さえ払っていてくれれば、正常債権だ」という考え方は、かつての銀行には一般的に存在していた。それが、小泉政権時代の金融庁の非現実的で画一的な「検査マニュアル」の実施によって変ってしまったのである。そういう意味では、金融庁は自分たちが始めたことを自ら「非現実的」と認めた形になっている。

 以上の理由から、今回の法案提出については、金融システムの改革に向けた一歩として私は評価している。しかし、政策の実効性という点では、まだいくつかの疑問符がつく。

サービサーやリース業者への指導を含む包括的な政策パッケージを

 その一つは、サービサーの問題である。取引金融機関が複数あった場合、そのうちのある金融機関がリスケに応じたとしても、別のある金融機関がその債権をサービサーにすでに売却してしまっていて、そのサービサーが債権の取り立てを始めたら、結局企業再建は困難になる。

 また、同様のことはリースについても言える。とくに製造業では、機械設備などをリースで調達している。したがって、金融機関がリスケに応じてくれても、リース業者がリスケに応じてくれなければ、借金の負担を十分に軽減することは出来ず、企業再建が進まない可能性がある。現状では、リース業者がリスケに応じることはまれである。

 政策の実効性を上げるためには、サービサーやリース業者への指導を含む包括的な政策パッケージが必要なのである。

中小企業担当大臣が包括的に政策を推進する体制が必要

 ところが、サービサーは法務省、リース業者は経済産業省の管轄下にあり、金融庁の管轄下にはない。

 また、ニュース10月号のなかでも、私は「信用保証協会が『リスケを行った企業への信用保証は基本的にダメ』といった態度に固執すれば、やはりリスケは進みません」と発言した。現在でもこの信用保証との関係で、「リスケに応じてもいいが、ニューマネーは貸せなくなりますよ」といって、事実上リスケを辞退することをすすめるような銀行が少なくない。

 したがって、信用保証制度のあり方を見直していく必要があるのだが、信用保証協会は経済産業省(中小企業庁)の管轄下にあって、金融庁ではない。金融担当大臣の手を離れた問題なのである。

 そこで、現在の省庁の枠を越えた包括的な政策パッケージをつくり、金融庁ではなく、官邸主導で事に当たる必要がでてくる。

 これは、個別企業の経営者の失敗をリスケで救おうという話ではない。それは、リーマンショックを契機とした経済環境の激変に柔軟に対応することで、無意味な倒産や失業を回避して日本経済の潜在的活力を守ろうとする、まさに国家的政策課題なのである。

 こういうときにこそ、縦割り行政の枠を越えて政策を推進していく中小企業担当大臣が必要なのだが、果たして鳩山総理はこのことを理解してくれるだろうか。

(2009年/スモールサンニュース11月号より)

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