山口義行・公式WEB

Yamaguchi-yoshiyuki.net

第26回山口教授のコレが言いたい!2009年

7月 1st, 2014

若者の「消費者化」が、日本に危機を呼ぶ(1)
――中小企業後継ぎ難の背後にあるもの――

 スモールサン会員諸氏には一斉メールで事前にお知らせしたのでご覧になった方もおられると思うが、5月14日に放映されたテレビ東京の「ルビコンの決断」では、(株)ホッピービバレッジの後継ぎ物語を題材に取り上げた。

 当番組の顧問(?)でもある私は、この題材を取り上げるのであれば、ぜひとも「深刻化する中小企業後継者問題」に光を当てる形で番組作りを進めてほしいと提言した。番組スタッフもまったく同意見で、その方向で番組が作られることになった。もちろん、ご覧になった方々がどのような印象をもたれたかは定かではないが。

 私が上記のような提言をしたのは、周知のように、中小企業の後継者問題が日本経済を危機に陥れかねないほどに深刻化しているからである。なぜ後継ぎ難が起きているのか。ここでは、その背後にあるものとして、近年の若者を特徴づける1つの傾向――「消費者化」――に着目したい。


深刻化する後継者問題

中小企業庁の推計によれば、後継ぎがいないという理由で廃業に追い込まれている企業はなんと年間7万社にも及んでいる。その結果として失われる雇用は、毎年20万人から35万人にも達していると言う。

 04年の調査では、中小企業経営者の平均年齢は58.5歳。新規開業が少ない中、このまま経過すれば、10年もすると中小企業経営者の平均年齢は70歳に達する。そうなれば、後継者難を原因とする年間廃業社数は7万社をはるかに上回り、10万社をも大きく超えることが予想できる。

 言うまでもないことだが、日本の産業は中小企業が支えている。大企業も巨大な下請け中小企業群なしには存在しえない。その中小企業が後継ぎ難から次々に姿を消していくとなれば、日本経済は足元から崩れ始め、やがて貿易黒字も稼げなくなって国民は干上がってしまうことになる。中小企業の後継者問題はそれほどに重大なのである。

 ちなみに、私がスモールサンを立ち上げようと決意したのも、「後継者の育成」という課題を、自分になりに真剣に受け止めようとしたことがきっかけである。スモールサン立ち上げの前年、私は立教大学経済学部に「会社を引き継ぐ」という企画講座を立ち上げた。現在は、スモールサン・プロデューサーたちがその講座の講師を務めてくれている。

今の若者はなぜ親の会社を継ぎたがらないのか

 さて、最近の若者はなぜ親の会社を引き継ぎたがらないのだろうか。図1は、ニッセイ基礎研究所が調査した「子供が親の事業を継がない理由」である。

 そこに示されるように、その最大の理由は「親の事業に将来性・魅力がない」というもの。たしかに、近年中小企業をめぐる経営環境は大きく悪化し、倒産件数も高い数字が続いてきた。それを目の当たりにした子供たちが、親の会社を継ぐことに躊躇(ちゅうちょ)するのも至極当然のことである。

 経営者である親の側も、自分と同様の苦労をわが子に味わわせたくないという思いから、会社を継がせることに腰が引けている。したがって、事業承継問題を根本的に解決するためには、中小企業をめぐる経営環境の改善が不可欠であることは言うまでもない。

 しかし、ここで問題にしたいのは、「親の事業にはたしかに将来性・魅力がない。ならば、自分が会社を引き継いで、その将来性や魅力を高めてやろうではないか」というように、厳しい現状を前向きに受け止めようとする若者があまりにも少なくなってきているという事実である。私たちは、この現実にも対処を余儀なくされている。

(図表1) 子供が親の事業を継がない理由
graf_ssnews

 

若者の「消費者化」にどう対処するか

 私の職場は立教大学である。その立教大学の学生の中には、例えば早稲田大学を1年で辞め、あらためて入試を受けなおして立教に入学してきたという者がいる。

 「なぜ、1年で辞めてしまったの?」と聞くと、彼らは、大学に入ってはみたものの、「思ってたのとは違ってたから」と答える。

 私のゼミでも、入ゼミ後1ヶ月もしないうちに――言い換えれば、たった一度もゼミでの発表を体験しないうちに――ゼミを辞めたいと申し出てくる学生が毎年のように現れる。「なぜ?」と問うと、答えはやはり同じ。いろいろ期待してゼミに入ったものの、「思ってたのとは違っていた」からだと言う。同様のことは、入社後数ヶ月で退社してしまう若者たちにも見られる。

 こうした彼らの行動は、あたかもレストランに入って「思ってたのとは違っていた」と言って、別のレストランに入りなおす消費者と同じ。彼らはまさに「消費者感覚」で、自分の居場所を探しているのである。

 退ゼミを申し出た学生に、「思ってたのと違っていた」のなら、「思っていた」ようにゼミを変えようとは思わないのかと尋ねてみると、彼らはびっくりしたような顔をしてこう答える。「そういう発想は僕にはありませんでした」。

 親鳥が餌を口に入れてくれるのを待つひな鳥のように、そこに確認されるのは、若者たちの徹底した「受け身の姿勢」である。自分をとり巻く環境の変革に、自ら取り組もうする主体的な姿勢はそこにはない。

 そんな若者が増えていれば、中小企業をとり巻く環境がますます厳しくなり、「将来性や魅力」に乏しい事業が増えている中で、そうした親の会社を引き継ぎ、それを基盤に新たな事業創造に挑もうなどという前向きな姿勢を次世代に求めることも難しくなる。

 とすれば、中小企業の後継者難は今後ますます深刻化し、日本にやがて深刻な危機がもたらされることも避けられない。将来を憂う私たちには、こうした若者の「変質」とどう戦うかが課題になる。私はそんな気がしてならないのである。

 もちろん、一口に「若者」と言っても、人それぞれである。現実には、いろいろなタイプの若者がいる。それをひとくくりにして論じることには大いに問題があることもたしかである。また、会社を引き継がない若者の側の事情も、現実にはさまざまである。

 しかし、すべての問題を「個性」や「個別事情」に還元してしまって、私たちが何もしないでいるとすれば、それも問題であろう。

 中小企業の後継者問題は単に経営上の問題ではない。その背後には、若者の「消費者化」という時代を特徴づける社会問題が存在している。こうした認識に立って、私たちの世代が問題解決に積極的に取り組んでこそ、社会の活力も維持される。

 それはまた、私たちの責務でさえある。なぜなら、そういう若者を作り出したのは、何を隠そう私たち自身だからである。

 では、何をすべきか。特効薬のようなものは見当たらない。スモールサン会員諸氏は日々の経営実践の中で、後継者だけでなく、そんな現代の若者たちとどう向き合っておられるのか。ぜひ、皆さんの思うところをお聞かせ願いたいところである。

 私はと言えば、明確な答えを見いだせないまま、大学教師として日々若者たちと向き合う中でさまざまな教育実践を試みている。次回のこのコーナーでは、そのいくつかを紹介しながら、「現代若者考」にもう一歩踏み込んでみたい。

2009年5月5日執筆、「子供の日」に寄せて

(2009/スモールサンニュース5月号より)

山口義行・公式WEB

Yamaguchi-yoshiyuki.net