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第30回山口教授のコレが言いたい!2009年

7月 1st, 2014

金融アセスメント法、再論!(1)
――中小企業経営者による“メイク・ドラマ”――

 「民主党政権誕生!」となってから、新聞や週刊誌の取材を受けた。その主なテーマが「金融アセスメント法」についてである。同法については、本ニュース冒頭の鼎談記事でも触れているが、スモールサン会員の中には耳慣れない言葉で戸惑いを感じている方もおられるかもしれない。そこで、私としてはすでに著書などで繰り返し述べてきたことではあるが、以下で簡単に「金融アセスメント法」について記しておくことにしたい。


『魂の中小企業』より

 本年7月、朝日新聞出版から『魂の中小企業』と題する本が発刊された。著者は朝日新聞デスクの中島隆氏。その8章に「金融アセスメント法」制定運動がドキュメント風に紹介されている。以下は、同書からの引用である。ちなみに、同書は朝日新聞夕刊(2009年1月8日~28日)に掲載された記事に加筆したものである。

 1990年代後半、日本中に、嵐が吹き荒れた。その貸し渋り、貸しはがしという悪夢の嵐が。その中で、中小企業経営者たちが「金融アセスメント法」の制定を求めて全国的な運動を起こした。中小企業や地域経済にどれだけ優しいか、銀行を格付けして公表するという法律である。もちろん、貸し渋り、貸しはがしをさせないのが狙いだった。

 運動は99年5月の夜、福岡・博多の居酒屋で産声を上げる。福岡県直方(のおがた)市で産業機器を販売する「紀之国屋」の会長、中村高明(68)、福岡市で封筒をつくる「福岡製袋工業」の相談役、吉田昭和(67)、ビル管理「創建サービス」の社長、堺光則(61)の3人が杯を重ねていた。

 話題は、その日の昼間にあった金融の専門家、立教大学の山口義行(57)の講演に及んだ。米国の法律を基に金融アセス法を思いつき、ひとりで国会を回って提唱していると話していた。名古屋の繊維問屋に生まれ、経営者の苦労をよく知る学者である。金融アセス法という発想も、「アントレ会」という愛知の中小企業経営者との勉強会での議論から生まれた。

「学者先生が、わしらのためにがんばってくれてる。立ち上がらなくてどげんする」
「西から風を起すばい」

 居酒屋の3人の意気は上がった。準備を進め、翌年秋、「福岡県中小企業家同友会」の理事長に金融アセス法を求める署名運動を持ちかけた。まずは福岡の企業を回り、2001年には街頭で署名集めを始めた。同友会は、中小企業の理想を考える経営者の交流会で、全国にある。運動のリーダー格になった中村は、各地の同友会に出かけていって「立ち上がろう」と訴えた。

 中村らの呼びかけに、01年から03年にかけ、全国の中小企業経営者が繁華街に立ち、署名を集めた。貸し渋り、貸しはがしをやめろという訴えは、道行く人の共感を得ていった。

 集まった署名は計101万。1004の地方議会が法制定を求めて意見書を国に出した。101万人署名は国会に提出された。  


きっかけは「アントレ会」~アメリカの「地域再投資法」を参考に~

 私は、愛知の若手経営者20名ほどとともに「アントレ会」(代表、木全哲也氏)と称する定期的な勉強会を組織し、経営問題だけでなく、マクロの経済・金融情勢を経営者諸氏が的確に把握できるようにと、すでに数年にわたって学習会を続けていた。

 貸し渋りの嵐が吹き荒れていた1998年、暮れも押し詰まった頃、アントレ会のメンバーからこんな電話をもらった―「私たちの方から、何か政策を提案するようなことができませんかね」。

 ただ愚痴を言っているだけでなく、中小企業経営者の側から問題解決につながるような政策を提案していくべきではないかという声があがってきたのである。

 そうした提案に応えるべく、あれこれと考える日々が始まったのであるが、私が最終的にたどり着いたのが、アメリカですでに施行されている「地域再投資法」(CRA:Community Reinvestment Act)であった。

 地域再投資法は金融機関に対し、地域で集めたお金はできるだけその地域の融資に回すよう促す法律である。つまり、アメリカではいかなる経営方針を持つ銀行であっても、地元への資金還流をまったく考慮しないで金融活動を遂行していくことは、それ自体一つのルール違反なのである。

 同法はもともと、人種差別・地域差別をさせないための法律として誕生したものであったが、クリントン政権がこの法律を中小企業向け融資の円滑化を促す手段として活用・強化していた。そこで、私はこの地域再投資法を参考にして、制度提案をしてみようと思ったのである。

 ちなみに、アメリカでは、たとえば金融持ち株会社の設置など金融機関があらたな経営展開をしようとするなら、基本的に2つのハードルを越えていなくてはならない。その1つは、自己資本比率10パーセント以上というハードル、そして今ひとつは地域再投資法における評価が「良好」以上――同法にもとづく調査では、金融機関は「優秀」「良好」「改善必要」「不合格」といった形で評価が示される――でなければならないというハードルである。

 私は、アメリカの地域再投資法に、日本独自の金融慣行上の問題の解決にも役立つような工夫を付し、法案「骨子」を作成した。そして、それに「金融アセスメント法」という名称を付したのである。


桜井議員との出会いで法制化へ

 

 私はその法案「骨子」を民主党の桜井議員に見せ、法制化に持ち込むことを提案した。当初は、参議院法制局の役人の抵抗にあって条文化が進まなかったが、担当課長が代わったこともあって半年後に条文が完成した。中小企業家同友会はその条文を参考にしながら、独自の「金融アセスメント法案」を作成した。以下再び『魂の中小企業』から引用する。

 民主党の参議院議員、桜井充(52)らが議員立法を目指したが、金融アセス法は、与党の抵抗にあって日の目をみなかった。それでも、政府も国会も中小企業の資金繰りに気を配るようになった。いまの経済危機でも、いくつかの対策が打ち出されている。民主党が政権をとった場合、金融アセス法が制定される可能性がある。…

 金融アセス法の制定に走り回った立教大の山口は、中小企業の経営者達に説いている。「いつまでも銀行の言いなりになっていていいんですか?金融の知識を身につければ、金利を安くしてもらえるかもしれないし、返済を猶予してもらえるかもしれない。ぜひ勉強してください」…

 金融アセス法の議員立法をめざした民主党の桜井も、打ち明ける。「もともとの職業は医者なので、金融や中小企業問題はまったく分かりませんでした」。国会内でたまたま山口の話を聞いて触発され、猛勉強したのだ。民主党の「次の内閣」の金融担当大臣になったこともある。「中小企業立国をめざす会」をつくり、銀行が融資してくれないような企業の再生も手伝っている。金融庁にはこう言っているそうだ。「あなた方が不良債権と認定したところを再生させてやる。あなた方の考えがいかに間違っていたか、俺が教えてやる」

 最後に、金融アセス法の制定運動を山口に総括してもらった。

「『たいへんだ、何とかしてくれ』と『お上』にすがるだけでなく、経営者が自分達で金融環境を考え、改善していくという意識をもってもらいたかった。まだ法律にはなっていないけれど、大きな成果があったと思う。中小企業の経営者の方々にあらためて申し上げます。金融を勉強しましょう」

 次回のこのコーナーでは、金融アセスメント法の内容や民主党の法案について具体的に紹介することにしよう。

(2009年/スモールサンニュース9月号より)

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