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第57回山口教授のコレが言いたい!2012年

12月 14th, 2014

“新政権に望む”
~今こそ「中小企業が発展できる国づくり」を!~

安倍晋三総選挙の結果を受け、安倍晋三政権が誕生する。
新政権にはぜひとも「中小企業が発展できる国づくり」を強力に進めてもらいたいと思う。そして、その手始めとして、とくに強く期待したいのが、“中小企業を織り込んだ成長戦略”を早急に策定することである。

もちろん、「成長戦略」の策定とその実施は、民主党政権下でも進められてきた。しかし、中小企業のもつ技術や提案力を正当に評価し、それらを成長戦略の中に積極的に位置づけることが十分になされてきたかといえば、必ずしもそうではない。
そこで、新政権には「中小企業の活躍」を明確に織り込んだ成長戦略をあらためて策定し、いつまでに何を、どういう方法で、どれだけの予算を投じて実施するのかという「工程表」を提示してもらいたい。


医療分野など、
中小企業の新規分野への参入を促すための「インフラ」を整備せよ!

たとえば、成長戦略として、医療の産業化や最先端医療の推進が唱えられてきた。
しかし、日本では、中小企業に医療分野への参入を促すような「インフラ」が未だ整ってはいない。

ドラッグラグ新たな医療機器が実際に製造販売されるようになるためには、「開発→治験→審査→承認」という過程を経なければならないが、日本の審査機関(PMDA、医薬品医療機器総合機構)に企業が治験に関する相談に行くと、その料金は1回2時間で240万円にものぼる。相談内容が多様になればなるほど、その金額は膨れ上がっていく。
さらに、「いつまで待てば認可が下りるのか」も分からないまま、資金力に乏しい中小企業からすれば、耐え難いほどに長期間待たされる。これでは、多くの中小企業は医療産業への参入を断念するほかはない。

ちなみに、アメリカでは審査機関は国の行政機関(FDA、アメリカ食品医薬品局)である。企業からの無料相談に応じたり、審査期間の短縮が図られている。これがアメリカ企業の医療分野での国際的優位性を支えている。

また、医療関係者と中小企業との情報交流のための「インフラ」も整備する必要がある。実際、「医療関係者がどのような技術を必要としているのか」という情報が乏しいために、意欲はあっても医療分野への参入が果たせないでいる中小企業は少なくない。
反対に、医療分野に応用できそうな、どんな技術を日本の中小企業が持っているのか、「それを知りたいが、知るすべがない」と嘆く医療関係者も少なくない。そこで、両者の情報交流の場を設置したり、ビジネスマッチングをコーディネートする専門家の育成などが新政権の課題になる。

もちろん、こうした施策は、けっして医療分野に限られるものではない。航空・宇宙分野や福祉分野など今後成長が期待される分野、あるいは農業など新たに中小企業の参入・活躍が求められる分野では同様に重要な政策課題となる。様々な施策で参入障壁を引き下げながら、情報交流やマッチングを推進する――新政権がこうした政策課題の達成にどれほどの力量を発揮できるか。私たちは強い期待を持ちながらも、厳しい視線でそれを見守っていかなければならない。

バイオ技術の活用など、中小企業の技術を活用した新エネルギー政策を実行せよ!

バイオマス成長戦略においては、新たなエネルギー産業の育成もきわめて重要な位置を占める。とりわけ「脱原発」が国民的要望となった現在においては、それをどう経済的発展に結びつけるかが課題となっており、この点においても、中小企業の技術力を積極的に取り込んだ施策が望まれる。

たとえば、スモールサン会員企業の中に、「(株)コンティグアイ」という企業がある。同社は従業員10人程度の研究開発型中小企業だが、この会社は草や木や紙くずなどセルロース系と呼ばれる繊維から、特殊な酵素を用いて、バイオエタノールを低コストで精製する技術を持っている。
非食糧型バイオエタノール (セルロース系) の精製については政府の補助金を使った研究が数多くなされているが、未だいずれも1リットルの精製コストを100円以下にすることができないと言われている。ところが、「コンティグアイ」は1リットル60円を切るコストでエタノールを精製できる技術を有しており、現在マスコミでも大いに注目されている。

ところで、読者諸氏は、エタノールを水に混ぜて透過膜を通すと、電気が発生することをご存じだろうか。
エタノールから水素イオン、水から酸素または水酸化物イオンが抽出され、それらが混ざることによって電気が発生する。いわゆる「燃料電池」の仕組みである。すでにバイオエタノールで電気を発生させる装置も開発されている。

そこで、政府が庁舎などにエタノール精製プラントとそうした発電装置を設置して、庁舎内で出されたシュレッダーゴミなどからエタノールを精製、それを用いた自家発電装置によって庁舎の使用電気の数%を賄うというのはどうだろうか。
さらに、同様の施設を設置した大型ビルなどにも補助金を出す。こうした推進策を実施すれば、脱原発、脱CO2への強いアピールとなって、それがさらなる技術開発を誘導することは間違いない。これこそ、成長促進策である。

ちなみに、本年夏に実施された環境省の実証実験で、「コンティグアイ」の技術が放射能の除染に活用できることが明らかになった。
というのは、同社の技術を用いて放射能に汚染された草木からエタノールを精製すると、その過程で放射性物質が分離され、精製されたエタノールには放射性物質が一切含まれていないことが判明したからである。

とすれば、政府がそうして精製されたエタノールを積極的に買い上げて、庁舎の発電に使用することは十分に可能だということになる。
これを実施すれば、被災地域はエタノールの売却益を得ながら放射能除染を進めることができる。

しかも、このエタノール精製過程で、汚染物質の容量は10分の1程度に圧縮されるので、汚染物の処理もはるかにやりやすくなる。現在、飯館村では同社の技術の実証実験を終え、事業化の構想が検討されている。

このように、脱原発、脱CO2を視野に入れた新エネルギー産業の育成を、中小企業の技術を織り込みつつ実施していくことは十分に可能であり、またそれが必要なのである。
問題はただ一つ、新政権がこうした事実に目を向ける「感性」や「能力」を持っているかどうかである。




コンテンツ産業で活躍する中小企業を積極支援して、日本のブランド価値を高めよ!

先日、スモールサンの海外進出プロデューサーで、シンガポール在住の上原正之氏から「私がよく行くCDショップからJポップのコーナーが消えたんです。とうとうKポップのコーナーに浸食されてしまいました」という話を聞かされた。

私は「これはヤバい!」と思ったのだが、読者諸氏はどうお感じだろうか。

企業の成長にブランディング戦略が必要なように、日本経済の成長にも「日本のブランド価値を向上させる」戦略が欠かせない。

韓国の映画やドラマを観ていたり、Kポップを日常的に聴いている東南アジアの国民が、サムソンのテレビや現代(ヒュンダイ)の自動車に親しみを持つようになることは容易に想像できる。また、「行ってみたい国として韓国を一番に挙げる」ようになるだろうことも想像に難くない。

シンガポールのCD販売店からJポップのコーナーが消え、さらに日本の映画やドラマがアジア諸国で観られなくなれば、これら諸国の人々の「日本へのあこがれ」が衰退し、日本のブランド価値が低下する。

それは日本への観光客の減少や日本製品の海外市場でのシェア・ダウンを引き起こしかねない。
新政権が日本経済の成長を本気で願うのであれば、こうした事態を真剣に憂慮し、具体的な対策を講じるべきである。

クールジャパンコンテンツ産業の発展が経済成長を促す効果があることは民主党政権下でも十分に認識されていた。
実際、経済産業省は「クール・ジャバン」という戦略を打ち出して、日本の文化やコンテンツの海外普及に取り組んできた。
しかし、日本のコンテンツ産業は米国に次いで世界二位の規模を誇っているにもかかわらず、その支援にかける予算は未だ韓国の10分の1でしかない。様々な補助金によって国家支援を受けた韓国のコンテンツ企業と海外市場で競う場合には、日本企業は大きなハンデーを負わされている。

コンテンツ産業には中小企業も多く活躍しており、その海外進出を積極支援して、日本ブランドの価値を高める政策が早急に実行される必要がある。それこそ、新政権の戦略性が試されるといってよい。

「アジアとともに発展する日本」を国家理念に!
~アジアとの良好な関係なしに、中小企業の発展なし~~

6最後に、新政権には「アジアとともに発展する日本」を、国家理念として国際社会に向けて鮮明に宣言してもらいたい。

尖閣問題をきっかけにした中国との関係悪化が、日本の製造業の活動を大きく減退せしめたことは各種の統計で明らかである。実際、両国の関係悪化が日本自動車の中国での販売を難しくして、関連する日本の中小企業の中国工場では一時生産活動が半減するという事態も発生した。
両国の関係改善が日本の中小企業の発展にとってきわめて重要であることは、もはやだれの目にも明らかである。これは中国経済にとっても全く同様である。
両国政府が国内のナショナリズムを煽っているかぎり、両国の経済的発展は大きく阻害されることになる。

また、現在、アセアンに日本、中国、韓国、インドなどが加わった「アセアン+6」という自由貿易圏構築に向けた動きが進行している。これを成功させていくことは、日本の中小企業の発展にとっても極めて重要である。

たしかに、中国、韓国とはそれぞれ尖閣、竹島という厄介な問題が存在しており、「良好な関係」を築いていくことは容易ではないかもしれない。
しかし、それら諸国を含むアジア諸国との良好な関係なしに、日本経済の発展も、中小企業の発展もないことを十分に認識しておかなければならない。新政権が、様々な英知を結集して、アジアとの良好な関係を構築してくれることを期待しないわけにはいかない。

「中小企業が発展できる国、日本」。その実現に向けた施策の実行こそ、今回の選挙で示された国民の負託に応える道である。
――新政権はこのことをしっかりと認識して、政策運営をあたってもらいたい。

(2012年12月17日執筆)

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