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第58回山口教授のコレが言いたい!2014年

12月 30th, 2014

 

国民の年金基金を危険にさらしてでも株価を上げようとする安倍政権
~この「暴走」を、国民は傍観していていいのか?~

 

年金積立金管理運用独立行政法人 政権支持率は株価に連動する――そう信じて疑わない安倍首相が、またも「暴走」を始めている。

国民の年金積立金で株を買って株価を引き上げようというのである。

これを受けて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は8月にも運用方針の見直しを公表し、以後日本株の購入を進めるという。

国民の大事な積立金を、時の政権が勝手に株価変動のリスクにさらす。そんな「暴走」を、私たちは傍観していていいのだろうか。

 

アメリカでも公的年金基金を株に投じることはしていない
~クリントン政権が試みようとしたが、強い批判を受けて断念~

GPIFの資産規模は130兆円にのぼる。現在、その基本ポートフォリオは国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産 5%というものだが、報道によれば、 国内株式の運用を20%位にまで高めようというのが安倍政権の方針のようである。それだけでも、10兆円近い資金が株式市場に追加的に投じられることになる。
しかし、そもそも公的な年金の積立金を株というリスク資産に投じること自体、本来は「禁じ手」である。国民の多くが株式投資に慣れ、巨大な株式市場を持つ金融大国アメリカでさえ、公的年金の積立金で株を買うことはしていない。それがいかにリスキーな行為であるかを、多くの国民が知っているからである。

1999年1月19日、アメリカのクリントン大統領が、一般教書演説で高齢化に対処するためとして公的年金積立金(1997年末6,555億ドル=約70兆円)の株式運用を提案した。しかし、当時FRB議長だったグリーンスパン氏をはじめ、各界からの強い批判を浴びて断念。以後、株式運用は行われておらず、現在も100%国債で運用されている。

リスク資産への投資が時として多額の損失につながることは、わが国の歴史でも実証済みである。GPIFの前身である年金福祉事業団が、バブル崩壊とともに不動産や株式投資で巨額の損失を負ったことは多くの国民が知っている。
GPIFのリスク資産比率は3割弱だが、それでもリーマンショック前後には巨額の損失を負った。2007年度の運用実績は5兆5,178億円の損失、2008年度には9兆6,670億円の損失だった。
また2011年度の運用実績は2兆6,092億円のプラスだったが、7~9月期には欧州危機に伴う世界的な株安や為替の変動で3兆7000億円ものマイナスになった。外国株式による2兆7350億円、国内株式による1兆1698億円の損失がひびいた。

国民の大事な年金の積立金を株に投じるのは邪道、止めるべきだ――こういってトップの「暴走」を諌める重臣は安倍首相の回りにはいないようである。残念ながら、クリントン大統領に対してグリーンスパン議長が果たした役割を黒田日銀総裁に求めるのは難しい。ちなみに、「トップの回りがイエスマンばかり」という体制がいかに危険であるかは、企業経営者なら誰でも知っていることである。

 

「政府の意図」が市場経済をゆがめる

多額の年金積立金を株に投じることの問題は、たんにそれがリスキーだということには留まらない。「企業経営に口をはさむ権利」でもある株式を、政府が管理できる資金で大量に保有することは市場経済に対する政府の直接的な関与を強めることになりかねないからである。社会主義的な計画経済や軍事政権下の統制経済ならまだしも、市場経済を基本とする資本主義国家では、これも明らかに禁じ手なのである。
アメリカで公的年金の積立金を株式に投じようとしたクリントン大統領が一斉に批判を浴びた理由の1つもここにある。日本でも、この点を問題視する声は少なくない。

GPIFは株式の運用を増やす見通しで、投資先への関与を強めて運用成績の改善を目指す。・・・ただ、公的機関が民間企業の経営への関与を強めることは、国策に沿った経営判断を民間企業に強いるリスクがある。GPIFが運用面での独立性を保てなければ、こうした取り組みが弊害を招くとの見方もある。(日本経済新聞2014.5.22)

安倍首相は、成長戦略を後押しするために年金積立金を株式市場に振り向けるのだという。この点に関し、GPIFの三谷隆博理事長は朝日新聞とのインタビューで下記のように答えている。

記者:運用資産見直しの議論では、経済を活性化させるために年金資金を活用すべきだという意見もありました。
三谷理事長:損失リスクを抑えながら、リターンを大きくするには、運用資産を分散することが基本になる。その中で、たまたま経済活性化に役立つという分野はあるにこしたことはないが、そっちから入るのはいかがなものか。(年金資金は)あくまでも現在と将来の年金受給者のためのお金だ。(朝日新聞2015.3.25)

政府から「独立的」であるべき日本銀行に対し、総裁任命権を行使して事実上自分の「言いなり」にさせたのが安倍首相。はたして、GPIFは今後「独立性」を維持できるのか、大いに疑問である。

 

株価上昇による資産効果は一時的
~海外投資家に儲けさせても日本経済の成長には役立たない~

公的年金の積立金を株に投じることで株価が上昇すれば、その「資産効果」で消費が拡大する。そうなれば経済成長にも貢献する――こんな「論理」で公的年金基金の株式投入に賛成する声もある。しかし、仮に目論み通りに株価が上昇したとしても、その資産効果一時的でしかない。

昨年の四半期別GDPは、第Ⅰ四半期が4.8%、第Ⅱ四半期が3.9%と大きな伸びを示したのに対し、第Ⅲ四半期には1.1%、第Ⅳ四半期には0.7%と大幅にスローダウンした。これは、年前半は円安の進行を背景に株価が急上昇したことで消費が刺激されたが、後半にはその効果も息切れし、消費の伸びが急速に鈍化していったことを示している。
また、現在株式売買に占める海外投資家の占めるシェア(金額ベース)は6~7割に達している。そこで、「年金マネーの存在をちらつかせて海外勢の新たなマネーを呼び込み、日本株の一段高につなげる」(日本経済新聞2014.6.14)というシナリオが描かれるのだが、これが果たして経済成長に寄与するのだろうか。

麻生太郎財務相は衆議院財務金融委員会で、株式市場の動向に関連して、「GPIFの動きが6月以降出てくる。そうした動きが出てくるとはっきりすれば、外国人投資家が動く可能性が高くなる」と期待をもって述べたという。しかし、国民の年金積立金を使って海外投資家のマネーを呼び込んでも、そこで儲けたお金は海外投資家によって海外に持ち去られることになる。これがなぜ日本の成長に貢献するのか。

最後に、年金積立金の株式投入で首尾よく株価が上昇するかどうかもわからない。というのは、株価にとっては今後下落圧力となる要因も少なくないからである。
1つはアメリカの量的金融緩和政策QE3の終了である。金融市場の資金的だぶつきがこれまで株価水準の引き上げに貢献していたのだとすれば、秋にも向えることになるQE3の終了は株価の下落圧力となって作用することになる。
また、銀行の株式保有にも圧力が加わる。国際的な取り決めによって、本年9月の中間決算から、日本の銀行は自己資本比率を算出する際、長期保有株のリスク量を2倍以上に見積もらなければならなくなる。単純計算では、3つのメガバンク・グループだけでも9兆円強の株式を吐き出さなければ、現在の自己資本比率を維持できなくなることになる。とすれば、これが株価の下落要因となる可能性もある。

いずれにしても、株価の上昇・下落にはさまざまな要因が絡む。そんな株価を公的な資金の投入で引き上げようとする発想そのものに無理がある。国民は、しっかりとした批判精神をもって、政権の策動をチェックしていく必要がある。

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